第85話 錬金授業はおもしろ楽しい
サーヴィス先生の講義は続く。
錬金術の範囲は薬物、魔導具が有名なのだが、魔法効果を魔法陣などの仕組みで一定時間、作用しつづける物は錬金術の中に含んで良いそうだ。
そう考えると、範囲が広いよな、錬金。
また、属性の中で土属性が錬金と親和性が高いのだけど、六属性全てで錬金化は可能で、金属精製魔法がある土属性が有利なだけなのだそうだ。
面白いなあ、錬金術。
「じゃあ、初日という事で、ポーションでも作ってみよう。自作ポーションが作れるようになると生存率もぐっとあがるよ」
ドレスを着込んだC組っぽいお嬢様が立ち上がった。
「先生、なぜそんな下々のする手作業を、われわれ貴族がしなければならないのですか、こんなもの、卑しい平民の錬金屋にやらせておけばいいじゃないですか」
教室内がしんとした。
「ふむ、お金で製品を買えばいいのでは無いかという意見だね」
「はいっ、我々は貴族なのでっ」
サーヴィス先生はにやりと笑った。
ああ、この手の質問は答え慣れてる感じだな。
「ガスコインさんは勘違いをしているね。我々は貴族だからこそ、平民よりも魔力が高いからこそ、魔導の仕組みを理解しなければならない、それにはどうするか、自ら作るのが最適なんだね。そしてね、南部の風習なんだが、愛する旦那さまが戦場に赴くとき、奥さんが手製のポーションを送る、という風習がある」
「まあ、そんな風習が!」
「考えてみたまえ、君が適当に作ったポーションが戦場で旦那様の傷を癒やせなかったら? 逆に、とても良く効いたら、旦那さまとの愛がとても深まるとは思わないかい?」
うまい、こうやってだまし慣れてるんだろうなあ。
「わ、わかりましたわ、南部の風習では仕方がありませんね、私は貴族として完璧にポーションを覚えたいと思います」
「うん、がんばろうね、ガスコインさん」
サーヴィス先生は黒板にポーションを作る手順を書いた。
ええと、薬草を同じ大きさに刻み、悪くなっている所は取り除く。
錬金釜に浄化水と薬草を入れて煮る。
十五分ほど煮たら、薬草を取り出す。
混ぜ棒を使って、魔力を溶液に流し込む。
変質したらできあがり。
意外に簡単だね。
土魔法のアースヒール魔力を注ぎ込めば、普通のポーション。
水魔法の癒やし水の魔力を注ぎ込めば、水ポーション。
光魔法のヒールの魔力を注ぎ込めば、光ポーションだそうだ。
「カロル、この上のハイポーションとか、エクスポーションとかはどうやって作るの?」
「最初の浄化水に混ぜるのが、上薬草だったらハイポーションだし、特殊素材を混ぜ合わせるとエクスポーションだよ」
「エリクサーも同じかな?」
「エリクサーは超希少素材で作ったポーションね」
万病に効くというエリクサーかあ、高そうよね。
カロルのお父さんが、何本か持っているらしい。
テーブルのみんなで薬草を刻む。
お料理だな、これは。
大きさをそろえないと成分の出が悪いらしい。
となりの班のガスコインさんも真面目に切っている。
手元がおぼつかなくてコワイけどね。
「ねえ、パン屋さん、私の代わりに薬草切ってくれないかしら」
「そうよね、パン屋だし、それくらい当然よね」
同じ班のドレス組が絡んできた。
おのれ、これは、人間発電所か、人間発電所案件かっ。
私の殺気を感じたのか、エルマーがさっと横入してきた。
「僕が……、切ってあげよう……」
「エ、エルマーさまっ、そ、そんな恐れ多いですわ」
「せっかくパン屋さんが居るのですから」
「彼女は……、聖女候補で、パン屋……ではないのだよ……」
「で、でも……」
エルマーどけ、そんな不愉快な奴らは、チキンウイングフェイスロックを掛けるべきだ。
「僕は……、彼女をパン屋と……、貶める女の子は……、嫌いだな」
「そ、そうですの、し、仕方がありませんわね、エルマーさまがそうおっしゃられるなら」
「そうですわね、今日の所は勘弁してあげてもよろしゅうございますわね」
ドレスコンビは、元に戻って薬草を刻み始めた。
「エルマー、あんがと」
エルマーは静かにわらって、私の頭をぽんぽんと叩いた。
ちえっ、ど、どきどきなんかしてないんだからねっ。
「マコトが暴れないかとハラハラしたわ、ありがとう、エルマー」
「うん、危ないから……、マコトは」
ちっ、なんだようっ。
噛み癖のある犬かよ、私はっ。
薬草をトントンと刻む。
なんだか、ハッカみたいな良い匂いがするね。
「冒険の途中でもポーションを作れるかな、鍋とかで」
「普通の鍋だと、だいぶ精度が落ちるわよ、携帯錬金釜を使うのね」
まあ、普通に治療魔法使える私には全く要らないのだけどな。
カロルがみんなの刻んだ薬草を点検して、錬金釜に入れた。
浄化水を瓶からどぼどぼと注ぐ。
「あとは回しながら、魔力を注ぎ込むと出来るわよ。マコト、やってみる?」
「うん、私がやってもいい? ドレスさんたち?」
「かまいませんわよ」
「ぷぷっ、張り切ってますわねパン屋さん」
いらっ。
こんど釣り天井掛けてやる。
混ぜ棒を握り、かき回す。
ヒールの呪文を棒に流すようにするんだな。
まぜまぜ~。
まぜまぜ~。
カロルが混ぜ棒においた私の手を取って、回し方を教えてくれる。
うーむ、近い。
おら、ドキドキすっぞ。
良い匂い。
「集中しなさい」
「すまぬ」
まぜまぜ~。
まぜまぜ~。
だんだんと溶液に粘り気が出てきた。
どかんっ!!
と、大きな音と共に閃光がはしり、溶液の色が深緑から無色透明に変わった。
なんか、キラキラした銀色の粒子が動いておるぞ。
ちょっと甘い匂いがする。
「出来た? カロル」
「サーヴィス先生っ! 見に来てください、なんかポーションでは無さそうな物ができましたっ」
え、私、またなんかやっちゃいましたか?




