第83話 掃除された集会室で第三回派閥集会をする
みんなでぞろぞろと集会棟へ移動する。
あー、まだ下級貴族レストランの豚肉の味が口に残ってる。
あそこはどうかしてるよなあ。
どうやって採算を取っているのか。
「あ、カーチス、エルマー、これを渡しておくよ」
「ん、何だ?」
「……鍵、集会室の……?」
「ああ、なるほど」
二人にピカピカの鍵を渡す。
カーチスもエルマーもにっこにこであるな。
155室の鍵を開けて、中に入る。
おおおおっ。
「おおおおっ、すげえ」
「見違えたわね」
「高級感あるな」
みんなが室内を見て口々に声を上げた。
部屋はピカピカに磨き上げられていて、とてもきれいだ。
中央に大きくて重厚な十人がけぐらいのテーブルがあって、真っ白なクロスが掛けてあり、中央にきれいな蘭の花が飾ってあった。
部屋の南側に黒い革張りの大きな応接セットがある。
ソファだなあ、いいなあ、昼寝したい。
部屋には毛足の長い赤い刺繍絨毯が引いてあって、触ると、とても気持ちがいい。
「これは落ち着く、というか、かなり高そう」
「捨てちゃうものだったから気にしなくていいわよ」
ヒルダ先輩がドアを開けて入ってきた。
いつの間に。
「集会するのでしょう、ユリーシャさまにもお知らせしておいたわ」
「助かります」
私がお礼をいうと、ヒルダ先輩は笑って席についた。
「下級貴族レストランなんか行く物じゃないわよ、あそこは学園長の甥がやっていて、補助金をかすめるだけの場所だから」
「うへえ、本当ですか」
「学園長はやり手だけど、灰色なのよ。ポッティンジャー公爵派閥だから、そろそろ我が派閥へ嫌がらせに動くかもしれないわね」
学園長と対決は気が進まないなあ。
めんどうくさい。
というか、諜報の人が居ると、すんごい楽だな。
グーグル先生みたいに情報が何でも入ってくる。
私がヒルダ先輩に見惚れていると、カロルが後ろから寄ってきて肩に顎を乗せてきた。
なんだよう、なんでくっついてくる?
くっくっく、嫉妬ですか、嫉妬ですか、カロル。
大丈夫、私の心はカロルの物で、ヒルダ先輩とは遊びだからさあ。
ああ、良い匂い。
「また、マコトが変な顔をしているな」
「そうね、何を考えてるのやら。さ、席につきましょう」
カロルが私の手を引いて上座の席、いわゆるお誕生席に座らせた。
……。
あ、領袖だから、ここで良いのか。
おちつきませんけど。
ドアが開いて、大きな亜麻袋を持ったダルシーが入ってきた。
「あ、ダルシーありがとう」
「いえ」
彼女は、テーブルに大皿を置き、その上にパンをどさどさと乗せた。
というか、大皿はどこから出てきた?
部屋の隅に綺麗なカップボードがあって、茶器、食器、皿などが飾ってあった。
「クレイトン家からの寄贈でございますわ。マコトさま」
「わあ、ありがとうエルマー、助かるよー」
しかし、みんな金持ちだなあ、高そうな家具をぽいぽいと寄贈だよ。
ありがたい、ありがたい。
「マヨコーン……、君は真理だ……」
エルマーのマヨコーン愛はキモイ域まで来ているな。
「みなさまご機嫌よう」
ミーシャさんを連れて、ゆりゆり先輩が入ってきた。
最近トレードマークとなった大型お茶ワゴンを童女メイドが引いている。
ミーシャさんと、シャーリーさんがお茶を皆に配る。
我がメイドのダルシーはお茶係を外されてしょんぼりしておる。
お茶を飲み、聖女パンをかじる。
ああ、なんだか居心地の良い場所が出来たなあ。
「さて、みな、食べながら聞いてくれ、第三回聖女派閥会議を始める」
「いつも議長をありがとう、カーチス」
「きにすんな、マコト。さて、我が派閥も暗闘家を迎え入れ、ますます強大な派閥へと進化している。そろそろ思い描いていた三つ巴状態に入ったと言えるだろう」
うむ、そうだな、ポッティンジャー公爵家派閥の、諜報系が一家、暗闘系が一家抜けて、現時点で学園の求心力がそうとう落ちたね。
その分、国王派閥と、聖女派閥が力をつけたと言える。
「現時点で、ポッティンジャー公爵家の脅威は大きく減ったと言える、まあ、奴らも本家からの増強を図るだろうが、領地の騒乱があるので、そんなに強力な家は出しては来ないだろう」
エルザさんが、私の聖女パンを凝視していた。
「食べる?」
「少しいただきたいわ」
聖女パンをちぎってお皿にのせ、エルザさんの前に滑らせる。
一口食べて、彼女は目を細めて笑った。
「おいしいわね、今度ひよこ堂で買うわ」
「ありがとう」
「えへんっ、領袖、私語はやめるように」
「あ、ごめんよ」
カーチス兄ちゃんに怒られた。
「聖女派閥への加入の打診も順調に増えている。よかったら裏取りに、マーラー家の調査能力を使いたいのだが」
「かまわないわ、カーチス卿、名簿を後でくださいまし」
「助かる、ポッティンジャー公爵派や、国王派からの埋伏は警戒しないといけないからな」
「国王派も埋伏を仕掛けてくるの?」
「国王派は別に敵ではない、けど、味方でもないぜ。たとえ同盟派閥でも、子飼いの貴族を埋伏するのが当たり前なのさ」
「派閥闘争とは厳しいんだなあ」
「マコトがのんきすぎだ。もう少し警戒しろ」
「はーい」
そんなこんなで、第三回聖女派閥集会は終わった。
良い感じだね。
ああ、そうだ、ここで勉強会とかも出来るね。
うしし、なんか嬉しい。




