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第855話 短髪の生徒が私をさげすむような目で見てくるの(薬指視点)

 貴族街を抜けて森の方から学園へと侵入するわ。

 というか、学園のこっち側に壁が無いと思ったら、貴族街自体が大きな壁になっているのね。

 侵入するのが大変だったわね。


 でも、貴族街に入れれば、あとは楽ね。

 森林浴気分で森の小道を歩いて行けば王立魔法学園だわね。

 私は杖を振りながら小道を歩く。


 森の中に廃墟みたいな教会があるわね。

 ブルーシートをかけられて改装中なのかしら。

 さすがは貴族の学校、伝統がある感じだわ。


――ああ、私も貴族に生まれて、こんな良い環境で魔法の勉強がしたかったなあ。


 スラムの半魔の子に教育の機会なんか無かった。

 魔力が高くて頭も良かったんだけれど、私は教育を受けられなかった。

 近所の怪しげなオババ師匠に術を習っただけなのよ。

 ダンジョンにも入れないから技も増やせない。

 でも、術が合っていたのか、オババ師匠がびっくりするぐらい、破壊力のある術が使えるようになったわ。


 山鳥が一声鳴いた。

 立ち止まって空を見上げる。

 木々の間から見える青い空に鳥が横切った。


 前の方から足音が聞こえた。

 ジャリジャリと鎖を引きずるような金属音がする。


「いたみょん」


 あら、海岸の方のなまりだわ。

 目を下ろすと黒髪の小さな女の子が青白い刀を抜く所だった。


 三人。


 貴族には珍しい、短髪の可愛らしい女の子。

 ジャリジャリジャリーンと音を立てて彼女の隣にチェーンゴーレムが組み上がったわ。

 錬金術士だわ。


 三つに分かれた棒を持った、すごい美男子の子。

 氷で出来た彫像みたいに美しいわ。

 魔術師ね。


「ひひっ、警告するわ、お姉さん関係のない生徒を殺すつもりは無いのよ、引いてくれなーい?」

「ふざけないで、マコトは殺させないわっ」


 短髪の子が片手に試験管を持って私を睨んだ。

 美男子の子が詠唱を始めた。

 二人を守るように黒髪の子が前に出た。


「そう、じゃあ、後悔しなさいねっ、ひひっ」


 私は杖を振って液を広げるように飛ばした。

 そう、液体は避けるのが難しいのよ。

 三人は後ろに下がって避けた。

 チェーンゴーレムの足に少し掛かって液は煙を発し、青い炎を出して燃えだした。


「酸?」


 短髪の子が試験管を変えてゴーレムの足に投げつけた。

 試験管が砕け散り、中の液体が私の液を中和した。


「引きなさい~、死んじゃうよ~、ひひひっ」


 私は黒髪の子に掛かるように液を杖から出して広げた。


『アイスランス』


 美男子が氷の槍を飛ばして液を遮る。

 残った液も黒髪の子が刀を振るうと粘度を増して地面に落ちた。

 あら、魔剣かしらね。


「凍らないみょん!」

「あれはやばそう……」


 短髪の子が目を丸くしてこちらを見ている。

 なによ、さげすんでるの?

 そうよ、杖から出るけど、魔法じゃ無くて術よ。


「地面で、燃える? まさか、そんな純度……」

「ふふふ、そうよ、これは溶解液よ、怖い、怖い? ひひっ」

「やっぱり……」


 短髪の子がこちらを見て恐怖の色を……。

 浮かべて無いわね、なにかしらね、あの表情。

 信じられない事態を見ているような感じの表情を浮かべているわ。


「そうよ、溶解液よ、一滴でも掛かれば大やけどだし、純度が高いから、まともに掛かれば溶けて死ぬわよ、さあ、道を空けるのよっ!! ひひっ」


 短髪の子がこちらに向けて片手を開いて突き出した。

 魔法?

 じゃないわね、降参のサイン?


「ちょ、ちょっと、お話、いいかしら?」

「ひひっ、なによ、今更、降参するなら、どっかに行きなさいよっ」


 なんだろう、迷ってる?

 なんと言って良いか困ってる?


