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第833話 野営しながら計画を確認する(小指視点)

Side:小指ローゼ


 日が落ちた。

 藪の中でたき火をおこし晩飯を食べる。

 みんなで火を囲むとなんだかほっとする。


 ジーン皇国の帝都のスラムで偶然に出会った半魔族の私たちだけれど、しばらく一緒に仕事をしているので家族のような物だ。

 一人も欠けて欲しく無いが、たぶんみんな死ぬだろう。

 しかたがない事だ。


 たき火を拾った枝で突くと、火が燃え上がった。


「ローゼはよお、小さいし、まだまだ剣の腕が上がるだろうから、その、王都で母ちゃんに金を渡して逃げても良いんだぜ」


 ブルーノがぼそぼそと言った。


「そうじゃな、みんな死ぬ事は無い、お前は王都に入らず南の方に逃げるんじゃ」


 ハイノ爺さんが黒パンを噛みながら言った。


「ひひっ、私たちの事を覚えておいてくれる奴も要るねっ」


 ミリヤムまで酒をなめながらそんな事を言う。


「あー、そうかー、強敵を倒せなかったら死ぬのかー、死ぬのはどんな感じかなー」


 クヌートはハムを影犬にやりながらつぶやいた。

 パチパチと薪が燃える音が藪の中に響く。


「ん、王都に入るよ、五人で掛かれば誰かが聖女の首に手が掛かるだろうよ」

「そうか、無粋な事を言ったな」

「良いんだ」


 母ちゃんに金を渡したら、もう、思い残す事は無いしね。

 弟の顔を見て、師匠に挨拶して死のう。


 私たち半魔は恵まれた生まれではないから。

 誰かに小突き回され、誰かを噛み殺してスラムの泥沼でただドタバタとうごめき回るのが運命だ。

 明日も明後日も、誰かと戦って殺し合って、もう飽きたね。


 裏社会でも私たちは上に登る事は出来ない。

 なぜかって? 半分魔物だからさ。

 人より少し心の形が歪で、まっとうな人間は相手にしてくれない。

 本物の魔物でも正体を隠して裏社会に潜んでいる奴もいるらしいが、半魔は駄目だな、人にも魔物にも成ることは出来ないんだよ。


 ミリヤムは魔術師になりたかった。

 魔力もあるし、頭も良かった、だけど半魔だから魔法学校へは行けない。

 しかたが無いからスラムの呪術師のオババに弟子入りして、術師になった。

 魔物のスキルをラーニングして戦う職業だ。

 冒険者になれたら稼げると思うんだけどな。

 でも、半魔だからなれない。


 ブルーノは剣の腕を磨いて磨いて、のし上がりたかった。

 でも、のし上がれない。

 ヤクザ組織で半魔だって馬鹿にされて一家を皆殺しにしてスラムに流れて来た。

 組長を叩き斬った時、奴が生粋の魔物だって気が付いて絶望したらしい。

 純粋な魔物なら組長だってやれるけど、半魔だと馬鹿にされて利用されるばかりだと言ってた。


 ハイノ爺さんは『城塞キープ』に居たという。

 凄腕だったが、給料はちっとも上がらない。

 どんな手柄を立て、どんな強敵を倒しても、半魔だからと馬鹿にされ、良いように使われてジジイになったと笑っていた。


 半端者の半魔が五人、寄り集まって五本指として名を上げた。

 でも名を上げても、私たちには未来は無い。

 皇弟の名を地に落とすためだけに、魔王軍は私たちに金を払い、アップルトンの王都に突撃させる。

 虚無、とはこういう事を言うのだなと、星空を見上げながら考えた。


 聖女の首を上げると、私たちの名前は歴史に残るかもしれない。

 それくらいの無意味な功名心で私たちは動いている。

 もう、半分死んでいるような物だ。


「明日の夕方には王都に着く」

「途中のホルボス山は聖女の領地なんだろー? そこには居ないのかー?」

「ひひっ、ホルボスの村なら王都に入るより簡単そうだね」

「寝返った甲蟲騎士団がホルボス山に詰めているそうだ」

「ああー、戦いたい戦いたいーっ、強いんだろうなあー甲蟲騎士団~」

「あまり意味がないじゃろうな。聖女は学生だから王都じゃろう」


 王都の聖女さまはさぞや贅沢で楽しい暮らしをしているのだろうなあ。

 ちえ、女神さまは不公平だな。


「王都に入るのはどうするんだい? ひひっ」

「元の計画だと『肉屋ブッチャー』が手引きしてくれるって話だったが……、無理だろうな」

「『肉屋ブッチャー』の手勢で殺されるじゃろうて」

「とりあえず、ローゼの母ちゃんを探す関係で王都のスラムが目的地だな」

「ごめんね、私の用で」

「きにすんなー、きにすんなよー、母ちゃんは大事だー」

「ひひっ、子供が遠慮しちゃだめよう」


 悪いね、みんな。


「わしが一度使った下水道の道を見に行くかのう。塞がってなければええんじゃが」

「何年前の進入口だー? 空いてるもんなのかー?」

「しらんなあ、若い頃に作戦で一度使ったきりじゃからな、塞がっていたら、また考えるわい」


 ハイノ爺さんは元『城塞キープ』だけはあって忍び込みや潜伏の技術を持っている。

 暗殺の時には良く助けてもらったな。


「王都に入ったら、全員で一度に魔法学園に攻め込むかあー?」

「ひひっ、王都に入ったら、ばらけて一度に多方向から行こうよ、まとまると豪傑が集まって来て倒されちゃう」

「王都に入るのも難しい、そして、魔法学園に入るのもむずかしそうだな」

「ひひっ、王子様が通っている学校だしねえ。きひひ、王子王子、王子さまが一目みたいねえ」

「王城の外殻砦みたいになってるらしいな。元は悪い聖女さまの邸宅だったらしい」


 それはそれは面白い巡り合わせだな。

 悪い聖女の居た場所で、小さい聖女様を暗殺する。

 うん、なかなか気が利いてるじゃないか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ばけものというわけでもないのが辛いところ(某フリーレンのほうとは違って) うわあ、青魔だ!青魔便利!
[一言] 子供の師匠ってのはどんなのかね?引き留めるタイプかほっとくタイプか。
[一言] >女神さまは不公平だな。 そもそも魔族は女神の庇護下に居る存在なのだろうか 居ないのなら平等に扱う義理も無いよね
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