第880話 地獄谷食堂のランチのお味は?
食堂の席にアダベルと二人でついて待ってると、ロイクのオヤジがスープとパンを持ってきた。
食堂は帰って来た住人がぽつぽつと入っていた。
お、ふとっちょさんのチャップマンさんがいた。
でっかいボールに黒パンを三個だから三人前かな。
「おっちゃんが作ってんの?」
「ああ、こう見えてやくざの前は色々とやってたんでな、コックもやった事があらあな」
なにげに潰しがきく元やくざだな。
スープはジャガイモと人参とタマネギがごろごろ入っていて、鶏肉も少しあった。
んー、お醤油とみりんで味を調えると肉じゃがになるのになあ。
パンはカチカチの黒パンだ。
「パンが石みたいだ」
「保存用に水分を飛ばすタイプの黒パンだね、スープに浸して柔らかくして食べるんだよ」
「そうなのか」
などと言いつつもアダベルはガリガリと黒パンをかみ砕いた。
ドラゴンは歯が丈夫だなあ。
「いただきます」
「ええと、日々のご飯を、女神かなんかに感謝だ」
アダベルの食事前の挨拶が適当ね。
ぱくり。
おっと、意外に美味しい。
「美味しいわね」
「まあなあ、俺も食うからな」
「うんうん、スープは褒めてやろう」
「偉そうなドラゴンちびっ子だな」
根菜類は保存が効くし、黒パンもそうだね。
まだ道が悪いから、食料品は貯蔵が利くものでないとまずいのか。
「夕食は?」
「夕食はこのスープにソーセージがつくぜ」
「お値段は?」
「一食、三百ドランクだ」
うんうん、三百ドランクなら上等かも。
「まだ、お金を貯めてない住人が多いので、安く済ましています」
ヘイスさんもスープを食べながらそう言った。
「腹が減ったなら、俺の売店で菓子とか、パンとか買えばいいのさ」
ロイスが黒パンをスープに沈めながら言う。
「これ以上の物を作るとなるとコックが必要だな、値段も上がるぜ」
「魔導冷蔵庫とか、キッチン回りの備品も必要ですので、これからですね」
「教会関係から中古の冷蔵庫が手に入らないか相談してみるわ」
「よろしくたのむぜ」
食堂にフレデリク商会長が来た。
「ああっ、これは御領主さま、来てらっしゃいましたか」
「ちょっと様子を見に来たわ、だんだんと発展しているわね」
「はい、もうすぐ道が街道とつながりますよ、はちまき道路も開通するでしょうし、ここはもっと良い場所になります」
フレデリク商会長も、スープと黒パンを貰いテーブルに付いた。
熱心にやってくれてるみたいね。
「御領主さまにご相談があるのですが」
「なに?」
「オルブライト商会がホルボス山麓の湯の素を販売を始めまして、好評のようなのです、つきましては、こちらの地獄谷の湯の華の入浴剤を開発、販売してもよろしいでしょうか?」
「ふむ」
聖女関係の入浴剤が二種類になっても良いわね。
湯の成分が結構違うみたいだし。
「許可するわ、利益が出たら、宿屋とか、共同浴場とか作ってちょうだい」
「かしこまりました、早速手配いたします。名前はどうしましょう」
「ホルボスの奥座敷、地獄谷の湯の素で」
「良いですね、さすが御領主さまですっ」
さすが、商会長はよいしょが上手いな。
私は柔らかくなった黒パンをガジガジと噛む。
「ヘイスさん、あと二人ほど住人は増やせるかしら?」
「ええ、もちろん、御領主様のお心のままに」
あの二人はホルボス村よりも、地獄谷の方が良いでしょ。
「だれを連れてくる?」
「秘密」
さて、食べおわったので、席を立つ。
「じゃあ、また来るわね、ローランさんも頑張って」
「洗礼式までには王都に戻りますよ」
「それは良かった、ローラン」
「はい、アダベルさんの晴れ舞台を見たいですからね」
くしゃりという感じにローランさんは笑った。
元『塔』の諜報員なのに、なんだかすっかり毒気が抜けたなあ。
いろいろ有能なのでリンダさんに無茶ぶりされているようだけど、教会としては助かってるなあ。
「ヘイスさんも、ロイスも頑張ってね」
「はい、がんばります」
「まかせとけー、洗礼式には俺たちも行っていいのか?」
「いいわよ、住人の希望者をつのってね、移動は……」
「うちの商会から馬車を出しますよ、社員の福利厚生です」
フレデリク商会長が請け負ってくれた。
「一泊したいなら大神殿の宿坊に入れるし、大神殿食堂でなんでも食べていいわよ」
「ほんとうかえー、たのしみだなあ」
「お前はあんまり食うなチャップマン」
「ちげえねえ」
住民から笑い声が上がった。
「ホルボス村からもいっぱい来そうだから、交流をしなさいよね。お隣の集落なんだから」
「はい、楽しみです。ありがとうございます御領主さま」
ヘイスさんが頭を下げると、住人達とロイスも頭を下げた。
ええんやで、あんたたちは私の可愛い領民なんだからね。
やっぱり、私の領地は集落二つぐらいが適正かなあ。
ティファールの街とアチソン村の住民が増えると把握できなくなりそうだ。
「さあ、行こうアダベル、土下座行脚じゃ」
「うぇ~、やだなあ」
私はアダベルを引きずるようにして、蒼穹の覇者号に乗り込んだ。
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