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第848話 大神殿でリンダ・クレイブルに挑む(親指視点)

Side:親指ブルーノ


 はぁ、胸がドキドキするぜ。


 五年前、手も足も出なくてリンダ・クレイブルに負けてから、俺はずっと、あの女の姿を脳裏に浮かべていた。

 頭の中で、あの時の橋の上で踊るように長剣を振るうリンダ・クレイブルの姿は今でもくっきりと思い出せる。

 白い聖騎士の甲冑を着て、長剣を上段から振るう。

 彼女が動くたびに騎士達の首が飛び、腕が落ちる。

 悲鳴と血しぶきが夕焼けの橋を真っ赤に染めていたなあ。


 リンダ・クレイブルは美人だった。

 もの凄い目をしていた。

 仮面のように無表情に確実に死を俺たちに配り歩いていた。


 その ヴァイゲル大橋の大虐殺の日から、彼女は狂乱の大天使という二つ名で呼ばれるようになった。


 あの日は手も足も出なかった。

 俺はリンダ・クレイブルに斬られ、橋に倒れ込んだ。

 死んだと思った。


「お前は面白い体の使い方をしている、もっと練習しろ」


 意外に可愛い声で、リンダ・クレイブルは俺に言って去って行った。

 自分の血の中に倒れ込みながら、俺は悔しさに呻いた。

 慢心していた。

 魔族の血から来る膂力りょりょくでゴロツキの中で名を上げて、俺は天下を取った気になっていた。

 リンダ・クレイブルに比べれば俺なんか雑魚と何も変わらなかった。


 雇い主は教会の手勢に皆殺しにされた。

 俺は前金をはたいて傷を治し、そして修行を始めた。

 裏の仕事をして金を稼ぎ、その金で剣の師匠に教わる。

 何人もの師匠についたが、一番、身になったのは俺の半分の歳のローゼの教えだった。


 ヴァイゲル大橋のリンダ・クレイブルの記憶の動きに追いつくまで五年かかった。

 脳内の彼女のイメージと斬り合いをして、十回に六回、俺が倒せる、ぐらいに腕を上げた。

 だが、多分、まだリンダ・クレイブルの方が腕が上だ。

 彼女は、俺の五年先に行っている。


 胸がドキドキしている。

 まったく、初めて娼館に行く子供じゃああるまいしよ。


 大神殿が見えて来た。

 あそこにリンダ・クレイブルが居る。


 ちゃんと戦えるか?

 魔剣ダンバルガムに俺の魔剣の【不壊】は太刀打ちできるのか。

 リンダ・クレイブルを倒す事はできるか。

 奴が聖騎士団を使ったら、多勢に無勢で勝ち目が無い。

 一対一で仕合ってくれるだろうか。


 沼からガスが上がってくるようにボコリボコリと想いが心の表層を波打たせる。


 大神殿の前に来た。

 大きな建物だ。

 寺男が二人、階段を掃き掃除していた。

 巡礼の善男善女が何人も笑いながら階段を上っていく。


 どこに居る、リンダ・クレイブル。


 俺も階段を上がって行く。

 素晴らしい建築だ。

 地上に降りた天使の居場所にふさわしいな。


 階段を上がると、そこは回廊になっていて、左右に勇者や聖女の彫像が並ぶ。

 すげえ、生きてるみたいだ。

 今にも動きだしそうだな。


 一番奥の女神像の前でしゃがんで祈っている女聖騎士がいた。

 そんなに背丈は大きくない。

 体も華奢だ。

 だが、剣は体の大小では無い事を俺はローゼに教えられていた。

 剣はセンスだ。


 ゆっくりと女聖騎士の背中に向かって歩く。

 磨かれた大理石の床に足音がカツンカツンと響く。


「リンダ・クレイブル!」


 女聖騎士は立ち上がり、振り返った。


「なんだ?」

「俺を覚えているか?」

「ああ、ヴァイゲル大橋の、五年とは待たせるじゃあないか」


 覚えていてくれた!

 胸にぱあっと光が差したような喜びが膨らんだ。


「ががが、頑張った、頑張って」

「ああ、足運びを見れば解る、頑張ったな」

「今日! 俺はお前を越えるっ!!」


 俺は剣を抜いた。


「やってみろっ! 五本指!」


 リンダ・クレイブルは獰猛な笑いを浮かべて、腰から剣を抜いた。

 ぶわっと魔気が周囲に湧き出た。


 ガキーーン!!


 お互いが突進して、剣と剣が打ち合わさり、回廊に火花が散った。

 巡礼者が悲鳴を上げて逃げた。


 笑み、がこぼれた。


――【不壊】が効いてる! ダンバルガムと打ち合えた!


「ああ、いや、発動させてないんだ【絶対切断】」

「どうしてだっ!!」

「簡単に勝負が付いたら悪いからな」


 ガキーンガキン!


「手を抜くのかっ!!」

「ああ、久々の獲物だ、楽しまないとな」


 くっそ、動きの切れがあり得ないぐらいだっ。

 頭の中のリンダ・クレイブルより、五段も六段も強いっ!!

 気持ちで負けるな、秘術を尽くせ、動き回れ、足を止めるなっ!!


「リンダ隊長!!」

「手を出すな、私の獲物だっ」


 ガガッ、ガキンガキン。


 リンダ・クレイブルが、周囲を気にしている。


「一人か?」

「そうだっ! 一対一だ!」

「サイラス! 手勢を連れてひよこ堂と学園へ向かえっ!!」

「はいっ! 隊長は?」

「こいつを倒して、すぐ追いつく」

「はっ!!」


 聖騎士団がかけ足で大階段を下りていく。


「ゆっくりやろうじゃないか」


 リンダ・クレイブルはニヤリと笑った。


「そうも言ってられんのでな、【絶対切断】を使わせてもらう、悪く思うな」

「望む所だっ!!」


 リンダ・クレイブルはダンバルガムを振り下ろした。

 俺は力を逃がすように【不壊】の剣の棟で受ける。


 ガキキキキッ!!


 ダンバルガムの刃が【不壊】の剣とぶつかり少し食い込んで、止まった。

 よしっ!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リンダさん、「絶対切断」を最初使ってませんが、すぐに「絶対切断」を使うことに切り替えてしまったのが気になります。
[良い点] 親指は何気に建築を誉めたり彫像に感嘆したり審美眼はあるんだな
[一言] 不壊属性ならビーム以外の全ての聖剣の攻撃を防げるかな? ある意味大抵の聖剣より強そうだ
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