「あなたは趣味で暗殺をやっているの?」

「は? 何を言ってるの、お金の為よっ、あと名声のだわっ、聖女暗殺なんて大事を成功させれば、私たち五本指は永遠に語り継がれるわ」

「踏み込んだ話で申し訳無いけど、一人頭、幾ら貰ったの?」

「な、なによー、お金の話は失礼よ、その、皇国から一人頭150万グース、魔国から300万グースよ、どうっ」


 な、なによ、なんで唖然とした顔をしてるの、この子は。

 黒髪の子も、美男子も、短髪の子が何を言ってるか解らないって顔をしてるわよ。


「た、たった、それだけ?」

「な、何よっ! 私たちにとっては莫大な金なのよっ!!」

「あなたが、今、ぶちまけた溶解液、一回で、五百万グースぐらいになるわよ」


 は?

 な、何を言ってるのかしら、この錬金術士は……。

 そ、そんな訳があるわけないじゃない。

 な、なんで溶解液が売れるわけ?


「その溶解液を取るために、冒険者が日夜ガドラガに潜っているのよ」

「つ、使われるの、これっ?」

「そうよ、キメラとか、ジャイアントスラッグとかから少量しか取れないわ、それをドバドバ使うから何事かと思ったわ」

「う、嘘よ、私の動揺を誘うつもりねっ、騙されないわっ!」


 やめなさいよ、その、気の毒な人を見るような目はっ!!


「エリクサーや、エクスポーションの素材を溶かすのに、その溶解液が必要なのよ。10%の希釈液で一週間漬けてエキスを出すのよ」

「……。まさか……」

「私にはあなたがプラチナ貨をばらまいて戦っているようにしか見えないわ、胃が痛くなるからやめなさいよ」


 私は、プラチナ貨をぶちまけながら戦っていたの?

 まさか、まさか。


「よし、年俸一億ドランクであなたを雇うわ。私はカロリーヌ・オルブライト。オルブライト商会の代表者よ」


 ひ、ひいいっ、ジーン皇国にも名前が鳴り響いている超一流製薬系商会の代表者なの?

 年俸一億ドランクって、グースに直すと幾らなの?

 あんまりの事態で膝がぶるぶると震えるわ。


「そして、オルブライト伯爵家があなたの後ろ盾になるわ。あなたの青魔法の才能が我が商会には必要よ、アップルトンの錬金術の歴史が変わるわ、一億ドランクじゃ不満なら、もっと出すわよ」

「カロリーヌしゃまが金貨袋で敵を殴りつけてるみょん」

「それくらいには……、なる……、妥当な値段……」


 ど、どうしよう、聖女を暗殺に来たら、製薬商会にスカウトされてしまったわ。

 なんだか訳がわからなくて頭がおかしくなりそう。

 この術にそんな価値があったなんて、知らなかったわ。


 この術が使えるようになったら、オババ師匠はバケツ一杯出すように言って、喜びのあまりバケツにつまずいて溶けて死んだから。

 ああ、あれは溶解液を私に黙って売るつもりだったの?

 たしかにオババ師匠がこの術を使ってもスプーン半分ぐらいしか出なかったけど。


「あなたには錬金術の教育を受けてもらうわ。青魔法の使える錬金術師だなんて、業界の夢よ」

「ほ、ほんとに錬金術を教えてくれるんですか? 教育を?」

「魔法塔の錬金部の人も、きっと喜ぶわ、出向しても良いわね。一緒にガンガン儲けるわよ!」


 ああ、なんという幸運なのかしら。

 夢だった魔法の高等教育が受けられる。


「で、でも、私は半魔だし、暗殺者だし……」

「え? なんで?」

「は、半魔だと、ほら、嫌がる人もいるし……」

「アップルトンはあまりそういう事無いわよ。私の知り合いにも吸血鬼の血を引く人がいるし」

「ヒルダさまみょん」

「ヒルダ先輩だ……」


 どうしようどうしよう、わあ、迷うな迷うなあ、このお嬢さんは良い人みたいだし、本当の事を言ってるみたいだし、でも私は騙されやすいし、みんなが居ないと……。


「あ、あのっ!! そのっ!! 私と一緒に暗殺に来たメンバーも、その、守ってくれますか? し、死んで無かったらだけど、その、暗殺者だけれども……」

「解ったわ、生き残った五本指を全員、オルブライト家がまとめて面倒を見るわっ!!」


 うわあ、即答だよ、この人。

 いいの? お父様とかに相談したりしなくても大丈夫なの?

 怒られない?

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― 新着の感想 ―
[一言] 札束が無い世界だから"金貨袋で殴る"って言うんですね…。金の力(物理)。
[一言] まあ有能な人材にはちゃんとした報酬をって事やな…帝国が悪いよ帝国がー
[良い点] ※暗殺者が金で裏切るのは歴史的にはよくあります ※ただし製薬パワーで負けるのはない
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