第861話 学園に戻る、肉を買ってきてもらう
ミリヤムさんの顔見せも済んだので、魔法塔との細かい条件のすりあわせは後日という事になった。
パイロット組とミリヤムさんは、また乗合馬車で学園に向けて移動中であるのだ。
「一振り一千万、十回で元が取れるね」
「一年で二十回ほどが最低限ね」
ああ、オルブライト商会も儲けないといけないからね。
「本当に夢のようですぅ」
「売り上げが二億を越えたら、ボーナスを出すわ、ミリヤムさんのこれからの頑張りしだいだわ」
「ががが、がんばりますっ」
スラム街からの成り上がりで、大金持ちだねえ。
錬金ドリームだ。
「魔法塔が赤字にならないかな?」
「マコト、エクスポーションは一本、一千万超えが相場なのよ」
「うっ」
そうだった。
四肢欠損や、内臓破裂などの大けがや大病に効くエクスポーションはもの凄い高いのであった。
溶解液が潤沢に手に入れば高額錬金薬が量産できるのか。
魔法塔は赤字にはならないな。
私はロハでエクストラヒールが出来るので失念していた。
「錬金業界の発展に……、役立つ……」
「時間停止瓶の需要もあるから、マコトも協力してね」
「わかったよう」
時間停止瓶も高いのだよなあ。
迷宮産の物しか無いから。
私が作れば材料費はガラス瓶だけだが。
学園前で乗り合い馬車を降りる。
「なにからなにまでありがとうございました」
ミリヤムさんがペコペコと頭を下げた。
「これは支度金ね、五百万ドランク入っているわ」
カロルがずしっと重そうな金貨袋をミリヤムさんに渡した。
金貨袋で殴りつけておるなあ。
ミリヤムさんはひきつっていた。
「アンヌ、ミリヤムさんをタウンハウスにご案内して、今日は客間で泊まってもらいましょう」
「いえいえいえっ、そんな、お貴族様のタウンハウスだなんてーっ」
「駄目よ、スラムは論外だし、王都内のホテルでも事情を嗅ぎつけた『肉屋』にさらわれかねないわ」
「おーい、ジョン、ミリヤムさんの影で護衛してあげて」
「うおんっ!」
ジョンが私の影からミリヤムさんの影に飛び移った。
「か、影犬が居ると、あ、安心です」
ミリヤムさんはにっこり笑った。
「後でダルシーにお肉を届けさせるから、ジョンにあげてね」
「わ、解りました、と、時々ご飯あげてたから慣れてますよ」
「それは良かった」
ミリヤムさんはアンヌさんの先導でオルブライト家のタウンハウス方面に去っていった。
「影犬は便利ね」
「いいでしょ」
「僕も……、一匹欲しい……」
「古い形のテイムは難しいわよ、エルマー」
「残念……」
「ダルシー」
ふっとダルシーが現れた。
よく考えたら、ダルシーと影犬の役割はかぶってんな。
「ブロウライト牛の最高級の奴を、ええと、沢山買ってきて、わんこたちにご馳走する約束なのよ」
「かしこまりました」
影犬と影フクロウはどれくらい食べるのかな?
まあ、沢山買って、余ったらテストの打ち上げバーベキューでもしよう。
そうしよう。
ダルシーは姿を消した。
私たちは校門をくぐって学園に戻った。
時計塔を見ると、今は午後四時ぐらい。
夕方であった。
「ちょっとだけ集会室で勉強をして、晩餐に行きましょう」
「ああもう、暗殺者が片づいたらテストも終わった感じになったよ」
「まだ二日目……」
「ワンコ達を可愛がりたいし、ディラハンをテイムしに行きたいーっ」
「駄目よ、テストが終わってから」
「うえーーん」
「泣き真似をしても駄目よ、さ、行きましょう」
私はカロルに引きずられるように集会室へと連行された。
集会室のドアを開けると、みんな集まっておしゃべりしながら勉強していた。
「あ、領袖おかえりなさいっ」
「怪我などはありませんでしたか、マイレイディ」
ライアン君とオスカーが私とカロルに声を掛けてきた。
「とりあえず、人的損害なしで、滅殺の五本指の捕縛に成功しました」
みんな立ち上がって拍手してくれた。
どーもどーも。
そして、シンと静まりかえった。
「勉強しましょう」
「はい……」
みな、椅子に座って教科書とノートを開いた。
「ひっ」
影から首をひょこっと出したペスとポチを見つけてメリッサさんが小さく悲鳴を上げた。
「で、でっかいワンコですわ」
「あ、あぶなくありませんの?」
「ペス、ポチ、ポーポーちゃん、ここに居る人間は私の友達だからね」
「「うおんうおん」」
「ホーホー」
「お、お利口さんですわ」
「触ってもよろしいですか?」
「良いわよ、もふもふを許可します」
メリッサさんとマリリンが床にしゃがみ込んで、ペスとポチをもふもふした。
「大きいけど、ちょっと可愛いですわ」
「大型犬憧れますわー」
ヒルダさんがポーポーちゃんを抱きしめて自分の席まで持って行き、モフモフし始めた。
「癒やされますわー」
緩んだ顔のヒルダさんはレアだなあ。
影犬も、影フクロウもまんざらではないようで、ほこほこした感情が私の元にも伝わった。
ジョンはどうしてるかな?
と、思った瞬間、脳内に位置の低い路上の風景が写った。
見上げるようになるなあ。
これは影の中のジョンの視界っぽい。
視界ジャックもできるのか。
効果範囲はどれくらいだろうか。
「テイマーの従魔を操る範囲ってどれくらいだっけ」
「有視界の距離じゃないかしら」
ジョンは有視界を外れてるな。
昔テイムと現在テイムの違いかな。
あ、大神殿前あたりでプツンと切れた。
学園の敷地の2倍ぐらいの範囲かな。
さすがに王都全体とはいかないか。
そう考えると、ヴィクターの式神操作範囲はべらぼうに広いな。
王都からホルボス山のクロにまで届くとは。
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