第876話 午前中はお暇なのである
「おや、キンボール君、テストは……、ああ、そうか」
「おはようございます、学園長。光魔法の問題を出したり、実習を見て評価してくれる先生が居ませんので、私は試験免除なのです」
「そうだったね、おはようキンボールくん」
学園長が玄関に出てきたので挨拶をする。
アダベルはワンコたちをなでくりまわしていた。
「学園長のご出勤は?」
「平日は孤児院の子供とアダベルの勉強を見てから出勤だね」
さすがはお偉いさん、重役出勤だね。
「そうですか、私はアダベルの邪龍時代の土下座行脚を誘いに来ました」
「土下座かね?」
中に入れて貰って、応接室でお茶を飲みながら学園長に説明した。
アダベルは従魔さんたちを家の中につれてきて飽きることなく可愛がっている。
「マコト、これ、クヌートの従魔たちだろ」
「あれ、あいつと会ったの?」
「あったあった、なんかしょんぼりしてたよ」
テイマーが従魔を取られたらしょんぼりするよな。
武装解除だ。
「事情は解った、確かに謝罪するのは大事だね、キンボールくん、お願いできるかね」
「はい、もちろん、でも、いつも通り勉強の後で良いですよ」
「それは良かった、孤児院の子供も熱心に勉強をしてくれてるのでね」
孤児さんたちは将来の為に結構勉強熱心なのである。
良い成績を残すと教会に就職できるしね。
家の外で、子供がきゃいきゃい言いながら近づいてくる気配があった。
「おじゃましまーす」
「がくえんちょうせんせいおはようございまーす」
口々に挨拶しながら孤児達がどやどや入って来た。
「あれ、マコねえちゃん」
「今日はマコトお姉ちゃんも一緒にお勉強?」
「ちがうよー、アダベルと午後に出かけるから呼びにきたんだ」
「あ、今日はホルボス山行かないの?」
「王子さまと王女さま、がっかりするよ」
「飛空艇出すけど、あなたたちだけでもホルボス山行く?」
「「「いくーっ」」」
うんうん、孤児達とトール王子とティルダ王女は順調に仲良しになってるな。
良い事だ。
「ごめんなー、私は謝罪と賠償だ、それより、これみてこれ」
アダベルは従魔さんたちを孤児たちに示した。
「ぎゃーっ、でっかいーっ」
「か、かまない?」
「あ、大人しいっ、撫でていいかなあ」
「いいぞー、たんとなでてやれ」
なんでアダベルが許可をするのか解らないが、孤児達が従魔さんたちを囲んでなでくりまわし始めた。
うーむ、困った。という感情が流れてくるが、従魔さんたちは大人しくしていた。
「おっきー、格好いいー」
「これ、マコ姉ちゃんが乗ってるって噂のワンコだね」
「乗ってもいい? マコトお姉ちゃん」
「あ、私も乗りたい乗りたい」
「順番にね」
ペスとジョンが腰を下ろした。
孤児達とアダベルが鈴なりになって上に乗った。
「ひゃあ、歩いて歩いて」
「名前は名前は?」
「片耳が垂れてるのがペス、大きい方がジョン、フクロウがポーポーちゃん」
「おおー、ペスか、いい名だ」
影犬は馬力があるのか、子供達を鈴なりにのせてゆっくり応接室をうろうろした。
学園長も目を細めてワンコたちと戯れる子供達を見ていた。
「それじゃあ、勉強が終わったら来るね」
「わかったー、十一時頃こいー」
「なるべく被害村の場所を思いだしてね」
「が、がんばる」
被害村の場所をちゃんと覚えてるかな。
結構心配である。
さて、従魔さんたちを影に収納して学園長宅を後にする。
時間が空いたな。
とことことひよこ堂まで歩く。
「あれ、マコト、授業は??」
「私だけ一足お先に黄金週間なんだ。今日は魔法のテストだから」
「ああ、希少属性だからテストが無いのか」
「そういう事。そういやクララがアダベルの洗礼式にパンの出店を出したいって言ってたよ、ひよこ堂でもどう?」
「マジか、聖女パンとか売れそうだな」
「クララの作った聖女マリアパンと、うちの聖女マコトパンを一緒に売ると売れそう」
「良いな、共同で出店を出すか」
コロシアムの外の屋台の仕切りはどこがやってるのかな?
まあ、教会主催だし、王都内のやくざはみんな大神殿が押さえてるから問題無いかな。
「クララと打ち合わせしといて、何かあったらリンダさんに言えばなんとかなるよ」
「ああ、楽しみだな洗礼式」
「そうだねえ」
クリフ兄ちゃんと顔を見あわせて笑い合った。
兄ちゃんからソバボウロとクッキーを買ってひよこ堂前から立ち去る。
出店かあ。
カマラさんのツバメ食堂とか出さないかな?
たこ焼きとか、お好み焼きとか。
「ペス、出てきて」
「うおんっ」
せっかくだから下町までペスに乗って行こう。
私はペスに跨がった。
「では、行こーっ!」
「わおんっ」
道順を脳内でイメージするとペスが駆けだした。
おおお、結構早い。
走ると速いね君。
偉いぞ。
馬車道を影犬に乗って駆け抜ける。
どわんどわん揺れるけど、これは爽快で楽しい。
あっというまにツバメ食堂に着いた。
これは便利だなあ、王都内が狭くなった感じだぞ。
「ペス、ごくろうっ」
「あおんっ」
なんでもないぜっ、という感じにペスがドヤ顔をしたので、あごの下をもふってあげた。
店を開ける前のツバメ食堂からカマラさんが出てきた。
「ワ、ワンコ! すごい、乗ってる」
「乗れるワンコ、テイムした」
「すっごーい、魔物使いだ、ゲームには無かったのに」
「意外になんでもある」
「いいなあ、いいなあ、ポケモンみたいね」
「ピカチュウ的なやつをテイムしたい」
「したら連れてきてー」
「いいとも」
カマラさんに自慢が出来て嬉しい。
「黄金週間の中日にドラゴンの洗礼式をやるんだけど、ツバメ食堂で出店を出さない?」
「え、ドラゴン? テイムしたの?」
「テイムはー……、どうだろう、友達ではあるよ」
「ほんと、うわーうわー、ドラゴン! 見たい、そして大イベントで出店!」
「お好み焼きか、たこ焼きを出さない?」
「出す出す、両方やろうかな、ああ、鉄板とたこ焼き板を開発しないと」
「お好み焼きが無難かな」
「そうだねえ、開発してみるよ」
「んじゃ、教会に話通しておくから、大神殿に打ち合わせに来てね」
「ありがとう、うれしいよ」
なんのなんの、同郷の人には親切にしないとね。
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