第823話 聖心教会の結論はなんと破門でした
「んじゃあ、私は大神殿寄っていくから、アダベルたち居なかったら勉強会に参加するよ」
「わかったわ、またねマコト」
「おまちしておりますわ」
「おうー、またなー」
大神殿前で派閥員たちと別れる。
大階段前ではいつものようにアンドレとルイゾンの兄弟が掃き掃除をしていた。
「聖女さまちーっす」
「おつかれーっす」
「元気にやってるね、よしよし」
「「やってやーす」」
こいつらも不良っぽさが抜けてきたね。
割と温厚な顔になってきたよ。
とととと大階段を上がり大神殿内に入る。
「お帰りなさいませ、マコトさま」
「あ、リンダさん、孤児達は?」
「アダベルと一緒にホルボス山へ行っています」
ああ、やっぱり行った後かあ。
「教皇様はお手すきかな? 相談したい事があるのだけれど」
「教皇様は、土曜日の午後はいつもマコトさまをお待ちしておりますよ。こちらへ」
リンダさんに先導されて大回廊を歩く。
さすがに土曜日だから信者さんが沢山参拝してるね。
教皇様のお部屋に入ると、立ち上がって出迎えてくれた。
「おお、聖女マコト、良く来たね、さあさあ入って入って」
毎度毎度大歓迎だなあ。
私はソファーに腰掛けた。
リンダさんは私の後ろで立ってるね。
教皇様と季節の挨拶をして、今週の大神殿であった出来事を聞く。
おお、巡礼団同士の大げんかですかー。
喧嘩両成敗で両巡礼団とも王都から叩き出しましたか。
そうですね、大神殿で騒ぐのは常識がありませんね。
などなど、話を聞いた。
巡礼団は色んな地方から来るから、貴族同士で仲が悪い領の巡礼団がかちあうと喧嘩になる時があるんだよね。
女神さまへの信仰を深める旅行に来てるのだから大人しくしなさいよ、ですよな。
「所で、ご相談があるのですが」
「何かね、なんでも言いなさい、聖女マコト」
「ジーン皇国の皇弟が、私に暗殺者を差し向けたようです、つきましては……」
あ、教皇様の目が据わった。
後ろのリンダさんからもただならぬ殺気がする。
「できれば王都に入る前に迎撃していただきたいのですが……」
「もちろんです、リンダ師、お願いできますか」
「かしこまりました、聖騎士団の全力をもって滅殺の五本指を必ずや殲滅いたします」
お、暗殺団の名前知ってるな。
リンダさんにも報告が入っていたか。
「まったく、ジーン皇国の皇弟は身の程知らずで困ったものですね、聖心教会を舐めているとしか思えません。これは鉄槌が必要かもしれません」
「賛成です、教皇様」
「な、何をするんですか?」
教皇様は温厚だけど、怒ると怖いからなあ。
「皇弟殿を破門します」
「え、皇族を破門ですかっ!?」
「ジーンの方々は教会の至宝に手を出したらどんな目に遭うか身をもって理解する必要があります」
えー、皇族を破門するのかあ。
信仰団体である聖心教会の大きな武器が破門であるよ。
破門された人物は教会の信仰行事から一切閉め出されてしまう。
信仰村八分というか、葬儀もできないからもっと酷いね。
結婚式も、葬儀も、日曜のミサも、全部である。
偽欧州の宗教は聖心教しかないから替えの教会とかは無い。
昔は中東女神教がかなり近くまで来ていたのだけれど、偽スペインからは駆逐されてしまったのだ。
なので、破門になると、謝罪するしかない。
かなり厳しい罰だな。
「早い内に通達を出し、暗殺者への依頼を止めてもらいます。ですから聖女マコトは安心してください」
「聖騎士団も命を賭して暗殺者どもを血祭りにあげます。ええ」
迎撃だけ考えていたのだけれど、そうか、教会の使える手として政治的な圧力があるんだなあ。
皇弟様狙い撃ちならディーマー皇子への援護射撃にもなりそうだね。
王都での荒事が避けられるなら、そっちの方が良いね。
「ありがとうございます、安心しました」
「いえいえ、あなたは聖心教のシンボルとも言える人間、これくらいは当然です」
「そうですよ、何でしたらジーンにひとっ走りして私が皇弟の首を上げてきますよ」
「そ、それはやめてね」
荒事をして良いなら蒼穹の覇者号で皇弟城を爆撃しても良いのだけど、まあ、聖女が大暴れもね。
いつも、やってるような気がしないでもないけど、自重はしたいね。
教皇様にお礼を言って執務室を後にした。
「破門の効き目が出るまでどれくらいかかるかな」
「一週間ぐらいでしょうか」
「テスト中はあまり学園の外に出ない方がいいかな?」
「そうですね、万が一がありますので、ご協力ください」
「わかったわ、リンダさんもあまり無茶しないでね」
リンダさんは黙ってニヤリと笑った。
ああ、これは無茶しまくる気だ。
こわいなあ。
「これから、マコト様は男爵家ですか?」
「うんにゃ、テスト前だから学園に戻って勉強会だよ」
「さようですか、頑張ってください」
リンダさんに見送られて大階段を下りた。
しっかし破門かあ、無茶するなあ。
まあ、意趣返しに暗殺者を送ってくる皇弟さんも皇弟さんだけどね。
さて、帰るか。
ぶらぶら歩いてひよこ堂の前に通りかかると店の前のベンチで私服のキルギスくんがいた。
「お、休憩?」
「お、おう、そんなとこだ、聖女さん」
キルギスくんは聖女パンをもぐもぐしながら答えた。
なんで私服……。
ああっ、護衛かっ。
「ここでずっとパンを食べて護衛?」
「……リンダの命令」
「そっかー、退屈じゃない?」
「仕事だし」
「ふうん」
あ、クリフ兄ちゃんが出てきた。
「あ、兄ちゃん」
「おお、マコト、どうした」
「この子、店員に使ってくれない?」
「え、なんだよ、やだよ」
「え、そういや店の前にずっといるなあ、坊主」
「聖騎士の卵なのよ、ひよこ堂の護衛みたい」
「あ、そうなのか、ありがとうなあ、名前は?」
「キルギス……」
クリフ兄ちゃんはうんうんとうなずいた。
「ずっと護衛なのか?」
「うんにゃ、来週いっぱいぐらい、美味いパンを食べてだらだらしてるだけの楽な仕事、パン代もリンダがくれる」
「よし、キルギス、お前はこれから俺の部下の店員だっ」
「ちょ、ちょっとまてよー」
「店の前でだらだらしてるより、店員として働いてた方が護衛しやすいよ」
「ア、アダベルに笑われるだろー」
「きっと、うらやましがるよ」
「そ……、そうかもなあ、あいつ馬鹿だし……」
クリフ兄ちゃんが店内に入ってお父ちゃんを呼んでいた。
お父ちゃんが出てきてキルギスを歓迎していた。
困った顔をしていたけど、キルギスはちょっと嬉しそうだった。
よし、ひよこ堂は任せたぞ、キルギス店員!
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