第811話 デュプレクス領へ蒼穹の覇者号は飛ぶ
学園の中庭に敷布を敷いてみんなでランチである。
ぱくぱく。
うまうま。
シチューポットがなんといいますか、イルダさんのシチューが入ったパイで美味い。
サクサクした口触りで牛肉、ジャガイモ、人参の味のハーモニーだ。
美味い美味い。
空はあいにくの曇り模様だけどねえ。
「午後の授業をさぼって飛空艇でデュプレクス領へ飛ぶのだけれど、エルマーもくる?」
「いくとも……」
大盛りマヨコーンパンを食べながらエルマーは即答である。
「目的は植物紙ノートか?」
「そうだよー、やっぱ紙ノートじゃないと捗らないし」
「お、おこづかいが、その、あまり無いのですけれども……」
「ああ、派閥のお金を使うから気にしないでメリッサさん」
「まあっ」
「それは助かりますわー」
コリンナちゃんの顔をみたら、まあいいぜ、という顔をされた。
簡易ドライヤーや聖女の湯の元で、そこそこ儲かっているからねえ。
ヒールチョコボンボンとかのあがりもあるし。
「ほとんどマコトが稼いだお金なのよね」
「いーんだよ、カロルが居てくれないと聖女の湯とか作れなかったし、コリンナちゃんが会計してくれなければ儲かってないし。聖女派閥の稼ぎじゃ」
気になるのはデュプレクス伯爵家がポッティンジャー公爵派閥な所だけれど、まあ、城下街で買い物してる学生に兵隊を差し向けたりはしないだろう。
……たぶん。
「俺も行くか? 用心のために」
「いらん、勉強しておれ」
「ちえー」
カーチス兄ちゃんは午後さぼりたかったようだ。
ちゃんと魔術実習しなさいよ。
レモネードをぐびぐび飲む。
あー、酸っぱくて美味しいっ。
「さっさと行って買い付けてくるわ」
「おねがいしますわー」
「植物紙ノートだなんて夢みたいですわー」
植物紙ノートは、まだまだ高いけれども市場には出回っていて流行初めな感じだよね。
世界の近代化や行政府の官僚化は植物紙から始まるのじゃ。
あと五年もすれば、王府や教会も植物紙を使い始めて書類が能率化されそうだね。
印刷機も出来つつあるし、十年ぐらいで新聞も発行されるんじゃないかな。
近代になったら色々便利になりそうよね。
ランチも終わったので、パイロット組は別れて武術場の方へと歩く。
倉庫の奥から地下へと階段で下りる。
格納庫に入ると蒼穹の覇者号のハッチをエイダさんが自動的に開けてくれた。
メイン操縦室に入り、私は艇長席へ、カロルは副艇長席へ、エルマーは機関士席へ。
「今日は……、僕が操縦したい……」
「エルマーやってくれる?」
エルマーは静かにうなずいた。
「エイダさん、コントロールを機関士席へ委譲します」
【了解です、マスターマコト】
ボタンをぽちっと押して操縦権を機関士席に移した。
「出力……、上昇……」
【エンジン出力上昇】
ふわりと浮遊感。
「ゲート……、開放」
【一番、二番、三番、四番ゲート開放します】
ゲートが手前から順番に開いていく。
エルマーが操舵輪を前に倒すと蒼穹の覇者号はゆっくりと前進を始めた。
発着台の岩棚についたら垂直上昇、眼下に王都の町並みが広がった。
「目的地……、デュプレクス領」
【マップモニターにルート図を表示します】
脇のモニターにアップルトンの地図が現れた。
デュプレクス領都は王都の北西の川沿いの街だ。
ヒューム川の支流だね。
ポッティンジャー公爵領の近くだ。
エルマーは操舵輪を回し出力レバーを押し上げて発進した。
「安定してるわね」
「ありがとう……、カロル」
蒼穹の覇者号は速度を上げた。
しばらくするとホルボス山が左手に見えた。
ああ、他の人が操縦してくれるとラクチンだな。
おっと、小雨が降って来たな。
本降りにならなければ良いけど。
「ホルボス山の横の街道をずっと北西に上った所にあるのね」
「物流は街道かな?」
「違うわね、ヒューム川の物流を使うからヒルムガルドで集積して王都に下りてくるみたいね」
ヒルムガルドは物流の中心地だなあ。
船の方が貨物量多いもんね。
植物紙ノートが高いのは命令さんちのせいか。
「カロルのノートもデュプレクス領産?」
「そうね、うん、領の印が入ってるわ」
カロルが収納袋から植物紙ノートを取り出して確認していた。
前世のペラペラなノートでは無くて書籍のような重厚な皮装丁でいかにも高そうだなあ。
NOTEBOOKと表紙に金箔押しで書いてあった。
「罫線は入ってたっけ?」
「罫線? 無地の紙よ」
ふむ、罫線印刷はされてないか。
それもそうか、印刷技術がまだ無いものな。
無地の方が漫画は書きやすいが、字を書くのには行がよれるので使いにくいかも。
「エルマーのノートは羊皮紙?」
「そう……、だからちょっと楽しみ……」
侯爵家のおぼんぼんでも羊皮紙か。
中世の最先端技術なのだな。
うむ。
芙蓉や蓬莱では紙はもっと前から実用化されてるから、やっと大陸に技術が入って来た所なのだろうね。
蒼穹の覇者号は深い森の上を速度を上げて飛び越していく。
雨がちょっと心配だな。
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