第86話 できあがった光ポーションは異様な性能でした
「無色透明の流体の中に銀の粒子が雲のように流れる。古文書にある、光のヒールポーションそのままの姿だね。いやあ、生きている間に見られるとは思わなかったなあ」
サーヴィス先生が感慨深そうに私の作ったポーションを観察しながらつぶやいた。
「光のポーションの特徴はなんですか、先生」
「良い質問だねカロルくん、治癒性能はハイポーションに匹敵し、難病に効き、活力を増し、毛生え効果もあるそうだよ」
「それは凄い、毛生え薬になるなら千金で買う奴らがいるぞ」
ジョンおじさんが興奮した声をあげた。
サーヴィス先生は腰からすらりとナイフを抜くと、自分の二の腕を切り裂いた。
「ぎゃー、先生、なにしてんですかっ!」
「え、効果判定だけど、普通だよね、カロル君」
「そうよ、マコト、騒ぎすぎだわ」
「カロル、あんたもやってるの?」
「ときどき」
私はカロルの腕をつかんだ。
「だめよっ、自分を傷つけて何になるのっ!!」
「ポーションの効果が解るけど?」
くそう、カロルには、錬金術師の風習の異常さが解ってないぞっ。
やめるんだ、自分で傷を作って痕が残ったらどうするんだ。
サーヴィス先生は光ポーションをひしゃくですくって傷にかけた。
じゅわじゅわ泡を立てて傷が消えていく。
「うっは、すごい治癒速度だね」
「傷がまるっきり残ってませんよ」
「すさまじいね、伝説の光ポーション、うん、飲み口も甘くて美味い」
カロルが先生の持ったひしゃくに口をつけてこくんと飲んだ。
ふおー、なんか照れくさいっ。
「ふんわりと甘いわ」
口についた液をぺろりと赤い舌をだして舐め取るカロルがカワイイ。
ふおーーっ。
「とりあえず、この班の者に一瓶ずつ上げよう、残りの光ポーションは錬金学部が頂く」
「まったーっ、魔法省も欲しいぞっ」
「なにい、これは錬金学部の物だ、横入してこられては困る」
「こんな貴重な物を独り占めするつもりかっ、錬金学部」
「なんだとー」
「やるかー」
「仲良く半分こにしなさい、喧嘩するなら、今後、どっちにも協力しないですよ」
「「ぐぬぬ」」
結局残りの光ポーションは、錬金学部と魔法省で仲良く折半する事になったようだ。
カロルが小瓶に光ポーションを分けて班の人に渡していく。
「はい、エルマー」
「ありがとう……、オルブライト嬢」
「マコトもほら」
「ありがとうカロル、これってどれくらい持つの?」
「生薬だからね、一週間ぐらいで使い切った方が良いわよ」
「わかったー」
小瓶の口を開けて、ちょっと飲んでみる。
おお、甘い~。
これは前世で飲んだネクターみたいな味だな。
「ありがとうございますわ、おほほ」
「うれしいですわ……」
ドレス組もちゃっかり貰っていやがる。
売られたりすると嫌だが、まあしょうがないかあ。
ドレス組の赤い方が、光ポーションを思い詰めたように見ていた。
「ねえ、パ、聖女候補さん、これって、その、難病にも効くかな?」
「わかんないなあ、どうなの先生?」
「ビアンカさまの伝承だと、光ポーションで重病人を立たせたとも伝えられているが、どうしたんだい? 家族に病人でも」
赤いドレスさんが、目を泳がして言いよどんだ。
「ええと、その、弟が病気で、寝てばかりで、その、健康になったら、お父さんもお母さんも喧嘩しないですむかなって……」
「ふむ、光ポーションの効果は私も見たいな。よし、一緒に行って私が投薬してあげよう」
「本当ですかっ! 先生っ!!」
「ああ、もちろんだとも、場所はどこだね、領地だと時間がかかるが」
「弟はタウンハウス住みなので、すぐ近くですよっ」
「いいだろう、放課後に伺おうではないか」
「ありがとうございます、先生っ!!」
赤ドレスさんは、サーヴィス先生に深々と頭を下げた。
私は先生の後ろに近づいて、袖をちょいちょいと引いた。
「患者が治らなかったら教えてください、治癒魔法をためしますから」
「なるほど、聖女候補君は、どれくらいの治癒魔法を覚えているのかね?」
「死んでなければ、なんとでもなるぐらいのレベルです」
サーヴィス先生はぎょっとしたように目を見開いた。
「それは、きみ、内緒にしておきたまえよ」
「はい、先生だからですよ」
サーヴィス先生はこくこくとうなずいた。
「上位の治癒魔法を薬液に混ぜ込んだら、いったいどんなポーションが生まれるのか、まったく、聖女候補は面白いな」
確かにそれは気になるが、あんまり世の中の常識外の薬を生み出すのも怖いな。
カロルが光ポーションの瓶をスカートの近くに持って行くと、すっと消えた。
やっぱり気になるなあ。
どこから入れて、どこから出しておるのだ。
「ちょちょちょっ、マコト、なんでスカートを引っ張るのっ!」
「いや、気になるしっ」
「よしなさいっ」
私たちのやりとりを、サーヴィス先生がニコニコしながら見ていた。
「聖女候補は、収納袋が気になるのかね」
「あ、やっぱり収納袋なんですねっ」
「ああ、魔道具の一つだ。オルブライトさんはもう作れるのかね?」
「父の制作した物です、私はまだ作れません」
お父さんが作ったものなのかー、じゃあ、しょうが無いなあ。
早くカロルが作れるようにならないかなあ。
「今度、錬金学部の仕事を手伝ってくれるなら、私が使っていた錬金袋をあげてもいいよ」
「本当ですかっ!! サーヴィス先生!!」
異世界チートアイテムといえば、無限収納袋だろうっ!!
これは欲しいぞっ!!




