第918話 火曜日は洗礼式のリハーサル②
教会の馬車でアダベルと一緒に王立コロシアムへと移動した。
明日の洗礼式を前にして教会関係者が準備に走り回っているな。
外の屋台群にも人がいて、もう営業しているお店もあるね。
コロシアムの中に入る。
あれだ、ローマのコロッセウムっぽい施設であるよ。
真ん中にグラウンドがあって、周りに観客席が付いている。
天井は無くて吹き抜けだね。
もう私が立つ台とかは建てられていた。
「聖女さまは、式典が始まると同時に階段で台の上へ」
「わかりました」
式典の監督の司祭さんが指示を出してくれる。
この人、年越しのお祭りでも監督してくれたね。
私は階段を上がって台に登った。
台の上は結構広い。
六畳ぐらいはあるな。
「アダベルさん、竜になったままゲートはくぐれますかー?」
「むーりーっ」
コロシアムの入場ゲートは大きいけど、さすがに竜になったアダベルは通れなさそうだ。
「それでは、歩いて入場して、台の前で変身してください」
「わーかーったーっ」
アダベルはすたすた歩いてコロシアムの真ん中あたりで竜に変化した。
やっぱでっかいなあ。
「いいですね、ドラマティックですよーっ、アダベルさんが変身したタイミングで、聖女様は聖典を持ち上げて女神様のお言葉を宣言してください」
えーと前に出て、聖典を持ち上げてと。
本番じゃ無いので置いてあるのは普通の聖典だった。
「女神はここに新たな命の始まりを宣言する……」
宣言は良いんだが、目の前の馬鹿竜の目が笑っておる。
式典で笑うなよ~。
笑ってはいけないアダベル二十四時だ。
女神の宣言が終わったら、信仰の宣言を唱える。
静かなハープの曲が流れてきた。
良い感じだな。
「アダベルさん、もう一歩台に近づいてください、そうそう、良いですよ~」
アダベルのでっかい頭が台に近づいた。
しかし、でかいなあ。
女官さんがアダベルの足下の地面に塗料でマークを付けていた。
立ち位置マークだな。
私は机の上に聖典を置き、水差しを取った。
掲げるように持って、光魔力を発して水を聖別し聖水へと変える。
アダベルのでっかいあたまに乗り出すようにして、額に水をかける。
『つめたい』
「がまんがまん」
三回水をアダベルの額に掛けた。
『ふいたらだめか』
「だめ、じっとしてて、あ、舐めるのもだめ」
アダベルがべろりと舌を出して額から流れた聖水を舐めた。
『水だ』
「水だよ」
『味がするのかと思った』
聖水は普通の水だよ。
光魔法が籠もってるからアンデッドにぶっかけると消滅するけど、普通の生体にとっては水だ。
「はい、おっけー、この後、王様の挨拶があって、その後教皇様の締めのお言葉を貰って、式典は終わります」
『意外に長い』
「まあ、洗礼式だからね」
王様は何の挨拶をするのかな。
アダベルに市民権をくれるとか言ってたっけか。
王都を守る守護竜なんて史上初だからなあ。
王家も笑いが止まるまい。
この後、アダベルと一緒に監督司祭さんと細かい打ち合わせをした。
「すばらしい式典になりそうですね、マコトさま、アダベルさま」
「うん、そうかな」
「コロシアムの予約券は完売しました。招待客もいっぱいです」
「よかったね、みんなに祝福してもらえるよ」
「それは嬉しい」
アダベルはニッカリ笑った。
「本当はアダベルさまと蒼穹の覇者号、そしてペガサス騎士団で王都上空をパレードして欲しかったのですが」
「ちょっと派手すぎるわよ」
「盛りあがりますのに」
監督司祭さんは派手好きだなあ。
さすがにパレードまでは付き合えないな。
ちなみにペガサス騎士団は王家の航空部隊だ。
あまり戦闘力は高く無いので、王都の防衛部隊だね。
どっちかというとパレードとかの賑やかしの側面が強い部隊なのだ。
こっちの騎士団は近衛の傘下なので、一緒にパレードするとハゲが来るからのう。
「では、明日はよろしくおねがいしますね」
「かしこまりました聖女さま」
「そいじゃ大神殿に帰ろうっ」
私とアダベルはコロシアムゲートから外に向けて歩く。
コロシアム入り口あたりで、マルモッタン巨匠がお弟子さんと壁画を描いているなあ。
「お疲れ様です」
「おお、聖女さん、良い式典になりそうじゃな、ガハハ」
「何をやってるんですか?」
「壁画の描き足しじゃな、王家の軍勢の後ろにアダベルさんを描けとの依頼よ」
「おおー、私の絵が描かれる?」
「そうだとも、千年後も、ここに残るぞ」
「いいねえ」
アダベルはにっこり笑った。
「それで、相談じゃが、アダベルさんの背中に聖女さんを乗せて描いてもいいかな?」
「ええー、私、あまりアダベルには乗らないんだけど」
「蒼穹の覇者号を描きやすかい、親方」
「聖女さんの方が絵になるがなあ、どうするか」
「描かれると迷惑か、マコト?」
アダベルが心配そうに私を見上げてきた。
「そんな事は無いけど……。そうね、うん、いいわよ、マルモッタン師」
「そうかそうか、やはり聖女さんはアダベルさんの背中にのらないとな」
アダベルの背中に乗った回数は、たぶん孤児たちの方が多いと思うな。
そうかー、私の姿はアダベルと一緒に千年残るかあ。
なんか、ちょっと恥ずかしいね。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




