第817話 アダベルから救助依頼が来る
カリカリカリカリ。
コンコン。
誰か来おった。
ダルシーがドアを開ける。
外にはずぶ濡れになったアダベルがいた。
「雨降ってきたー、飛空艇で孤児達を迎えに行って-」
立ち上がって外を見ると雨が本降りであった。
山の方から雨雲が下りてきたかな。
収納袋からバスタオルを出してアダベルを拭いてあげた。
「ああ、雨だと籠が使えないからか、いいよ」
「助かるよー、雨だとみんな風邪引いちゃうから」
籠は雨が吹き込むからねえ、みんなのためにアダベルが一人で飛んできたのか。
私が振り返ると、カロルとエルマーが立ち上がった。
パイロット組出動じゃ。
時計を見ると四時半ぐらい。
四人で武道場の方へ歩く。
雨脚は結構強くなってきているな。
「籠の調子はどう?」
「だいたい良い」
「今日は何をして遊んでいたの?」
「ホルボス山の頂上へ行った、曇ってたけど良い景色だった」
晴れてるときに登りなさいよ。
「雨が降って来たので急いで下りたよー」
武術場口から地下に入り、格納庫へと歩く。
「籠は? アダベル」
「広場にある、みんな宿屋の食堂でお茶飲んでる」
「村の広場に……、着陸だね……」
うーん、格納庫に行ってサーヴィス先生をピックアップするべきか。
だが、まだ金曜だから嫌がりそうだなあ。
面倒な先生じゃ。
「錬金術のテストってあったっけ?」
「水曜日ね」
あるのか、テストには立ち会って貰わないと。
まあ、あの先生は最低限の事はするから仕事があったら帰ってくるでしょう。
四人で蒼穹の覇者号に乗り込みメイン操縦室へと入る。
「クロは?」
「置いてきた、ティルダが抱いてた」
ドラゴンにへばりついて戻る事は出来なかったか、クロよ。
「エイダさん、機関士席へ操縦権委譲」
【了解しました、マスターマコト】
「ビアンカ邸基地……、ゲート開放……」
【ゲート開放します】
蒼穹の覇者号はゆっくりとゲートの中を前進しはじめる。
まあ、ホルボス山までは慣れた飛行であるよ。
発進台から上昇すると、雨が船体を叩く音がした。
魔導カメラは何か仕掛けがあるのか、ディスプレイに映る外の景色に雨粒が付く事は無い。
雨の中を蒼穹の覇者号はぴゅーっと飛んで、村の広場の直上から垂直着陸した。
慣れてるから早い。
ホルボス山地方には霧はないね。
少々雨が強いかな。
「どこか飛んでる時に急に雨になったらどうしよう」
「どこか屋根のある所に下りて雨宿りするのね」
「雨が降りそうな時は……、飛ばない……」
思ったより竜籠は雨に弱いなあ。
ガラスで囲うかとも思ったが、重い上に割れたらかなわないなあ。
ビニールとかアクリル的な物は無い物か。
私たちはメイン操縦室から出てタラップを下りた。
「マコねえちゃんー」
「マコトおねえちゃんっ」
孤児達とトール王子とティルダ王女、村の子供が宿屋の食堂から飛び出してきた。
あと、村長も来た。
「おお、お迎えですかな。お疲れ様ですじゃ、聖女さま」
「いつも子供達をありがとうね、村長さん」
「いやいや、わしらも子供達に会うのは楽しいので気にせんでくだされ」
やっぱ、この村の人はあったかいねえ。
ほっこりする。
「また来てねー」
「明日は晴れるといいね」
「また明日なー」
子供達が別れの挨拶を交わす。
クロがピョンピョンとタラップを駆け上がって船内に入った。
リーディア団長が雨の中走ってやってきた。
「お疲れ様です聖女さま」
「団長、ディラハンはどうです」
「ガラリアによると、山中を徘徊しているようです。一度正面突破を試みましたが、アリアーヌ先生の残置雷球を見て逃げて行きました。意外に知性が高そうです」
「魔物使いならばどこで操っているんだろう?」
「テイマーの姿は見えませんね」
うーむ、ホルボス山にいるのかあ。
やっかいな奴だなあ。
「引き続き警戒をお願いします、何かあったらトンボさんを飛ばしてね」
「了解です」
潜在的脅威が潜んでいるのは困るな。
王都に暗殺者も来るっぽいし。
おまえら、テスト期間中は遠慮しろ、である。
リーディア団長に手を振ってタラップを上がる。
メイン操縦室へと戻った。
アダベルは後方のベンチでクロを抱いて座っているな。
孤児達も座っている。
「エイダさん、マジックハンド左右展開」
【了解しました、左右マジックハンド展開】
広場に放置してある竜籠をマジックハンドで掴んで飛空艇の甲板に乗せる。
「さて、大神殿まで飛ぶよ-」
「ありがとうマコト」
「飛空艇は快適だなあ」
「アダちゃんの籠も晴れてると素敵だけどー」
「雨に弱いのよねえー」
「屋根が欲しいかも」
子供達が議論をしている。
密閉式の方が悪天候に強いけど、重いからなあ。
今度、カイレ気球工房へ相談に行ってみるかな。
エルマーがエンジン出力を上げ、操舵輪を引き上げて垂直上昇する。
「本当に慣れちゃうとホルボス山は近所ね」
「空を行くのは早いよね」
「雨の飛行も……、楽しい……」
蒼穹の覇者号は雨空を切り裂いて大神殿へと飛んだ。
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