第905話 下町商店街で面白い子供と出会う
「魔物園は魔獣を展示する所じゃ無くて、売り買いする所みたいね」
「王都内に魔獣屋さんは開業できないから、形を変えてやってるみたいね」
考えた物であるな。
「王都なら貴族たちも気軽にテイム魔物を買えるし、怖いもの見たさに親子連れも来るわね、着眼点が良いわ、でもまあ、すぐ規制されそうだけど」
下町をカロルとぶらぶら歩きながら話をする。
いつも行くツバメ食堂のある商店街と違うのでお店が面白いな。
お、小間物屋さんで魔導具キットが売ってる。
『内職に最適、魔導インク付き』というポップが立っているな。
自分が立ち上げた事業が動いているのは良いね。
製品の廉価版ドライヤーも置いてあるね。
鍛冶部がせっせと作っている高級ドライヤーは王都中央通りあたりの魔導具店にならんでいる。
まだ、品薄で飛ぶように売れているらしい。
小間物屋さんの中で十二歳ぐらいの女の子が羊皮紙の前で悩んでいた。
ん、解らない所とかあるのかな?
「何悩んでるの? ドライヤーの魔法陣に解らない所とかあるの?」
私が声を掛けると女の子はきょとんとして、その後私の制服を見て歓喜の表情を浮かべた。
「おねえちゃんたち、魔法学園の人よねっ! 魔法陣詳しい?」
「カロルは専門家よ、なんでも聞きなさい」
「うわあ、天の助けだあ」
「なんでも聞いていいわよ」
カロルもふんわりと女の子に微笑みかけた。
「もうすぐ夏だからドライヤーから温風機能を外して、送風だけの奴を作りたいんだけど、どれが温風回路かわからないのっ」
「ああ、そういう時は、炎魔石の線をたどっていって、こことここの陣がいらないから」
カロルは収納袋から赤ペンを出して外す回路に印を付けていく。
というか、夏用に扇風機を作ろうというのか、子供なのに目端が利くね。
私は収納袋から悪戯書き用の植物紙ノートを取り出した。
「扇風機を作るなら、形も変えた方が良いわよ、ドライヤーの筒型だと使うのが大変だし」
「センプウキ!! 良い名前ねっ! さすが魔法学園生さまだわっ!」
やっぱ、手持ち部分とスタンドはいるよね。
前世の扇風機と違って羽は無いから、ダイソンの枠だけ扇風機みたいな感じで。
私はノートに外形を書いた。
「温風回路が無いから、もっと魔法陣は簡単にできるよね、だから、その分筒を大きくして風が出やすくして、あと、手持ちとスタンド、両方で使えるといいね」
「すごいっ!! おねえちゃんたち凄いっ!! このアイデア貰っていい?」
「いいよねカロル」
「まあ、マコトが良いなら良いわよ」
私はハサミを出して、羊皮紙を切って輪っかにする。
カロルが外周に魔法陣を書いていく。
丁度良い棒を女の子に出して貰って、ついでに何かのスタンドを流用する。
「風魔石はある?」
「ありますあります、うち小間物屋なので売るほどあります」
そうだろうなあ。
女の子が出してきた魔石を付けてスイッチ回路に魔力を通すと、ブイーンと涼しい風がふいた。
「ほわあああっ、こんな簡単に、これは売れますよ、ありがとうお姉さんたちっ」
「がんばってね」
「はいっ、お礼に何か欲しい物は無いですかっ、ほどほどの物なら差し上げますよ」
あんまり下町の小物屋さんに欲しい物は無いなあ。
「そうだ、ここらへんに美味しいお店はないかしら」
「ツバメ食堂以外ね」
女の子はぱん、と手を叩いた。
「よございます、この店の裏に私の叔母がやってる大衆食堂があるんですが、結構評判ですよ、ご案内いたします」
なかなかハキハキして面白い子だなあ。
「お母ちゃん、出かけてくるから店番おねがいっ」
「そうかい、いっといで」
私たちは女の子に案内されて路地裏に入った。
ちょうど小間物屋の裏にその店「ギンギツネ亭」はあった。
まだお昼にはちょっとだけ早いので空いている。
「おばちゃん、お客さんつれてきたっ」
「あらまあ、魔法学院の生徒さんじゃないか、どうしたんだい?」
「魔導具の設計の相談にのってもらったんだ、サービスしてあげてよ」
「はいはい」
人の良さそうなおばさんは微笑んだ。
カロルはメモに名前を書いて女の子に渡した。
「解らない事があったら学園に来て、教えてあげるわ」
「えっ、良いんですかっ! やったーっ!! ええと、カロリーヌ・オルブライ……。え、オルブライト商会のお嬢さんなんですかっ!!」
「だいたいそうね」
お嬢さんというよりCEOだね。
「うわうわ、大層な失礼を、すいませんすいません」
「良いのよ、魔導具キットは私も関わっているから使ってくれて嬉しくてね」
「オルブライト様が関わっていらっしゃったんですかーっ!!」
おばちゃんがランチプレートを持って来てくれて、空になったお盆で女の子をぽかりと叩いた。
「ポーラ、あなた、こっちの方は良く見たら聖女さまじゃないの、失礼よ」
「ふわわわわーっ!! 聖女さま、聖女さま、なんでっ!」
なんでって、魔物園の帰りだわな。
「よろしくね、ポーラちゃん」
「は、ははああっ!」
ポーラちゃんはテーブルに額をつける勢いで頭を下げた。
なかなか面白い子供だね。
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