第882話 謝罪と賠償は上手くいくとはかぎらない
さて、カシラーギ村を出て、次の村へと足を伸ばした。
一年前の牛泥棒の現場村だったが、特に問題も無く謝罪を受け入れてくれた。
三件目、四件目も問題無し。
飛空艇で乗り付けて、私が村人に声を掛けて、アダベルがでっかい竜になり、謝罪すると相場よりも安い賠償額を受け取ってくれた。
んで、なんだか握手やらサインやらを求められて、村の特産品をお土産に山ほどくれるのであった。
「なんだか、謝罪に来たのに儲かる」
「儲かっちゃ駄目なんだけどね」
お土産に貰ったビーフジャーキーをアダベルともしゃもしゃ食べながら飛空艇を飛ばすのであった。
「ジャーキーうめい」
「ほんと、良い味ね、また買いにきましょう」
本物の干し肉は保存食なので堅くて塩がキツいんだよね。
前の村の特産ジャーキーは柔らかくて塩が薄めで良い塩梅であった。
もっしゃもっしゃ。
田舎の人は良い人が多いのだが、そうでない人もいっぱいいる訳で。
五件目の村では問題が起こった。
四年前に邪竜さんが牛泥棒を行ったのは王都から南のカリエ村であった。
山間の山村だね。
ここは酪農な感じの村であった。
ハイジとか出てきそうな感じ。
「牛の弁償か、なら五百万ドランクだ、とっとと出せ」
ふっかけて来たのは因業そうなオヤジであった。
いつものように、説明をして、アダベルがドラゴンになって、謝罪したあと、弁償しますけど、おいくらぐらいになりますか、と聞いた所、腰を抜かしていたオヤジはビョンと立ち直り、ふっかけてきおった。
「相場よりも高いですね」
「あたりめえだ、俺んちの牛は手間も愛情も掛かってるし、それを盗られた精神的苦痛の賠償も入ってる、なんか文句あるのか?」
聖女さまだ、ドラゴンだ、と集まってきた村人達も困惑していた。
「お、おい、トビさん、いくら何でも聖女さまに失敬だろう」
「お前の家の牛はそんな値段で売れねえだろうよ」
「う、うるせえよっ!! 聖女さまが払うってんだから良いじゃねえかっ! ああんっ!!」
村人さんたちが、なんかすいません、という感じで小さく頭を下げていた。
村でも浮いてる感じのオヤジさんっぽい。
ええと、こういう時は……。
私は聖職者の服をまとった女性に目をやった。
村の教会の助祭さんかな?
「これはこれは聖女さま、お困りですか、わたくしは村の教会の助祭をやっているユゲットと申します、お見知りおきを」
「はい、ユゲットさん、出来ましたらトビさんの説得をお願いできますか」
「わたくし、神学校を首席で卒業しましたの」
「はい?」
何言ってんだ、このおばはん。
「優秀なわたくしを嫉妬した同期の讒言でこんな山奥の村に配流されまして、司祭の試験も不正で落とされまして」
「はあ」
「聖女さまは教皇さまにコネがございますわよね。神学校も出ておられないのに司祭の資格を持ってらっしゃいますもの。できれば、わたくしの事を教皇様に推薦していただけたら、と思いますの」
「……」
なるほど、神学校を首席で卒業して、こんな山村に送られるだけの性格をしているわけなのね。
そして、教皇様に私を推薦しなさい、コネで受かった偽司祭め、そうしなきゃクソ爺の説得をしませんよ、と、そう言いたいのか、このクソ助祭は。
ダルシーが姿を現した。
「マコトさま、このクソババアを死ぬまで殴って良いですか」
「な、なんという無礼なっ!! 聖女さま、この者を叱ってくださいっ!!」
「だめでーす」
「ぐぬぬ」
アダベルはすっかり飽きてしまってアクビをしていた。
「こんな治癒もできない風属性助祭の話なんかきくかよっ!! おら、金だせ、金、もってんだろ、聖女さんよおっ」
善良な村人さん達がいたたまれない感じの表情を浮かべ、すんませんすんませんと無言で小さく謝っていた。
しかし、すっげー村だな、因業爺にクソ助祭かあ。
村人の大半は良い人みたいだが。
「どうするマコト、やっつけるか?」
「いや、やっつけてもなあ」
問題は一つも解決しないぞアダベルよ。
うーん、とりあえず相談してきますと言って教区長に投げるかなあ。
ユゲットは教会関係者として駄目すぎるだろう。
宗門の恥さらしだ。
「あれ、四年前のトビさんちの牛の被害は……」
「熊だろ、冒険者を頼んで退治したよな」
村人のつぶやきにトビが鋭く振り返った。
「ち、ちげえっ!! く、熊っぽいドラゴンだったんだっ!! 俺は見間違えたッ!!」
おや?
「私は熊っぽくないぞ、青いし」
「まあ、熊は空飛ばないしね」
「青いドラゴン……? ああ、アダベルさん、あんた、村を間違ってるよ」
「そうだそうだ、四年前だと山向こうの村で邪竜に牛食われたって言ってたよ」
「お、おまえらっ!! 嘘ばっか言うんじゃねえっ!! そんなに俺が金を儲けるのが悔しいのかっ!!」
私はアダベルを見た。
奴は険しい顔で辺りを見回した。
「こ、ここだと思ったんだけどなあ」
「山向こうの村に行ってみましょう」
「それが良いですよ、聖女様」
「ごめんなさいね、騒がしてしまって」
「ああ、良いんですよ、すいません、うちの村の者が」
「いえいえ」
トビは真っ青な顔色でこちらを見た。
「あ、二百万……、い、いや百万でいいから、な、なっ、聖女さん、ま、負けるからさ」
「向こうの村に行って確かめてきます。向こうで被害事実が無かったら、トビさんの言うとおりに払いますね」
「い、いや、やめてくれ、ご、五十万、五十万でいいよ、大変だろ、行くの」
「そうでもないので、お気になさらずに」
作り笑いをしながら、ほほほと私はタラップを上がった。
クソ助祭のユゲットの事は地区長にチクってやろう、そうしよう。
んで、行ってみたら四年前にアダベルが牛泥棒をしたのは隣の村が正解であった。
村の人は快く謝罪と賠償を受け入れてくれて、値段も市価よりも一回り下であった。
さらにでっかいチーズを貰った。
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