第903話 カロルと一緒に魔物園を見物する
魔法学園前の停留所から下町へ乗合馬車に乗る。
この幌馬車は王都の中なら定額料金で乗り放題であるのさ。
カロルと横座りの座席に並んで腰掛けて王都を行く。
なんとなくカロルさんがご機嫌な感じだね。
私は二度寝したので眠い。
幌馬車なんで窓がついてないけど、後部の方は開きっぱなしで景色が良く見える。
春の王都って感じだねえ。
ポックリポックリ、ゴトゴトと幌馬車は行く。
魔法塔の付け根をかすめて下町に入る。
「今日は良い天気ね」
「行楽日和だね」
顔を見あわせて笑い合う。
うんうん、カロルとデートは心が弾んで楽しいね。
そっと手を重ねると彼女は握り返してくれる。
うぇひひひ。
ジーン皇国のもめ事とか、テスト期間とかだったので、なかなか仲を進める事が出来なかったけど、そろそろもうちょっとカロルと仲良くなってもいいなあ。
うんうん、なんか胸の奥が甘酸っぱい感じ。
「下町三丁目~、魔物園に行くならここで下りるといいよ~」
「あ、はーい下ります」
御者さんの言葉で私たちは下町三丁目で下りた。
わりと流行っている商店街だな。
ツバメ食堂とは筋が一本違う。
「あっちかな」
「そうね、あっちみたい」
家族連れや子供が遠くにある施設に歩いて行く。
私たちも手を繋いでそちらへ歩き出す。
魔物園は木で作った高い壁に囲まれていた。
魔物が逃げ出さないようにだろうね。
もぎりのおっちゃんに二千ドランクを渡して切符を売ってもらう。
意外に良い値段がするな。
カロルと一緒に鉄柵のゲートに入ると、臭い、ガウガウという吠え声もする。
結構な広さの場所に鉄製の檻が沢山あって、そこに魔物が入っていた。
「おおー、凶暴そう」
「黒豹の魔物ね」
キラーパンサー、ガドラガ大玄洞の八階から十階に生息だそうだ。
なんだか、強そうだなあ。
パンサー君はこちらを見てガウガウ吠えた。
大きめの首輪ががっちりはまっていた。
テイムされているのかな。
ガドラガ産の魔獣系の魔物が多いみたいだ。
植物系とか、昆虫系はあまり居ない。
捕まえにくいのと輸送しにくいからかな。
「すごいわねー」
「本物の魔物だから迫力があるね」
でっかいトカゲの居る檻、綺麗で炎をまとった鳥の檻、いろんな魔物がいた。
うお、トカゲが火をふきおった。
鉄の檻に魔法が掛かっているのか、炎は鉄格子を越えてはこない。
「ここらへんは火系の魔物ね」
「四属性の区分もあるんだなあ」
ゴブリンも居て、檻の中でしょぼくれて座っていた。
緑の肌に大きな鼻、人型の魔物が檻に入ってると変な感じだ。
「ブスブスブス」
「喋るんだ、君」
「コトバ、ワカル」
「そうかあ」
なんとなく哀れだけれども、しょうが無いか。
ゴブリン買っても用事無いしね。
どうも、魔物を売ってもいるようなので、値段も檻に付いている。
ゴブリン君は二万五千ドランクだそうだ。
「ゴブリン買ってどうすんだ?」
「貴族がさあ、ダンジョンに行く前に血祭りに上げて殺しになれるのにとか使われるんだぜ」
私のつぶやきを冒険者風の兄ちゃんが拾って答えた。
そりゃ、野蛮だなあ。
「君たち、魔法学園の生徒だろ、ガドラガの実習の時に俺が付き合ってやろうか?」
うはあ、ちゃらい冒険者だなあ。
ダルシーが音も無く出てきて、冒険者の接近を阻んだ。
「おっ、なんだお前っ!」
「マコト様に近づく事は許しません」
ちっ、と舌打ちをして冒険者の兄ちゃんは去って行った。
一昨日こいですよ。
「冒険者多いね」
「意外にね」
あとは家族連れや子供も多い。
しかし、色んな魔物がいるなあ。
見ていて結構楽しい。
「テイムしたい魔物とか居た?」
「うーん、あんまりなあ」
でかい猛獣系は飼うの大変だし、飯代もかさみそうだよ。
影犬とかの影魔獣はマイナーなのか居ない感じよね。
お、ユニコーンだ。
わあ、綺麗だな。
私の方に寄ってきた。
カロルの方には行かない。
あ、そうか。
「行こう、こんな淫獣は眼中無い」
「そ、そう」
処女厨の淫獣は駄目だ。
しかし、大型キメラとか、サイクロプスとか、でっかいのは居ないね。
せいぜい馬ぐらいの大きさまでだ。
魔物園の端っこに『ふれあいコーナー』という場所があって、柵の中で小さめの魔獣たちが放し飼いにされていた。
一角ウサギとか、スライムとかだな。
どれも黒い隷属の首輪をしていて安全らしい。
スライムの中にも針金みたいな隷属の首輪が入っていた。
排出できないのかね、あれ。
ちびっ子たちがギャアギャア言いながら一角ウサギやカビパラをなで回していた。
「首輪を付けると大人しいのね、うわ、ふわふわだ」
「もふもふもふ」
私とカロルもコーナーの中に入って一角ウサギをなで回した。
カビパラさんはゴワゴワしているな。
あまり肌触りが良くない。
「一角ウサギなら王都の外に居るから捕まえやすいわね」
「うん、でももふもふなだけであまり役には立たないっぽい」
「私も外の森で捕まえてテイムしてみようかしら」
「何に使うの?」
「錬金薬の試験」
わりかしやばげな実験動物目的だなあ。
「素直にモルモットをつかいなさいよ」
「それもそうね」
私の好きな人は、ときどき常識がぶっ飛んでいるのである。
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