第8話 鍛錬場で、魔法の無限の可能性を追求してみたり
魔法学園の体育館の一角に、鍛錬場がある。
魔法の練習をしたり、武道の練習をしたりする所だね。
私たちが鍛錬場に入ると、魔法の練習をしていた上級生の人たちがこちらを見た。
「おう、美男、美女の一年生、カワイイねえ」
「おい、やめろ、辺境伯の次男と魔法卿の長男、汚辱の錬金令嬢と、噂の金的令嬢だ」
「ど、どういう組み合わせだ、ずいぶんハイクラスな四人組だが」
金的令嬢はやめんかい、先輩方。
あと、カロルに汚辱とかつけんな、ぶっとばすぞ。
「で、カーチスは、何が見たいの?」
「まずは、マイケル卿の目をくらませた魔法だな、あれはなんだい」
「ライトの魔法だよ」
「ライトだったの?」
「ライトは……、あのように光らない……、伝承では、もっと小さい……」
「普通だったらね、ライトを閃光にするコツがあるんです」
そう、言いながら、私はライトを詠唱して打ち上げた。
「うむ、文献にあるライトだな、松明代わりにしかならないと聞いた」
「べ、便利は……、便利だ、ランタンを持ち歩かないですむ……」
私は、ライトの魔法に倍の魔力をさらに注ぎ込んだ。
パシュッ。
軽い音を立てて、ライトの魔法は崩壊し、閃光を発した。
うおっ、自分でやってもまぶしい。
「魔法に魔力を過剰に注ぎ込んで、術式を壊しているの?」
「そうだよー、カロルが正解、マイクーには三倍魔力のライトをお見舞いしてやりましたが、実験では十二倍魔力までできたよ」
「十二倍って、どんだけ光るんだ?」
「それはそれは光ります。六倍を超えると相手を失明させてしまうので、実用は三から四倍だね」
「まじか! これは戦争で使えるなっ!」
「冒険、でも使える……、魔物も視覚を頼りにしている奴が多い……」
「魔術の崩壊を利用するなんてどうして思いついたの?」
カロルが不思議そうな顔で質問してきた。
「神殿で、似たような事をしているシスターがいて、まねして開発したんですよ」
「シスターが何をして? 治癒魔法を崩壊させていたのか?」
「火魔法を崩壊させて、爆発させて、轟音で暴漢を怯ませていたんだよ」
「火魔法だと、お、俺にも使えるか!」
うお、カーチス兄ちゃんが食いついた。
そういや、あんた火属性でしたね。
「カーチスは火属性だったっけ、できると思うよ、ファイヤーボールを崩壊させればいいんだから」
「やってみよう、やってみよう、術式に魔力を多くつぎ込めばいいのか」
「そうだけど、爆発は危ないので、少し体から離してやってみて」
「お、おう。エルマー、火が出たら、消火をたのむぜ」
「わ、わかった……、その、カーチス……」
「呼び捨てでいいぜ、俺もエルマーって呼ぶから」
「う、うん」
エルマーは頬を染めて、少し嬉しそうだ。
彼、コミュ障だしなあ。
『ファイヤーボール』
ドカーン!!
カーチスの五メートルほど先で、ファイヤーボールが轟音を立てて崩壊した。
「すげえ音だっ! これは良いな、魔力も大して使わないし」
「爆発の威力自体は少ないんだね」
「マコトありがとう、こりゃあ良い、戦闘の最初に使えば、敵が怯む。良いなっ」
ふむ、火の轟音と光の閃光を組み合わせると、即席のスタングレネード魔法ができそうだな。
続けて、エルマーとカロルも崩壊技をやってみたが、水魔法はしぶきが飛び散るだけだったし、土魔法の石つぶては、破裂しただけだった。
「水と土は、あんま使えないな」
「普通に氷弾を撃つ方が……、強いな、残念……」
「土も普通にストーンバレットを撃った方が良いみたい、散弾にする意味がないわ」
まあ、どんな属性でも崩壊させて良い結果が出るわけじゃないよね。
というか、土魔法の散弾は、鳥を落とすのに使えそう。
あ、そうだ、水なら、あの現象が使えるのでは?
