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第831話 五本指は関所を抜ける(小指視点)

Side:小指ローゼ


 街道の向こうにサルヴェールの関所が見えて来た。

 あそこを抜けると首都圏なので街道を関所で塞いで人別改めをして悪者が王都に入らないようにしているんだ。


「どうするねー?」

「偽造の冒険者カードを使うしかないねえ、ひひっ」

「通れるか-? ミリヤムが俺の奥さん、ローゼが俺の子供かあ、仲良し親子だなー」

「きききっ、頑張っておくれよクヌート父さん」

「お、おう、なんかいいなあー」


 まんざらでもな顔でクヌートは懐から偽造の冒険者カードを出した。


「まあ、運が良ければ通れるよ、ひひっ」


 ブルーノも偽造冒険者カード、ハイノ爺さんは職人ギルド証を使う。

 ばれたら関所を強行突破になる。

 私たちの足取りを敵側に掴まれるので、それは避けたいのだが。


 街道の遠くのサルヴェール関はなかなか近づいてこない。

 馬鹿でかい石作の関砦だなあ。

 山間の隘路を塞いで敵軍が通れないようにしてあるんだな。

 立派な城塞だね。


「でっかいねえ、ひひっ」

「兵隊がいっぱい入ってそうだなー、何人ぐらいいるかなー、豪傑はいないかなー」


 クヌートは戦闘狂だ。

 今回の無謀な暗殺も、一人でもやるぞー、と甲高い声で宣言していた。

 自分が死ぬより、すごく強い敵と戦いたい、のが優先らしい。

 魔物使いモンスターテーマーで、主に影犬を使うが、強敵相手には隠し球の魔物を出す。

 影に潜む魔物が好きで、そういう魔物にも好かれる。

 魔王軍からの前金も魔物に好物を買ってやって無くなったそうだ。


 聖女暗殺の依頼は皇弟の案件に被せるように入って来た。

 一種の威力偵察みたいなものらしい。

 生還が難しいので、魔王軍はびっくりするほどの金を先払いしてくれた。

 金払いが良いクライアントは好きだとハイノの爺さんはホクホクしていた。


 サルヴェール関の麓に着いた。

 旅人が列をなして役人の前に二列で並んでいる。


 頭の上で、何かの鳥が鳴いている。

 ああ、アップルトンは南だから暖かくていいな。

 久しぶりだから、この季節のアップルトンの過ごしやすさを忘れていた。


 列が進む。

 係員はいい加減に冒険者カードや職人ギルド証を眺めて判子をドン、と押す。

 机には魔法でチェックする魔導具もあるけど、いちいち使ってられないのだろう。


 私たちの番が近づいてくる。

 背中に隠したショートソードの柄に手をかける。


「クヌートさん一家、大工さんかい」

「そ、そう、遍歴中」


 係員はダンと判子を冒険者カードの裏に押した。


 職人は仕事を求めて一家で別の街に行く事が多い。

 身分証明は職人ギルド証が良いんだが、大抵の職人は冒険者カードで代用する事も多い。

 大工も農民も坊さんも、若い頃はみな冒険を夢見て冒険者ギルドに登録して、そしてあんまり儲からないと気が付いてやめていく。

 迷宮都市まで行くのはよっぽどの冒険マニアだけだ。

 残った冒険者カードは身分証明書としてありがたく使われるのだ。


 思ったよりすんなりと通過出来た。

 だけど、王都の門番はこうはいかないだろうな。

 恐ろしく効き目の強い麻薬が王都で流行って入城が厳しくなったと聞く。

 我らが聖女候補さんが、その恐ろしい麻薬を撲滅したらしいな。

 各国のスパイも興味を持って、その麻薬の正体を掴もうとしていたが、どうも特殊な麻薬らしくてぱったりと流通が途絶えたという。


 ブルーノもハイノ爺さんも難なく関を通過した。

 順調だな。


 谷間のグネグネした道を歩く。


「ローゼは先に母ちゃんを探すのかえ? ひひっ」

「ああ、金を届けないとね」

「親孝行だー、偉いなー、小さいのに-」

「母ちゃんにも会いたいし、師匠にも会いたいな、弟も元気にしてれば良いけど」


 師匠は生きてるかなあ。

 大酒飲みだったからなあ。

 どっちにしろ、五年だ、私が置いて行ったお金は尽きているだろう。

 魔王軍に前金は沢山貰ったから、母ちゃんに残していこう。

 たぶん、生きて帰れないし。

 母ちゃんの優しい顔を思い出すと胸の奥に炎が灯ったように暖かくなった。

 もうすぐ会えるな。


 宿場街を通り過ぎる。

 屋台から良い匂いがしてくるが、街道の飯は高いしな。

 金が勿体ないよ。


 白い馬に乗った白い甲冑の聖騎士が三騎、宿場にいた。

 んー、ブルーノが目を付けられるか?

 しきりに旅人を見回して誰かを探しているようだが、クヌート一家に目がとまる事は無かった。


「んー、あんまり強そうじゃないなあー、残念-」


 クヌート、強そうな奴が来ても殺しに掛かるのはやめてくれよな。

 まだ王都までは遠いし。


 暗殺者は目立ってはいけない。

 ターゲットを討つまで誰にも見つからない、のが理想だ。

 道々強敵と戦っていたらそれは暗殺じゃなくて殴り込みだ。


「怪しい奴は通りませんね」

「そうだな、ヒルムガルド経由かもしれぬ」

「何としても聖女さま暗殺を阻止しないといかん」


 聖騎士達の話し声が微かに聞こえてきた。

 ジーン皇国からアップルトン王都に入る道は複数ある。

 痕跡を残すと全ての敵が阻止の為に集まってくる。


「聖女マコト様は素晴らしいお方だ、命に替えてもジーンの魔の手からお守りしないと」

「聖心教会の至宝ですからな」


 聖女の名前を口にするたびに聖騎士達の顔が柔らかくなる。

 へえ、聖女さん愛されているんだなあ。


 ふふっ、だったら何としても首を取って、こいつらの顔が怒りに歪むのが見てみたいね。

 ほぼ成功は奇跡のような暗殺計画だ。

 上手くいったら、それはそれは嬉しいだろうな。

 ふふっ、ふふふふ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気付かないでむざむざ横を通って行ったのか?それとも強さを感じて気付かない振りをしてるのかな。
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