第814話 ノート百冊をぶんどり学園に帰る
役人の人がノートの包みを運んで来た。
おお、茶色の包装紙はもうあるのね。
二十五冊ずつ四包に分けられていた。
「ありがたくいただくわ」
「飛空艇まで持っていくか?」
「必要無いよ」
私はノートの包みを収納袋に入れた。
「収納袋か、さすがだな」
「聖女さま、ありがとうございます。私はあなたさまを誤解しておりました。教会にでっち上げられた小娘と思っておりました。謝罪いたします、あなたは年若いですが立派な聖女さまです」
フィリップ親父さんが深々と頭を垂れた。
ええんやでー、若いので私は結構舐められるんで慣れてる。
「俺からも礼を言う、真摯に相談にのってもらって感謝している。俺は武芸だけを磨いてのし上がろうと甘く考えていた。とうさんの事業なぞ平民のする事と軽くみていたのだ。無知蒙昧だったと思う。気づかせてもらって、本当にありがとう」
「おおっ、ジャスティンよ……」
フィリップのオヤジさん、涙ぐむなって。
「人の相談に乗るのも聖女の仕事だから気にしない。あと今後のリクエストだけれど学生用のノートには罫線が欲しいわね」
「罫線? といいますと?」
「いまのノートは無地だけど、学生は板書をノートに書き写す事が多いから薄い色の横線が入っていると字を揃えやすいのよ」
「おおっ、そうですな!」
私は見本のノートにインクで横線を沢山引き、線の間に字を書いた。
「確かに書きやすそうだ」
「罫線、そうすると全紙の時に印刷をして裁断すれば良いのか……」
「印刷技術は魔法塔で開発中よ」
「魔法塔か、とうさんコネの方は?」
「無いなあ、魔法塔は王家派閥が独占しておるからなあ、ううむ、銅版の技術を使うか……」
「ああ、簡単よ、あそこは学者の巣だから、植物紙ノートをお土産に持って行けば興味を持ってくれるわよ」
「そ、そんな簡単にいきますか?」
「学者は研究が捗る物が大好きなのよ。植物紙なんか大好物よ」
「ノートを百冊でも持って挨拶に行くか、とうさん」
「そ、そうだな、魔法使いは学者なのか、知りませんでしたわい」
一般の人に取って魔法使いは悪い魔物を魔法で退治する人だもんね。
実際は魔法技術研究者というのが近いって知らないのよね。
「虫身単位の方眼の紙とかも喜ばれるわよ」
「方眼?」
私は罫線のページの隣に方眼の図を描いた。
「これも薄いインクで印刷すると設計に便利なのよ」
「! 設計ですか!!」
「そうそう、無地だと定規を当てて採寸しながら描かないといけないけど方眼ならきっちりと図面が書けるわよ」
「「!!」」
方眼紙は私も欲しいしね。
光るリボンの余白にマス目が印刷されていたから、魔法塔には方眼の技術はもうありそう。
羊皮紙に印刷してるんじゃないかな?
「すばらしいすばらしいっ!! 罫線ノートに方眼紙ですなっ、思いもしませんでしたっ!!」
「すごいアイデアだ」
本当に前世のちょっとしたアイデアが異世界では大発見なんだなあ。
生活のノウハウって凄いよね。
「ありがとうございますっ、聖女さまっ」
「いえいえ、ジャスティンもがんばってね」
「わかった、いろいろありがとう、感謝する」
ジャスティンも良い笑顔で頭を下げた。
色々と製紙業の商売では嫌な事やキツい事もあるだろうな。
我慢しないといけない事もあるだろう。
だけど、そうやってだんだんと人は磨かれてちゃんとした大人になっていくんやで。
「それでは私たちは学園に戻りますね」
「いつでもデュプレクス領にいらっしゃって下さい。歓迎いたしますぞ」
「ノートがなくなったらまた来てくれ。今度は罫線のノートを百冊、あなたに奉納しよう」
「ありがとう、楽しみにしてるわ」
よっしゃー、植物紙ノートを無償ゲットだぜーっ!!
私たちは領都ホールを後にした。
「か、簡単に手に入ったわね」
「無料……」
「まーねー」
フィリップのオヤジさんとジャスティンに見送られて、私たちは蒼穹の覇者号へと乗り込む。
「マコトはとんでもなく口が上手いわね」
「いひひ、大もうけ」
「アイデアを対価にした……」
船長帽をかぶりなおし、艇長席に座る。
「これでデュプレクス領で、もっと製紙業が盛んになるでしょう。競合している領は無いの?」
「小さい領で実験的にやっている所があるけど、出荷できるほどの産業にはなっていないわね」
「魔法塔を狙うのは……、慧眼だ……、父に話しておこう……、欲しがる」
「方眼紙は私も欲しいわ、魔法陣を書くのが楽になりそうね」
「国中の学校へ安く卸せば良いんだよ、あと印刷と噛ませると教科書とか需要があるよね」
「すごい……、印刷の領も……、採算が合いそうだ……」
喋りながらエルマーは飛空艇の出力レバーを押し上げた。
「蒼穹の覇者号……、垂直離陸……」
【了解、蒼穹の覇者号、垂直離陸シーケンス開始します】
薄く残った霧を巻き上げて蒼穹の覇者号は離陸した。
ディスプレイにこちらを見上げるジャスティンとペコペコと頭を下げているフィリップのオヤジさんが映っていた。
「さあっ、学園に戻ろうっ」
「「了解!」……!」
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