第890話 BBQの準備も大変だ
蒼穹の覇者号の螺旋階段を下まで下りて貨物室から外に出た。
「マコトさまー、ハッチを開けてくださいませー」
「こっちよ、メリッサさん」
船の真ん中辺りで声を掛けていたメリッサさんを後ろから回って呼んだ。
「あら、後部からでしたか」
「バーベキューの下ごしらえにキッチンを使ってるだけだからね、後ろから出入りです」
ハッチからだと、廊下の分長く歩くのだ。
【テーブルと椅子も下ろしますか?】
「あ、おねがいします、エイダさん」
【了解です、マスターマコト】
蒼穹の覇者号の脇からマジックハンドが出てきてガチャコンとテーブルと椅子を下ろしていた。
ダルシーが受け取って芝生の上に設置する。
メリッサさんがテーブルの上にフォンデュポットを置いた。
ほうほう。
小さめの陶器の鍋に、台があって中にヒーターがあるな。
「ヒーターは魔石コンロ?」
「そうですわ、ここに取り付けますの」
台の横に魔石を納めるくぼみがあった。
良く出来てるなあ。
柄の長いフォンデュフォークも五本付いてる。
「これが五セットあるよ、白ワインも五本持って来た」
「ありがとう、カリーナさん」
「チーズフォンデュは良く作るから、お嬢様と一緒に仕込んでおいてあげるよ」
「そうね、カリーナ、一緒にやりましょう」
「はい、お嬢様」
よしよし、と思ったら、カリーナさんはダルシーに船の中からテーブルクロスを持ってくるように命令していた。
カリーナさんはハウスメイドだからな、専門家だ。
飛空艇が停まっているからか、なんだか公園に来た人が立ち止まってこちらをみている。
野次馬が増えると宴会がしにくいなあ。
だが、しょうがないか、公園はみんなのものだからね。
カロルがアンヌさんを連れてやってきた。
「あっはっは、公園に飛空艇は目立つわね」
「そうだけど、キッチン使いたいしさ」
「後ろから入るの?」
「そうそう、奥から螺旋階段に行けるよ、お湯も沸かしてあるよ」
「ジャガイモと人参用ね、椎茸も火を通した方がいいわね」
「そうね」
「私とアンヌで下ごしらえはやってしまうわね」
「ありがとう、カロル」
カロルはアンヌさんを引き連れて後部ハッチから船に入っていった。
カリーナさんとダルシーはテーブルをセッティングし始めた。
良い天気だし、良いBBQ日和であるね。
「マコトーっ!!」
アダベルの声がしたと思ったら、子供達がドドドドと走って来た。
後ろには護衛の甲蟲騎士さんたちがいた。
いや、私服だけどね。
「おー、ここで肉を焼いて食べるのか! 肉、肉!」
「チーズフォンデュもするよー」
「とろけチーズを付けて何か食べる不思議なやつだな!」
「わたし、はじめてーっ」
「孤児院では出なかったーっ」
アダベルも、孤児達も、王子と王女も、村の子供も、期待で目をキラキラさせて見ている。
「楽しみだね、お兄ちゃん」
「サイズでも食べた事はないや」
チーズフォンデュは割と南の方の料理だからなあ。
北のサイズではやらないのだろう。
「準備が出来るまで、公園で遊んでなさいよ」
「「「「はーい」」」」
私がそう言うと、子供達は追いかけっこをしたり、跳ね回ったりして遊び始めた。
ワンコどもも影から出てきて、一緒に跳ね回っている。
クロはヤレヤレという感じに椅子の上で箱座りをした。
子供は元気で出来ているなあ。
「マコトー、来たぞー」
馬車に箱乗りしてカーチス兄ちゃんがやってきた。
「肉も頼まれたから、肉道場に行って買って来たぞ」
そう言ってカーチス兄ちゃんは肉の塊を馬車からどっこいせと下ろした。
どんだけ食うつもりだ。
ブロック肉を切り分けないとなあ。
荷馬車もやってきて、ブロウライト騎士団の人がバーベキューコンロを下ろしてきた。
円筒形を横にした感じで結構大きいね。
がばっと蓋が開く感じなのか。
それが三台あった。
「火起こしは任せておけ、俺はよく野営で炭火起こしをしているんだ」
「おー、魔石じゃなくて炭なんだ」
「底に魔導コンロの魔法陣が切ってあって、着火は魔石で出来る。だが、焼くのは炭だ、味が違う」
火起こしも魔石でやるのか、便利だなあ。
ブロウライト騎士団の人が荷馬車から炭を下ろしていた。
「肉を切る人間が必要ですね」
リンダさんが来おった。
「ダンバルガムで肉を切るつもりかっ」
「もちろんです、世界一の切れ味の剣で素晴らしい肉を切りましょうぞ」
教会の至宝の魔剣で何をするつもりだ、この姉ちゃんは。
まあ、切り分けるのは必要なんだけど。
「お茶の方はお任せですわ」
「おまかせください」
ゆりゆり先輩とお茶ワゴンを引いたミーシャさんがやってきた。
「ケビン王子とかジェラルドには知らせた?」
「いや、俺は知らせてない、が、ロイド王子には伝えたから、暇だったら来るだろう」
そうかそうか。
まあ、来たら来たよね。
中間テストが開けて黄金週間に入ったお祝いだから、まあ、来る物は拒まずだね。
ライアンとオスカー、ブリス先輩とかもやってきた。
ヒルダ先輩が、鱒を……。
マーラー鱒は王都に卸しているのか。
うむむ。
メイドさんたちが、テーブルにパラソルを差したり、バーベキューコンロを設置したりしている。
テーブルの一つを作業台にして、リンダさんにお肉を切ったりしてもらった。
ダシャばあちゃんのお肉とブロウライト牛が混ざらないようにしないとね。
お皿を分けておこう。
クリフ兄ちゃんが箱を持ってえっちらおっちらやってきた。
「マコトー、ソーダの差し入れだ」
「わあ、ありがとう兄ちゃん」
「「「「ソーダ!!」」」」
めざとく見つけたアダベルと子供達にクリフ兄ちゃんがたかられた。
「こら、ご飯の前にソーダを飲むと食べれなくなるよ、食事が始まるまで我慢だ」
「ちえーっ」
エルマーがクリフ兄ちゃんに近づいた。
「兄上よ……、マヨコーンを買いたいのだが……」
クリフ兄ちゃんはにっこり笑った。
「クレイトン様にそう言われるとおもいましてね」
マヨコーンを入れた経木の小箱をクリフ兄ちゃんは差し出した。
「うむ、でかした……!」
エルマーは満面の笑顔であった。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




