表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/1512

第89話 その名は極大射程のエーミール

 カロルと二人で王都のメインストリートをぶらぶらと歩く。

 行きは馬車で来たのだけれど、そんなに学園まで遠いという事は無い。

 大体の施設はメインストリート沿いにあるしね。

 魔法塔は王都のどこからでも見える割に意外に遠いけどね。


 そして、王都の真ん中にどどんとあるのが王城だね。

 王城はヒューム川から水を引き込んで水堀としているので、外周を散歩すると気分が良いのだな。


 カロルと二人で歩くと楽しいなあ。

 なんだかうきうきするよ。

 カロルの方へ目をやると、目が合って、お互いはにかんで視線をそらす。

 うふふふーっ。

 たのしいたの……。


 いきなりダルシーが私の前に出て、血を吹いて倒れた。

 肩にボウガンの矢、ボルトが突き刺さっていた。


 無詠唱で障壁を掛ける。

 次いで、ダルシーの肩に手をあて詠唱。


『ハイヒール』


 ダルシーの肩のボルトが抜けて傷が塞がっていく。


 ゴシッゴシッと障壁にボルトが突き刺さる。


「アンヌッ!!」


 アンヌさんが出てきて、カロルの差し出した弓矢を受け取る。


 ダルシーはカハッと血を吐き出し立ち上がる。


 アンヌさんは長弓を引き連射する。


 遠い時計塔の上に着弾、爆発する。

 錬金の起爆矢だったようだ。


 時計塔の上に、小洒落た服を着た男が立っていた。


 障壁をもう一枚外側に張る。


「脅威認定S! ポッティンジャー公爵家十傑衆! 極大射程マキシマムレンジのエーミールを確認!」


 ポッティンジャー公爵家の刺客かあっ!

 うちのダルシーに何してくれるんだっ!!


「十傑衆! もう出してきたのっ」


 エーミールという、お洒落男はボウガンを構え、発射し、取り替え、発射する。

 ガシガシと障壁にボルトが突き刺さって砕ける。

 もう一枚、張る。


「くはははっ、守るだけかっ、偽聖女っ!!」


 ボルトが雨あられと降り注ぎ、バリンバリンと障壁が割れていく。


「お嬢様、爆裂矢の残弾は?」

「五本! どうする?」


 ダルシーが前に出た。


「私が重拳でとびこみます、アンヌはその間に距離をつめて接近戦をっ」

「罠だ、遠距離戦の奴が姿を現している、時計塔には兵が伏せられていると推察する」

「しかし、このままでは、マコトさまも、カロリーヌさまも……」

「焦るな、悪い癖だ」


 私は単光分子をリング状に発した。

 時計塔方面以外に伏兵は無い。


「時計塔の下に軽甲冑兵四十三人、屋根の上に弓兵十二、装備はショートボウ」

「典型的な誘い出しね」

「というか、下がって逃げちゃえばいいんじゃない? 伏兵はいないみたい」

「……、それもそうね」


 私たちは障壁を張ったまま、じりじりと後退した。


「え、あ? 逃げるのか、偽聖女って言って威張ってんだろっ、お前、それで良いのか!?」

「うるせえ馬鹿! 見え見えの罠に入る馬鹿がどこにいるかっ!!」


 風魔法で音をつなげているのか、遠くの時計塔なのに声が通じる。


「そうかそうか、つまりおまえはそんなやつなんだな」


 なんだとーっ!


 その台詞を聞いたとたん、私の頭に血が上った。

 ああ、誘いとは解ってますよ、解ってますとも。

 だがな、日本で中等教育を受けた人間は、エーミールと名乗る人間に、そう言われると、必ず切れてしまうんだ。


 てめええっ、エーミールっ!!

 ちゃんと謝ったろうがっ!!

 なぜ、そんな煽るような事をいうんだっ!!

 大事な蝶の標本を壊した私が悪いんだけどさっ!!

 取り返しがつかない事をしたけどさっ!!

 言い方ってもんがあるだろうっ!!


 もちろんあいつはこの世界のエーミールで、蝶のコレクションとかもしてないし、私も奴のクジャクヤママユをポケットに入れて砕いたりはしてないさ。

 だがな、エーミールという名前の奴が、『そうかそうか』と言ったら、それは戦争開始の号令なんだよっ!!


「あいつ、ぶっ殺す」

「え、マコト、何言ってるの?」

「ダルシー、重拳で私の体重をどれくらい減らせる?」

「え、ええと、二割ほどですっ」


 他人に掛けると、そんなものか。

 でも二割で問題無い。


「何分持つの?」

「三分ほど」


「危険です、おやめください、マコトさま」

「そうよそうよ、危ないわ」

「やる、議論の余地は無いっ、ダルシーッ、重拳っ!!」

「は、はいっ!」


 ダルシーの拳がコツンと私の胸にあたった。

 ふおっ、体が軽い。


「アンヌさん、私が時計塔へ近づき、ショートボウの間合いまで来たら、爆裂矢で牽制してください」

「し、しかしっ!!」

「やるったらやります、久しぶりに切れちまったぜ」

「先ほどのやりとりのどこに切れたか、まったく理解ができないわ」


 うるさい、カロル、これは、エーミール絶対殺す勢としての宿命なのだっ。


 私は障壁を前面に掛けて、飛び出した。


「おおっ、やるきかっ! そうかそうか、つまりはお前は馬鹿なんだな、かかかっ!!」

「うるせえっ!! お前は絶対にぶっ殺す、エーミールめっ!!」


 体が軽いので、どんどん速度があがる。

 ボルトが飛んでくるが、除雪列車のように角を付けて前面をとがらせた障壁に方向を曲げられて、私の後ろに飛んでいく。


 エーミール絶対ぶっ殺すっ!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「少年の日の思い出」ですね。あのストーリーにモヤモヤしたものを感じていただけに今回は大笑いしてしまいました。あのエーミールは被害者だった筈なのに彼の性格から加害者にしか見えませんでしたから…
[良い点] 10人もいるんだ……
[良い点] 「そうかそうか、つまりおまえはそんなやつなんだな」 間違いないですね! これは殺しても許されます! やったれマコトぉぉーー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