「エルマー、水を沢山発生させる魔法ってあるよね」
「うん……、『クリエイトウォーター』……」
エルマーは手から水をジャバジャバ出した。
「水を出すときに、圧はかけられるの?」
「圧? うーん……」
エルマーの手から出る水が勢い良くなった。
ふむ、それなら。
「水の出てくる口を、凄く小さくできるかな?」
「意味が……、わからないのだが……、そんな事をしても……、意味が」
「水の出てくる口を、想像して、髪の毛の幅の半分の半分まで小さくするの」
「そんなことをして……」
「多分危ないから、あの標的の案山子に向けて、ためしに撃ってみて」
「こんな細い水流なんか……」
ぶっしゃーと髪より細くなった水流は案山子を真っ二つに切り裂いた。
「おー、成功成功、水流カッターじゃ」
「な、なんでだ」
「なんで……」
「水でしょ、なんで切れるのっ?!」
「超高圧で噴射された水は、すべての物を切り裂くのよっ」
SF漫画とかで良くある奴ですね。
超高圧水圧カッター。
前世では、実際に工業でも使われていたはず。
エルマーは熱に浮かされたような目で、水流カッターで案山子をすぱんすぱんと切っている。
「なんだろ、なんだろ、凄いよ、凄いよ、こんな魔法初めてだっ!! マコト、君は凄いよっ!!」
うわ、エルマーが盛り上がって、言葉が流暢に出てきた。
生き生きとした表情だと、エルマーも16才相応の少年みたいで、可愛いな。
「ねえ、土は、マコト、土の凄い魔法は無いのっ」
「えー、カロルはチェーン君が居るからええやん」
「いやよ、新しい凄い魔法知りたいのよ、知りたいのようっ」
「考えて、おくよう……」
うわあ、魔法の事になると、みんな食いぎみにグイグイくるね。
「すげえなマコトは、さすが次代の聖女さまだな」
「水流で切断できる理論を解き明かして、論文を書こう……」
「土魔法の方も考えておいてねっ」
「はいはい、みんなで食堂に行こうよ、お腹がすきました」
「あ、そうだな、みんなで行くか、エルマーも行くだろ」
「論文を……、書きたい、けど、行くよ、カーチス……」
「よっしゃ行こうぜ、マコトとカロリーヌには俺がおごるからよ」
「ごちになりまーす」
「マコトは別の意味でも凄いわね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
上級食堂は閑散としていた。
もう、十二時半だしね。
上級食堂は校舎の最上階にあって、窓から王都の町並みが見える。
インテリアも素晴らしい。
一流レストランのような豪奢な環境で、上流貴族様たちはランチをお食べになるのですね。
おほほ。
「私はランチプレートのAをください」
「かしこまりました」
食堂で働いているメイドさんも、美人揃いだなあ。
みんなランチプレートにしたようだ。
三十分ではフルコースとか食べられないものね。
というか、ランチでフルコースがある上級食堂がおかしすぎるっ。
プレートが来たので、さっそく食べ始めた私を、カロルがチラリと見た。
大丈夫だよう、テーブルマナーは前世でもやったし、男爵家と大神殿でも教わったし。
私が綺麗に食べていたので、他三人はなんとなく、ほっとした空気をかもしだした。
もぐもぐ、ハンバーグおいしい。
パンは……ひよこ堂が上だな。
営業かけるように、クリフ兄ちゃんに勧めるべきか。
カーチスはグラスワインとか飲んでいやがる。
エレガントでございますね。
「さて、それじゃあ、聖女派閥の立ち上げに乾杯だな」
へ、何言ってやがりますか、このカーチス兄ちゃんは。
「聞いてない」
「言ってないからな。エルマーも入るか?」
「ふむ……、こ、この魔法の才能が……、失われるのは、惜しい気がする……、実家を説得しよう……」
「何、言ってるの? 派閥とか作らないよ、私」
「マコトは、カロリーヌ嬢と一緒に死ぬ気か?」
「し、死ぬって、なんで?」
「ポッティンジャー派閥にすり潰されて死ぬのか?」
「し、死ぬって、そんな、大げさな」
「今、お前の後ろ盾は、神殿だ。だが、神殿は学園内に兵隊を持ってない。という事は一年もしないうちに、マコトとカロリーヌ嬢はポッティンジャー派閥の誰かに殺される。絶対だ」
「え……?」
なにそれ、コワイっ。
「ポッティンジャー公爵領は、元はメンゲル王国という、別の王国だったんだ。アップルトン王国と戦争になって、メンゲル王国の重鎮貴族だったポッティンジャー家がアップルトンに寝返った。かの家は、その功績で伯爵となった。その後、三代かけて、順調に出世して、王家に食い込み、公爵にまでなった。そして今回は第一王子と娘を婚姻させて、ポッティンジャー家は王妃の外戚となり、この国を飲み込もうとしてるんだぜ」
重い、重てー、なんだそのガチの内乱フラグはっ!
「ポッティンジャー公爵にとって、早く潰しておきたいのは、錬金薬品の利権があるオルブライト家と、神殿の力を限りなく高める、聖女のお前だ。だから、俺たちは、二人を守るために派閥を作る。それが国のためになるからな」
「ま、マジ? このまま穏便にしていたら、普通に笑って卒業とかできない?」
「無理だ」
「ど、ど、どうしてよう」
「おまえ、ビビアン嬢に喧嘩売っただろ、お気に入りのマイケル卿の金的を潰して、学校中の人気者だ。報復が無いとでも思っていたのか」
そ、そりゃあ、その、喧嘩を思い切り売ったなあ、とは思ったけど、こここ、子供の喧嘩じゃーん。親が内乱上等で報復に動いてくるとは思わないじゃないですか。
見誤っていた。
ポッティンジャー公爵のヤバさを見誤っていた。
なるほど、ルートエンドで、悪役令嬢のビビアン嬢が刑死させられるわけだ。
ビビアン嬢は婚約者をとられた嫉妬で暴れる、というよりも、公爵家の王国乗っ取りの陰謀を後ろ盾に突っ走っていたのか。
「まかせろ、聖女派閥が大きくなれば向こうも怯む、なかなか動いてはこれなくなるはずだぜ。あと、公爵側には、すげえ強い奴らがゴロゴロいるからな。楽しみだぜ」
そういって、この戦闘馬鹿は、にやりと笑うのだ。
「だ、大丈夫……、僕も、マコトに教えて貰った、水流カッターで……、守るから」
「エルマーまで、無茶したらだめだよ」
「うん……、気を付けるよ……」
「ごめんね、マコト、面倒な事に巻き込んじゃって……」
「あ、そっちは気にしないでよ、カロル。私は、同じ事が百回あったら、マイクーの金的を百個潰すわ」
「マコト……、いい話が台無しよ」
そう言って、私の愛するカロルはため息をついた。
なんでよっ!