第852話 クリフ兄ちゃんを間に挟み子供暗殺者と対決する
ひよこ堂前にダルシーは着地した。
私はダルシーの腕の中から下りる。
「マコト!」
「聖女さんっ!」
「動くなっ!! こいつを殺すぞっ!!」
おろ、この子、昨日街道で見た親子連れだな。
暗殺者だったのか。
「あんただれ?」
「暗殺者だ、聖女、兄の命が惜しいなら、首を差し出せ」
「キルギスの姉ちゃんだってさ」
はて、なんでクリフ兄ちゃんはそんなに余裕綽々なのか。
たしかにキルギスくんそっくりだな。
さて、どうするかなあ。
家族を人質に取られるのは初めてでどうしたら良いのかわからん。
とりあえず、兄ちゃんの首と心臓と腎臓の所に無詠唱で障壁を張っておこう。
ピッとな。
音しないけどね。
「どうなってるの? 兄ちゃん」
「悪い子じゃないから助けてやってくれ」
「だまれよっ!!」
なんだか切羽詰まってるなあ。
刺されるぞ兄ちゃん。
「俺を人質にしても無駄だよ。聖女ってべらぼうな職業なんだぜ、俺を即死させない限り治癒魔法で治しちゃうし、どうもならないぞ」
「う、うるさいと言ってるっ!!」
手がぶるぶる震えているなあ、キルギス姉ちゃん。
「なあ、やめようぜ、弟に討たれる事も出来ないし、マコトの首も取れないだろ。あきらめろって」
「……」
ダルシーが私の前に立ち塞がるので前が見えない。
どけいっ。
キルギスのお姉ちゃんはこちらを睨みつけている。
結構、剣の腕はありそうだね。
素人じゃない。
「ご命令を、マコト様、クリフ様を救助の後、たたき伏せます」
「うーん」
父ちゃんも母ちゃんも出てきて心配そうに兄ちゃんを見ている。
「マコト、状況は?」
カーチス兄ちゃんとエルザさんも来おった。
「聖女さま~~!! あなたのサイラスが推参しましたぞ~~!!」
聖騎士隊も一ダースほど来おった。
キルギス姉の表情に余裕が無いなあ。
暴発して兄ちゃんに刃を向けるかもしれん。
障壁は入っているが最低限だしなあ。
もちろん斬られても刺されても私が治すけどね。
ただ、痛いだろうなあ。
痛いのは可哀想である。
「とりあえず、降伏しろ、キルギスくんの姉」
「ふざけるなっ!!」
「いくらなんでも、こうなったらどうにもならんよ」
もう、どんどん野次馬が増えて行く。
続々と聖騎士が増え、警備騎士団も到着し始めた。
十重二十重に囲まれて、もう逃走は不可能だな。
「聖女さま、突入命令を!!」
「警備騎士団もお助けしますぞっ」
うーん、状況がグダグダになった。
「とりあえず、どうしたいのさ?」
「お、お前の首を差し出せっ!」
「それは嫌だなあ」
「なら、お前の兄を殺すっ!」
「それをやると、キルギスが連座するんだって、解ってるだろ」
兄ちゃんが訳知り顔でそう言った。
「う、うるさいうるさいっ!!」
あー、この子はキルギス君の姉とばれた時点で詰んでるんだなあ。
閃光魔法で目くらまししてとっ捕まえるか。
うーん、結構腕がよさそうだから兄ちゃんが危ないな。
「もう、めんどくさい。ダルシー動かないで」
「マ、マコトさまっ!」
私はダルシーを押しのけてすたすた歩き出した。
歩きながら子狐丸とユニコーン盾剣を抜く。
「なっ!」
なんでびっくりしてんだよ。
殺しに来てるんだろ。
早く来いよ。
もちろん二重三重に聖女の卑劣な技は掛けてあるがなあ。
内面の葛藤よりも、暗殺者としての訓練が勝ったようだ。
クリフ兄ちゃんから短剣を放すと、恐ろしい勢いで踏み込んで来た。
「死ねっ!!」
彼女は、もの凄い鋭い振りで正確に私の喉を狙う。
ガチャーン!
障壁が砕け散った。
うおおおっ!
そうか、キルギスの姉だと手も伸びるのかっ!!
ガキーーン!!
リジンの加速効果でエルザさんが割り込んで来て、短剣を打ち下ろす。
キルギス姉は短剣を右から左にスイッチしてエルザさんの脇腹をえぐろうとした。
だが、エルザさんは加速中だ。
突きは宙を切った。
天分はどっこいどっこい、熟練度はキルギス姉の方が上か。
ダルシーが踏み込んで速度のあるジャブを打ち込む。
キルギス姉は体をひねらせて避けるが、かすった。
うん、重拳はかするだけで効果が発生するのだ。
私はかがんで子狐丸で、動きが鈍ったキルギス姉の足下を狙う。
彼女はブーツをあげてスネの装甲板で子狐丸を受けようとするが、魔力を流してすり抜けさせ、中の足、の中の神経を切断した。
転がったキルギス姉の上に飛び乗って荒事完了である。
いやあ、さすが聖女だ、卑怯にもほどがあるね。
「大人しくしろ」
「ぐうっ!!」
私をはねのけて攻撃しようとしたが、ダルシーが足を固め、エルザさんが腕を踏んでいた。
「姉ちゃん、姉ちゃんっ」
キルギスは泣いていた。
聖騎士団と警備隊にもみくちゃにされて、キルギス姉は拘束された。
「あんまり乱暴しないでね」
「さすが聖女さまはおやさしい、このサイラス感服いたしましたでございます」
「サイラスさん、敬語がおかしいよ」
カーチスが寄ってきた。
「くそう、俺も参加しようとしたのに」
「リジンの加速があってですわ」
『二歩ほど遅かったな、カーチス』
泣いているキルギスの頭をぽんぽんと叩く。
「まあ、なんとかするから安心しなさいよ」
「だ、だけど、姉ちゃんが……」
「なんとかしてやってくれよ、弟の為に死のうとするような良い姉貴なんだ」
「暗殺者だからなあ、すっぱり許す訳にもいかないけど、まあ、なんとかする」
「たのんだぜ、マコト」
「しょうがないなあ」
私も兄ちゃんの頼みには弱いのだ。
しかし、凄い腕前だったな、キルギス姉。
スラムでキルギスくんの手が伸びる斬撃を見て無かったら危なかったかもしれん。
「聖女さま」
リンダさんが走ってきた。
「そっちはどう?」
「こちらに来た暗殺者も倒して牢にぶち込みました。こいつも牢に入れておきます」
「おねがいね」
私は振り返った。
「さあっ、ダルシー、カーチス、エルザさん、学園に戻るよ、他の暗殺者を撃退しないと」
「お、おうっ」
「そうですわね」
「マコトさま、もう、無茶をするのはやめてください」
ダルシーが泣きそうな顔でそう言った。
すまんすまん。
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