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第835話 ホルボス山が見えてくる(小指視点)

Side:小指ローゼ視点


 目を覚ました。

 体に巻き付けていた厚手のマントに霜が降りていた。

 藪の中はうっすらと朝靄に包まれて白い。


 火をおこし湯を沸かして茶を飲み黒パンをかじった。

 寒さで体が固まっているが、歩いて行くうちにほどけるだろう。


 みな無言で歩き始めた。

 山の空気は堅く冷たいけど澄んでいる。

 山鳥が頭の上で鳴く。


 歩くのは好きだ。

 頭の中が空っぽになって、足と景色を見る目だけの存在になったみたい。

 だんだんと体がぽかぽかと温かくなってくる。

 尾根を歩き、峠を越え、峡谷の道を抜けて行く。


「ブルーノはなんで聖女を暗殺に行くんだっけー?」

「リンダ・クレイブルとの決着を付けにだ、クヌート」

「前に負けたんだっけー?」

「手も足も出なかった。だから俺は修行をしてきっと勝てる、というぐらいまで腕をあげた。そしたらお前、リンダが魔剣ダンバルガムを手に入れたって言うじゃないか。もう嫌になってしまったよ」

「そりゃがっかりだなあー、解る解る-」

「だから、魔国からの金で出来るだけ強い魔剣を買ってリンダに挑むのよ」

「勝てるかー?」

「……やばい」

「だよなー、だよなー」


 剣の腕は実力もあるが、得物の差もあるからなあ。

 私の師匠譲りの「イアイ」の技も蓬莱刀の方が良いんだけど、高いからな。


 ブルーノが大枚はたいて買った魔剣は【不壊】の効果が宿っている。

 だが、金で買える魔剣の効果が歴史的な魔剣ダンバルガムの【絶対切断】に効果があるかははなはだ怪しい物だ。

 【絶対不滅】の剣でもなければ、何合切り結べるかは解らないな。


 それぞれの理由を持って、それぞれが死に向かって歩き続けている。

 きっと、それが人生って奴なんだろうさ。


 峠を登り切ると遠くに変な形の山が見えた。


「ホルボス山だ、綺麗な山だな」

「あそこを越えれば王都まですぐじゃな」

「腕が、なるぜーっ!!」

「ひひっ、霊山っぽい」


 なんだか船のような、テーブルのような、不思議な形だな。

 でも、もう少しで、この旅も終わりだな。

 ジーン皇国からの追っ手も来なかったし、のんびりした旅だった。


 街道の路面も綺麗になってきた。

 でこぼこや岩が少なくなる。

 宿場村を通り越すとホルボス山がだんだん大きくなってくる。


 旅人も増えてきた。

 馬車が追い越していく。

 荷馬車を追い越していく。

 大荷物を背負った歩荷の人がゆっくりと歩いていく。

 旅人の足は速い。


 人々と馬車、荷馬車は、集団になり、速力で別れバラバラになり、また集まる。

 街道って感じだね。


 三時頃、宿場街のディオールを通り過ぎた。

 歩きの旅人はここで泊まりのようだ。

 客引きの声で騒がしい街だった。


 街の門を抜けると、街道を行く旅人は私たち五人になった。


 ホルボス山の麓を巻くように街道は続いている。

 日は大分沈んだ、空が暗くなっていく。

 さあ、もう少し。

 夜には王都のスラムに入れるだろう。


 ホルボス山を左前に見て、横に見て、後ろに残していく。

 丘を越える時に川が見えた。

 ヒューム川だな。


 至るホルボス村、ホルボスダンジョンは消滅、と書かれた立て札が分かれ道にあった。

 村への道は真新しい石畳になっていた。


「覗いて行くかい、ひひっ」

「いや、村はやばい、よそ者は目立つだろう」

「ダンジョンアタックに来たってえー、言い訳もできねーしなー」

「そうじゃな、王都のスラムへ向かおう」


 噂では、ホルボスダンジョンで聖女さんは飛空艇を見つけたそうだ。

 恐ろしい事に個人で乗り回しているという。

 贅沢な事だね。

 国に売れば一生遊んで暮らせるぐらいの金が貰えるだろうに、聖女さまは要らないんだろうなあ。


「さて、もう一息じゃ、がんばろうぞ」

「そうだなー、そうだなー」


 小川沿いの道を歩く。

 サラサラと水の音がする。

 水場があったので水筒に水を詰める。


 街道は森を抜け、草原の真ん中を通っていた。

 五本指全員の足がピタリと止まった。

 クヌートとハイノ爺さんが辺りを見回した。


「ひひっ、なんだろうね、この気配……」

「強力な魔物の気配がするな」


 ヒヒーンといななきが聞こえると、真っ赤なたてがみの黒い馬にのった騎士が森から飛び出してきた。

 騎士の首が無い!

 アーメットに包まれた首は小脇に抱えられていた。


「デ、ディラハン!」

「すげー、すげーっ、捕まえてえーっ!! テイムしてーっ!!」

「散開しろっ!! 強敵ぞっ!!」


 ディラハンは跳躍すると、凄い勢いでこちらに向けて駈け寄ってくる。

 私は後ろにしていた腰の小剣を左腰に回す。

 どうして、こんな強力な魔物が王都近くに。

 そして、こいつは大陸に居る魔物じゃないぞ。


 ファンファンと耳慣れない音が後方から接近してきた。


『こちらは蒼穹の覇者号、艇長のマコト・キンボールですっ! 旅の人、避難してください、魔物はこちらで対処します』


 後方をふり返り、私は驚愕で棒立ちになった。

 小型飛空艇が凄い速度でこちらに突っ込んできていた。

 ガチャリと船首部分が左右に開くと筒がまとめられた砲のような物が突き出し、牛が鳴くような音で無数の魔導弾を連射した。


「聖女が、来た……」

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― 新着の感想 ―
[一言] あ。先程投稿後に気付きました。 みょんみょん言ってるのは北方訛りで蓬莱人とは関係無かったですね。 コミンビッチ家が蓬莱出身の北方貴族という特殊な事情を持つ家だということを失念し混同していまし…
[気になる点] ん? ローゼの師匠、イアイ使いですか。 で、王都在住? ほほう。 コイシ関係は流石に無いか? 他には教会辺りでみょんみょん言ってる人がいるらしいけどまさかね? [一言] ローゼ視点の話…
[一言] まさかここで三つ巴の邂逅
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