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第894話 カロルを口説きながら晩餐を食べる

「カロル、明日どっかいかない?」


 晩餐を食べながら私はカロルに言った。

 カロルはいぶかしげな視線を私にくれた。


「マコト、日曜日は処刑を見に行くとか言ってなかった?」


 ……。

 忘れていた。


「ごめん、行かなきゃだわ」

「一緒に行ってあげようか?」

「そうだなあ」


 カロルが居ると心強いが、あんまり愛する相手と行く場所では無いなあ。


「マダムエドワルダさまの処刑、ですの?」

「そうよメリッサさん」


 メリッサさんは気落ちしたようにしょんぼりとした。

 そして思い切るように顔を上げた。


「あのっ、最後にお話とかできませんでしょうか」

「エドワルダさんの処刑は教会主導だから可能よ」


 まあ、可能は可能だが、最後では無いのだよなあ。


「マダムエドワルダさまは私の憧れでしたから、一言だけでもお話がしたいです」

「んじゃ、行こう」

「私も付き合うわ、処刑場は二人では危ないし」


 デートのつもりが、違ったけど、まあ、心強いから良いか。


「告解とか、懺悔とか聞くの?」

「しないよ、そういうのは別の部署のお坊さんが担当してるから」

「ざ、斬首ですか?」

「縛り首」


 メリッサさんが「ひい」と呻いて真っ青になった。

 君ね、斬首の方が血が出るから怖いよ。


「罪が罪だから処刑まで早いですわね」

「大規模な麻薬禍だったからね、王府も早く決着を付けたかったんでしょう」


 今日の晩餐はミートローフ、タマネギスープ、チシャのサラダだった。

 パンはいつも通り黒パンである。


「そういえば、アントニアさまはどうなったのかしら?」


 アントニア……。

 ああ、ラリってた薬中のお馬鹿さんか。

 ヒルダさんが顔を上げた。


「アントニア・パターソンの実家は取り潰しになりました。下町でふらふら歩いていた目撃証言がありましたわ」

「まあ、何人もの生徒を破滅に追いやったからね、しょうがない」


 麻薬絡みで結構な数の貴族の家が潰され、貴族の嫡子が何人も謎の病死をし、自殺者も相次いだからなあ。

 まったく山高帽のせいで王都は大混乱だよ。

 アントニアさんは生きているだけでも儲けものだと思うね。


「マコトは何しに行くんだ?」

「ちょっと野暮用」


 カロルが、おや、という感じに眉を上げた。

 なにげに君は鋭いね。


 私たちはなんだか黙って晩餐を食べた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 いつも通り、朝起きて、ダルシーのお茶をコリンナちゃんと飲んだ後に、食堂に行って朝食を取る。

 今日はナッツポリッジである。

 うまうま。


 ロビーでメリッサさんとカロルと待ち合わせて寮を出る。

 コリンナちゃんもなんだか付いてきた。


「しょ、処刑を見に行くのは、は、初めてで、怖いですわ」

「あんまり見て楽しいものでも無いからね」

「でも処刑は人気なんだよなあ」


 コリンナちゃんが呆れ声を出して、そう言った。

 そうなんだよなあ、公開処刑は庶民の娯楽なのである。

 罪人が無残に殺される所を庶民は歓声を上げて見て楽しむのだ。

 怖いもの見たさと、世界には正義があるのだと実感したいのだろう。

 わりと中世あたりの時代だと死が前世よりもずっと近いしね。


 メリッサさんは青い顔をしてブルブル震えていた。

 それでもマダム・エドワルダに会いたいのね。

 憧れで恐怖を乗り越えるのだろう。


 処刑は王都の中央広場で行われる。

 私たちが着くと、もう広場は大変な人だかりであった。

 私たちは人混みの中ではぐれないように手を繋いで歩いた。


 ちょうど、マダム・エドワルダとダガン子爵の処刑のタイミングであった。

 刑士が朗々と二人の罪状を読み上げて、首に縄を掛けた。


「あ、あっ、お話を……」


 メリッサさんが処刑台に乗った二人をみて青くなった。

 頭に麻袋を被せられて、男と女としか見えない。


「……」


 後ろを振り返った。

 私たちの後ろにリンダさんが二人のローブの人物を連れてやってきた。

 うわ、超怪しい。


「マコトさま、時間を間違えなされましたの、もう、お話ができませんわ……」


 私はメリッサさんの袖を掴んで、後ろを示した。


「マダム、この子あなたのファンなんだって」


 ローブの人物の背の小さい方が頭を下げた。


「ありがとう、嬉しいわ」

「えっ、えっ」


 ローブの人物がメリッサさんに顔が見えるように頭の布を少しずらした。


「あっ!」


 彼女は口に人差し指を当てた。


「マコト、あれは誰なんだ?」


 コリンナちゃんが私に聞いてきた。


「さあ? なんかの重大犯」

「継子殺しと偽金作りです」


 リンダさんが小声でぼそぼそと言った。


 刑士が踏み台を蹴り倒し、重罪人二人はぶらんとぶら下がった。


「自分の処刑をこの目で見るのは、なんとも変な気持ちですわね」

「全くです」


 マダム・エドワルダとダガン子爵はそうつぶやいた。

 メリッサさんは、ああっと感嘆の声を上げてマダム・エドワルダの手を取って、泣いた。


 処刑が終わり、潮が引くように庶民のみなさんは中央広場から出ていく。

 メリッサさんとマダム・エドワルダはじっと手を握り合っていた。


「どうするのマコト、この人達」

「地獄谷で匿うよ、死なせちゃうには惜しいし」

「まったく、マコトはよおっ」


 コリンナちゃんがしかめっ面でそう言った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 教会的に言えば、生まれ変わりですねえ
[気になる点] あぁ。880話で二人地獄谷送りにするって言ってたのはこの二人でしたか。 本編では別々に登場していたのでセットで「二人」と言われてもピンと来なかったけど、確かに麻薬禍の主要人物の二人でし…
[一言] マコトさんはシミュレーションゲームでキャラコンプしないとダメな性質なのかな? わかりみではあるんだが。
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