第798話 大神殿で巨匠の絵の仕事を手伝う
打ち合わせが終わって教皇様の執務室を後にした。
「これから遊びに行くの?」
「いや、キョショーに呼ばれた、私は忙しいのだ」
あら、なんだろ。
「ついて行っていい?」
「いいよー」
「洗礼式のポスターを描くのにモデルになれという事ですよ」
リンダさんが苦笑しながら言った。
ああ、なるほど。
三人で食堂に向かう。
「あ、アダベルさん、聖女さんこんちゃーす」
「おお、これはこれは、アダベル殿、来て下さったか。聖女さまもいらっしゃい」
マルモッタン巨匠とお弟子さんが迎えてくれた。
「アダベル殿、竜化しておくれ、スケッチをする」
「わかった、練兵場?」
「そこがいいだろうな」
食堂の絵は色が付いて綺麗になっていた。
わあ、やっぱりプロの絵は凄いなあ。
私のスケッチを参考にしたのだろうけど、もっと先に進んで芸術性を深めた感じだ。
「良い絵ね」
「ありがとう、あなたに褒められると嬉しい」
巨匠は髭もじゃの顔をくしゃくしゃにして笑った。
私たちは食堂を出て練兵場へと向かった。
「洗礼式のポスターも作ってくれるの?」
「本来はデザインの仕事はしねえんですけどね、親父がこの前、聖女様に失礼したって事で特別でさあ」
なんだかんだで教会は文化的事業が多いなあ。
「版画なの?」
「銅版画ですよ」
そうするとモノクロの絵だね。
前世日本なら、木版画で多色刷りができるけど、こっちの世界だと、単色の銅版画になる。
練兵場で聖騎士達をどかしてアダベルは竜化した。
どーんとでっかいね。
「何をするんだ聖女?」
キルギスが聞いて来た。
「アダベルの洗礼式のポスターを作るのにスケッチだって」
「へえ」
巨匠は木炭を持って羊皮紙にスケッチしまくっている。
お弟子さんは羊皮紙を交換する役目だね。
「いいよいいよー、目線をこっちに、いいよいいよー」
でっかいアダベルはなんだかニマニマしている感じだね。
ドラゴンの顔だから解りにくいけど。
巨匠の絵は……。
うーん、中世の絵だねえ。
線画だとしょうが無いかあ。
油絵の巨匠だからね、線画は少し畑違いかもしれない。
わりと邪悪な感じのアダベルだ。
「お弟子さん、ペンはある?」
「ありますが、聖女さんも描きますかい?」
私はうなずいた。
羊皮紙と羽ペンを借りた。
インクは青いな。
さらさらさら~~。
あっはっは。
やっぱ日本の漫画の表現力なめんなって感じのドラゴンだ。
可愛くてそれでいて精悍で、力強い。
「おおっ」
「すげえっ!」
「こりゃ、なんて表現だ、良い線だなあ」
ドヤぁっ!
ちょっとテンションが上がったので、可愛い漫画絵のアダベル女児も隣に入れた。
「うわ、似てますね、聖女さま」
「すげえですよっ!」
「かーっ!! 才能か、才能なのかーっ!!」
はっはっはっ、前世で過労死するほど描いた漫画絵なめんなっ。
「巨匠、これで行きましょう、銅版なら綺麗に彫れるっすよ!」
「そうだな、良いかい、聖女さん?」
「いいよー、アダベルのポスターだし」
「なになに? おー、おーっ!! ドラゴン形態すげえっ! 人化の絵も可愛いっ!!」
人化したアダベルが寄って来て、私の描いた絵を見て感嘆の声を漏らした。
「字の入る場所もあるし、こいつで行きましょうぜ」
「そうだな、ワシは線画は苦手じゃ」
マルモッタン師は油絵の巨匠だしなあ。
「頂いていきまさあ、ありがとうございあす、聖女さま」
「本格的に絵をやらないかね、聖女さま、あんたなら歴史に名を残す画家になれるぞ」
「まあ、絵は趣味だねえ。聖女なんで」
私の描きたい絵は、植物紙と印刷機が発展しないと描けないからなあ。
「なんとも勿体ない、平民なら養女にして絵師の英才教育をするところなのに」
「本当に、勿体ないっすなあ」
「ポスター出来たらくれー」
アダベルが手を出してねだった。
「良いっすよ、刷り上がったら持ってきまさあ」
「やはり聖女さまは才能の固まりであられる」
リンダさんが目を閉じてうなずいていた。
おっと、遊んでいたらこんな時間だ。
学園に戻らないとホームルームに間に合わない。
「それじゃ、巨匠さん、お弟子さん、失礼します」
「絵の具とか、足りてやすか?」
「絵の具はしばらく大丈夫そう、キャンバスを何枚か貰いに行くかも」
「おお、絵が出来たら見せておくれよ」
「解ったよー」
私は巨匠たちに手を振って、練兵場の出口に向かった。
アダベルは大神殿の中に向かったから孤児院に行くのかな。
聖騎士さんたちが散開して、また訓練を始めた。
キルギスも素振りを始めた。
さてさて、帰ろう。
校門にさしかかった時、六時限目の鐘が鳴ったので、急いで校舎に飛びこんだ。
一段飛ばしで階段を駆け上がり、廊下を走って、アンソニー先生を追い越してA組に入る。
「キンボールさん、廊下を駆けてはいけません」
「すいませーんっ」
担任よりも先にA組に入ったのでセーフである。
カロルが笑って小さく手を振ってくれた。
急いで自分の席につく。
あぶないあぶない。
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