第87話 放課後は赤ドレスさんの家に付いていく
「時に、聖女候補、放課後は暇かい」
サーヴィス先生が聞いてきた。
「まあ、だいたい暇ですが」
私もそろそろ部活とか決めなきゃだよなあ。
でも部活とかしたら派閥活動に障害がでないかな。
うーむ。
「ライルさんの家に行って、弟さんを見ようと思うのだが、聖女候補も来てくれないかな」
「かまいませんよ、先生が錬金をどう使うか興味がありますし」
ライルさんというのが、赤ドレスさんだな。
私が行くと言ったら、ぺこりと頭を下げてきた。
「タビサです、ライル子爵家の娘です」
「マコトといいます、キンボール男爵家の娘です」
「オレーリアよ、オルニー子爵家ですわ」
青ドレスのあんたには聞いてねえですよ。
というか、青ドレスさんと赤ドレスさん、えび茶色ドレスのガスコインさんは三人組のようだ。
「私たちは東部ウイットル地方の貴族なんですのよ」
聞いてねえし、ガスコインさん。
東部子爵令嬢三勇士だな。
なんでも三勇士にする癖はいかがな物かと我ながら思うが。
とりあえず、ライル、オルニー、ガスコインと覚えておこう。
「タビサの弟さまはそれはそれは可愛くてらっしゃるのだけれど、生まれつき体が弱くて病気がちですのよ、聖女候補さんが治していただけるなら、感謝してもよろしくってよ」
あいかわらず、オルニー青ドレスは上から目線だなあ。
オルニーさんの袖をとがめるように、ライルさんが引いた。
「先生が診察して、治して下さるので、私は見学に行くだけですよ」
「私も行くわ、あなたたちは聖女候補さまに気安いわよ」
強い口調でカロルが割り込んできた。
「な、なんですの、あなたは」
「失礼、カロリーヌです、オルブライト伯爵家ですよ」
「「「……」」」
まったく貴族令嬢は地位の差に弱いなあ。
カロルが私の耳に口を寄せた。
「赤青が国王派、ガスコインさんがポッティンジャー公爵家派閥」
うひひ、カロルの小声が耳にこしょばい。
ああ、もう、耳は弱いからやめてよーっ。
まあ、ドレス着ているC組の人たちと仲良くなるつもりは無いから、どんな派閥でもいいんだけどね。
「では、聖女候補君、放課後に馬車溜まりに来てちょうだい、うちの馬車でライルさん家に行こう」
「はい、先生」
よし、カロルと一緒に錬金治療現場の見学だ。
A組に戻った。
いやあ、初の魔術授業は良かった。
錬金楽しいなあ。
わたしも色々魔導具とか作りたいっ。
こう、あれであれであれな。
ホームルームに来たアンソニー先生と目があった。
先生はにっこり笑ってくれた。
ありがとう、アンソニー先生、錬金の授業は楽しかったですよ。
セッティングしてくれてありがとうございます。
ホームルームは、今週の予定とかだった。
そろそろ新入生歓迎ダンスパーティがあるので、参加する人は申し込むように、との事。
ダンパかあ、どうしようかな。
メリッサさんとかは参加したそうだよなあ。
でも、一人でダンパに出すと、ポッティ派閥に虐められそうだなあ。
あ、全学年参加だから、ゆりゆり先輩と、ヒルダ先輩を護衛に付けられるか。
私も参加するかな。
というか、男性パートナーが必要なんだよねえ。
面倒だなあ、カーチス兄ちゃんとエルザさんを送り込むかなあ。
そんな事をつらつらと考えていたら、ホームルームが終わった。
「さ、マコト、行こう」
「カロルが軽く怒ってる」
「怒るよっ、マコトの事をあんなに見下して、何にも解ってないくせに」
「ありがとう、カロル」
「ほんとにもー、なんでそこで笑えるかなあっ、マコトはー」
「カロルが怒ってくれて嬉しいんだよ」
カロルは、もー、とさらに言って、私の肩を軽く叩いた。
うひひひ。
二人で連れ立って馬車溜まりへいく。
サーヴィス先生と、ライルさんは、もう来ていて、私たちをまっていた。
「あれ、他の東部の子爵令嬢さんたちは?」
「帰ってもらいましたわ、聖女候補さんに失礼な事をおっしゃるので」
「それは、どうもすみません」
「私も先ほどは、失礼な事を言ってすみません。恥じております」
「良いんですよ、パン屋の生まれには変わりありませんから」
ライルさんは目を伏せた。
「私は俗物です、弟があなたのお薬で治るかもしれないと思ったら、本当に申し訳ない気持ちがわいてきて、ごめんなさい」
「気にしないでいいよ、弟さんの病に効果があるといいね」
「はいっ」
サーヴィス先生は口を挟まずに私とライルさんとのやりとりを微笑みながら見ていた。
カロルもふんわりと笑った。
さあ、みんなでライルさんちの弟さんに会いにいこうっ。
六人掛けの馬車に乗り込み、御者さんが、馬を走らせる。
馬車は校内の石畳を抜けて、王都へと走り出す。
がたがたがたがた。
「すんごい揺れますね、先生」
「うむ、サーヴィス伯爵家は、錬金の素材を買いすぎでお金がないので中古なんだ。ゆるしてほしい」
「整備とかしないとやばくないですか?」
「馬車は動けばいいんだ」
そうかー?
ライルさんの顔色がみるみるうちに青くなっているぞ。
この揺れはヤバイかも。
『キュア』
「ふう、ありがとうございます」
ライルさんとか、カロルとか、自分とかに、酔い止めのキュアを十回ぐらいづつ掛けたところで、馬車は、ライル子爵のタウンハウスに着いたのだった。
帰りは歩こう、こんなぼろ馬車に乗っていられるか。




