第899話 深夜王都上空からディラハンを追う
がばっと跳ね起きた。
夢?
胸がドキドキと高鳴っていた。
びっしりと脂汗をかいている。
闇の中でハアハアと息をはく。
ディラハンが王都に入った。
確信に近い。
ただの夢じゃ無い。
私はカーディガンを羽織り、パジャマの襟にエイダさん直通ブローチを付け、ポケットに収納袋を入れて梯子を下りた。
205号室は真っ暗だ。
みんな寝ている。
起こさないように静かにドアを開けて廊下に出た。
今、何時だろう。
「エイダさん、今何時?」
【現在、午前二時二十五分になります】
草木も眠る丑三つ時か。
たったと小走りで廊下を走り、階段を駆け下る。
深夜の女子寮はとても静かだ。
「王都上空を哨戒します、エンジンに火を入れておいて」
【了解しました、マスターマコト】
地下階まで下りて大浴場を通り過ぎる。
大浴場は二十四時間空いてるから今も灯りがともっている。
洗濯場の横の通路に入り突き当たりのドアを開け階段を駆け下りる。
私が近づくと地下通路の扉が自動的に開き、両サイドの灯りがともっていく。
私は足に魔力を流し込み、全速力で地下通路を駆け抜ける。
格納庫の扉が開くと蒼穹の覇者号のハッチが開きタラップが伸びるのが見えた。
取り付いて駆け上がりメイン操縦室に飛びこんだ。
一瞬で魔導灯が付いてディスプレが一斉に灯った。
【出発準備完了です、マスターマコト】
「ありがとっ」
魔導頭脳は文句も言わないし、疑問も投げてこないから楽だね。
「蒼穹の覇者号、緊急発進! ディラハンを追います!」
【了解です、四番から一番ゲート開放します】
前方のゲートが次々に開いていく。
私は出力レバーを押し上げ操舵輪を前に傾けて微速前進。
トンネルの中をゆっくりと蒼穹の覇者号が動いていく。
着陸台の上まで来たら垂直上昇する。
森の向こうに深夜の王都が広がっていく。
深夜だから灯がともっている場所が少ないね。
王城も一部の場所以外真っ暗だ。
さて、夢でディラハンが出てきたのはどこだろう。
西の商業地区だ。
五本指の侵入経路がたしかそこだった。
「お茶を」
ダルシーが現れて私の袖机にお茶のカップを置いてくれた。
不意に現れたのでびっくりした。
「い、いたの?」
「マコトさまが行かれる所には私はおります」
そう言って一礼してダルシーは消えた。
ありがたい、暖かいお茶は落ち着く。
お茶を飲みながら、私は商業地区へと蒼穹の覇者号を動かしていく。
「エイダさん、魔導レーダー、ディラハンの魔力パターンで検知」
【魔導レーダー、サーチを開始します】
小型ディスプレイに王都のマップが表示され、レーダー範囲が回転しながら表示されていく。
ピッ。
あった、路上を北の方へ移動している。
ディラハンだ。
「追い詰める!」
【了解です】
ディラハンめ、王都に入ってきたのが運の尽きだ。
逃げ道はないぞ。
私は操舵輪を回転させて、ディラハンを追う。
船外カメラの映像に路上を走るディラハンの姿が映る。
奴の後方を警備騎士団のグレイの甲冑を着た二騎の騎馬が追っている。
騎士が蒼穹の覇者号に気が付き、振り返って手をふった。
魔導機関銃で攻撃……。
とも思ったが、ごみごみと民家が建っている王都では誤射が怖いな。
魔導ミサイルが使えれば一発なんだが、論外だ。
どうする?
警備騎士を拾って騎士団の本部に落とし人力で道路封鎖をしてもらうか。
空中からの攻撃手段が街中では使いにくい。
私は伝令管の蓋を開けた。
「警備騎士、後部ハッチを開ける、飛びこめ、そのまま騎士団本部に空輸する」
解ったとばかりに疾走する警備騎士のおっちゃんの方が手をブンブンと振った。
騎士たちの前に向けて飛空艇の高度を落としていく。
【高度0.5クレイド、対地速度四十五クレイド】
「後部ハッチ展開」
【後部ハッチを展開します】
後方でガチャンとハッチの開く音がした。
出力を絞り、速度を落としていく。
ディスプレイに二騎の騎士が貨物室に飛びこむのが映った。
【警備騎士、二騎、格納完了しました】
「ありがとう、ハッチ封鎖」
内部伝令管の蓋を開ける。
「騎士さん、このまま、空輸する、本部に着いたら護衛騎士団で道路封鎖を願います」
『解った、聖女さん、協力に感謝する』
『いやあ、凄いっすね、リューグ隊長、蒼穹の覇者号に乗れるなんて』
『無駄口を叩くな』
リューグ隊長か、スラムへの殴り込みの時に見た顔だね。
私は出力を上げ、建屋を縫うようにして高度を上げ速力を上げた。
戦闘速度を出すと魔力の燃費が悪いのだけど、そうは言ってもいられない。
私は加速して警備騎士本部を目指す。
程なくして警備騎士団本部が見えて来た。
夜番が居るのだろう、本部に灯りが見える。
私は建屋の前へ高度を下げた。
「エイダさん、後部ハッチ展開」
【了解しました】
伝令管の蓋を開ける。
「リューグ隊長、当機は着陸はしません、飛び降りてください」
『了解した聖女さん、助かる』
貨物室で器用に騎士達は馬を回頭させた。
後部ハッチが開いていく。
蒼穹の覇者号は着陸しない。
地面すれすれをターンしていく。
『聖女さん、俺たちは主要道路を封鎖する、あんたは飛空艇でディラハンを追跡してくれ』
「了解しました」
二騎の騎士達は後部ハッチから飛び降りて、本部に駆け込んでいった。
私は出力を上げて空に再び舞い上がる。
しかし、警備騎士団だけでは人手が足らないな。
大神殿へ聖騎士団を起こしに行くか。
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