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第812話 霧の中のデュプレガルドでの再会

 あたりをすっぽりと霧が覆い、真っ白の中を蒼穹の覇者号は飛行している。


「周りが見えないと怖いわね」

【魔導レーダーで障害物は感知しております】


 計器飛行になるから夜の飛行と変わらないわね。

 エイダさんの計測だけが頼りだ。

 レーダー無かったら怖くて飛べないぞ。


【あと五分ほどでデュプレクス領都上空です】


 ウインドウ代わりのディスプレイは霧で真っ白だな。

 着陸地点も見えない深い霧だ。


「ここら辺は良く霧が出るって言ってたわね」

「けっこう山の中だからねえ」

「地形的……なもの……」


【レーダー走査で周囲の地形をマップに出します】


 ポンと音がして、デュプレクス領都の地図が出た。

 着陸出来そうな場所はーっと。


「中央の広場ぐらいしかなさそうね」

「着陸シーケンスに……、入る……」

【蒼穹の覇者号、着陸シーケンスを開始します】


 エルマーは出力を落とし、領都の広場に蒼穹の覇者号を持って行く。

 舵輪を押し下げ高度を下げていく。

 なんだか白い闇の中を降下していくみたいで怖いね。

 ここまで近づいても教会の尖塔がうっすらとシルエットで見えるぐらいで本当に視界が悪い。


着陸脚スキッド……、展開」

着陸脚スキッド展開します】


 足下でガチャンと音がした。


【高度三十、二十五】

「広場に人は?」

【おりません、高度二十、十五、十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。タッチダウン】


 おお、ショックも無く着陸したね。


【衛兵がやってきます】

「ハッチを開けて、下りて説明するわ」

【お気をつけて、マスターマコト】


 三人でメイン操縦室を出て、タラップを下りて地上へ下りる。

 石畳の広場だね。


「な、何者だっ!!」

「聖心教司祭のマコト・キンボールです。買い物に来ました」

「は?」

「え、聖女さまか?」

「飛空艇で?」

「なによ、飛空艇で買い物にきちゃ悪いの?」

「い、いえ、その、デュプレガルドにようこそ、聖女さま」

「植物紙ノートブックを産地に買いに来たのよ、文房具屋はどこかしら?」

「そ、そちらですが」


 衛兵さんが街の一角を指さした。

 もう霧が濃くて何屋かも解らないわね。


 ぶわっと強い風が吹いた。

 スカートが巻き上げられそうで上から押さえる。

 霧が飛んで少し晴れて明るくなった。

 兵隊が一連隊、広場に走り込んで来るのが見えた。


 なんぞ?


「うわっはっは、逃がすなっ!! これぞ千載一遇のチャンスと言う物だっ!! 逃がさんぞっ、マコト・キンボールっ!!」


 なんだか偉そうな髭の親父が兵隊の前に出てきた。

 だれや?


「あんた、誰?」

「ワシはフィリップ・デュプレクス!! この地の領主だっ!! 貴様を拘束するっ!!」

「なんで?」

「……え、何を言っておる、あんたは敵対派閥の領袖じゃろ?」

「ポッティンジャー公爵派とは剣弓毒を禁止する相互条約を結んでるはずだけど、来年まで」


 デュプレクス伯は家令とおぼしきお爺ちゃんの方を見た。

 家令さんが首を横に振った。


「え、聞いてないぞ、そんな条約……」

「旦那様、先日通達がきましたぞ」

「うむむ。その、あの、そうじゃっ!! これは我が家の名誉回復の為の拘束なのだっ!! お前のせいで我が息子ジャスティンは降格された、ゆるしてはおけんのだっ!!」

「ジャスティンって、誰?」

「我が自慢の息子、ポッティンジャー十傑衆の二位だったジャスティン」


 霧の向こうからガタイが大きい奴がのっそりとやってきた。


「ハーキュリーの二つ名を持つジャスティンがお前を成敗するっ!! やってしまえ、ジャスティン!!」


 なんだよ、ハーキュリーの実家だったのか。

 奴はこちらを見て目を丸くしている。


「いまじゃ、いまなら屈強な護衛もおらん、聖女を叩き斬るチャンスぞジャスティンッ!!」

「とうさん、あのな……」

「どうしたんじゃ、今がチャンスじゃ、学生三人でまんまときおったのだっ、聖女を倒してお前も十傑衆に復帰じゃっ!!」

「だ、旦那さま、さすがに条約が……」


 ジャリジャリジャリーンとカロルの横でチェーン君が立ち上がった。

 エルマーも懐から三節棍を出して構えた。


「俺は、あの子に負けたんだよ」

「な、なにいっ!! あんなちびっ子にかーっ!!」


 ジャスティンは頭を私に下げた。


「どうしたら暴れないでくれるかな?」

「ノートを百冊くれ」

「解った。領兵、解散しろっ!! 聖女さまに不敬だぞっ!!」


 よっしゃー、ノート百冊、無料で分捕ったぞっ!!


 ジャスティンは私たちを領のホールへと案内した。

 フィリップのオヤジさんも一緒だ。


「なんだよ、あんたがどうやって負けたかオヤジさんに言ってなかったの?」

「言えないよ、飛空艇の魔導機関銃で体中バラバラにされたが一瞬で戻されたとか、信じてくれるわけがないだろう」


 それもそうか。


「しょ、植物紙ノートを、無料で百冊かー、そ、それはちょっと出し過ぎじゃないのか、ジャスティン」

「とうさん、領都をあの船で焼け野原にされるぞ、今代の聖女の武装は頭がおかしいぐらいなんだ」

「え、そ、そんなにー?」

「あんた、十傑衆は首になったの?」

「ああ、今は領都でぶらぶらしてる」

「す、素晴らしい剣豪のジャスティンを、お前達が、お前達が」


 フィリップのオヤジさんが泣き出しおった。

 しらんがな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あゝー、あの、足を抜かれた……
[一言] ポッティンジャーは馬鹿なのかな?ただでさえ聖女陣営は過剰戦力だってのに、貴重な戦力をクビっすか。想像以上の暗愚マンだなあ。 ビビアン様大丈夫? お父たまがこんなに頭お馬鹿じゃ抗争さえやらせて…
[一言] …フィリップのオヤジさん…虐殺されなくてよかったね♪
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