第7話 これから過ごす教室で未来を夢見たりする
入学式も終わったので、A組の皆さんと、ぞろぞろと教室に向かって移動する。
ほえ~、学園内もゲーム通りだねえ。
超華美というほどでも無く、とはいえ、質素でもない、上品な感じの作りの建物だ。
一年の教室は二階にあって、A組は一番奥であった。
教室に入ると、机の上に羊皮紙で作られた名札が置いてあって、そこに座る。
ゲームの通りに、お約束の窓際の一番後ろの席。
カロルも普通に隣の席だね。
にまにましながら、机をなでる。
ここでこれから三年間、生活するのだなあ。
楽しみだなあ。
「マコトが隣なのね、一年間よろしくね」
「うん、カロルと一緒にがんばるよ、こちらこそよろしく」
なんだか実家のような落ち着きを感じる視界なのであるな。
漫画を描くために、ヒカソラはやりこんだからなあ。
ちなみに、A組はお勉強のできるクラスである。
成績優秀者ばかりを集めていて、半分は上流貴族、半分は下級貴族ですね。
勉強のできる下級貴族さんは、将来お城で官僚となる人生であります。
B組は普通クラス。
お勉強が苦手目の人たちが集まるクラスです。
ロイド第二王子とか、カーチス兄ちゃんとかが居る。
C組は、いわゆる、正統派お貴族クラスです。
勉強のできない上流貴族の令嬢令息を閉じ込めておく場所でありますな。
ビビアン様と、お取り巻き衆は、だいたい、このクラスです。
アンソニー先生が教壇で、カリキュラムとか、今後の学校生活についての注意なんかを話している。
ふむ、今日は午前で解散して、お昼ご飯、一時から入寮説明会か。
ゲームでは寮の中は、アニメーションアイコンだけで、細かい描写が無かったんだよね。
一週間の予定を立てると、ベッドでお休みアイコンが出て、その後日曜まで自動で訓練のミニアニメだった。
四人部屋の自室よりも、カロルの部屋の方が印象が強いよ。
攻略対象の好感度の確認とか、デートスポットを教えてもらいに土曜日に毎回行ってたからね。
「それでは皆さん、ルールを守って、楽しい学園生活を過ごしてください」
アンソニー先生が話をしめて、最初のホームルームが終わった。
さて、昼食をとらねばなるまいて。
どうしようかな、安いけど、まずいと噂の下級学食に行くかな。
凄くおいしくて馬鹿高いと噂の上級学食には、子爵位以下の令息令嬢は入れないのだ。
カロルはどうするのかな?
「カロルは昼食はどうするの?」
「んー、どうしようかな、なんだかおいしいパン屋さんが学園の近くにあるって聞いたけど」
「あ、それは、多分、私の実家だわ。ひよこ堂」
「そう、そこ、マコトの実家だったのね。世間って狭いわね」
「どうする? 行くなら、おすすめのパンを紹介するよ」
「そうしましょうか」
カロルが立ち上がった時であった。
「金的~、金的令嬢はどこだ?」
大柄な黒髪短髪のイケメンが教室のドアを開けて言った。
げ、カーチス兄ちゃんじゃん、B組から何しに来おった?
陰険メガネのジェラルドが黙って私を指さしたので、カーチス兄ちゃんはまっすぐこちらへ向かってきた。
「ほー、お前かあ、金的令嬢は、おー、すごい綺麗だなあ」
「カーチス様、マコトが驚いていますよ」
「カロリーヌ嬢も一緒か、仲良くなったんだってな、うんうん」
つうか、カーチス兄ちゃんは目上だから、勝手に返事しちゃならねえんだよね。
めんどくせえなあ。
「おっと、俺はカーチス・ブロウライト。辺境伯家の次男坊だ。だが、敬語とか礼儀とか、気にしねえから、直答をゆるすぞ」
「初めまして、ブロウライトさま」
初対面だしなあ、サービスでカーテシーをくれてやろう。
「なんか、思ってた金的令嬢とちがうな、これ、本物か?」
「金的令嬢はやめろ」
私が睨むと、カーチス兄ちゃんは吹き出した。
カロルもついでに吹き出した。
「ああ、そうだそうだ、こういう感じを想像してた、いいないいな、お前」
「マコトと呼んでいいですよ、ブロウライトさま」
「マコトか、うんうん、いいないいな、俺の事もカーチスと呼べな」
「わかったよ、カーチス」
教室内が、シン、とした。
「すげえ、すげえよ、金的令嬢」
「会ったばかりの辺境伯令息を呼び捨てにするかあ?」
「朝からのやらかしの連続で、私、マコト様から目が離せませんわ。なんなのでしょうか、ドキドキする、この気持ち」
「無礼の域を超えているが、不思議な野人の品位、みたいな物を感じる」
う、うるせえよっ。
カーチスはクククと笑っている。
「そうでなくちゃあなあ、凄く気に入ったぜ。マコト、将来は、俺んちに嫁にこい」
ああ、カーチス兄ちゃん、お得意の初対面プロポーズが来た。
これにだまされて、何人のヒカソラファンが、友情エンドになり、カロルと密造リンゴ酒を飲む羽目になったか。
この漢は出会いイベントでプロポーズしてくるし、気さくだし、付き合っていて楽なのだ。
だがしかし、彼の告白イベントを発生させるには、あきれるほどの戦闘能力値が必要なのである。
初見では武力を上げずに、「あれー、カーチス兄ちゃんが告白にこないよう」と、泣き濡れる事必至であるよ。
ブロウライト家は、代々王国騎士団の団長をやっている家系で、カーチス兄ちゃんも武芸マニアだ。
ヒカソラ最大の戦闘力を誇り、竿役として、BL人気も高い。
攻略法としては、とにかく、体力、武力をあげまくる。
ドラゴンを単体で倒せるぐらいになって、初めて告白にくるという、難儀な兄さんだ。
でも、あんまり恋愛してる感じがしないので、一般ヒカソラファンからの人気は低い。
近所の兄ちゃんみたいで、一緒にいると楽しいけど、萌えないんだよねえ。
好感度あがってくると、ぶっきらぼうな優しさは見せてくれるんだけど、キュンキュンするというよりも、カワイイ止まりであるよ。
「結婚は考えておきます。で、何の用ですか」
まだ入学式の日だから、パラメーターなんか一つもあげてないのに、この脳筋武力馬鹿がなぜに出てくるのだ?
「俺が倒そうと目を付けていたマイケル卿を、女子が下したって聞いてなあ。奴を倒したって光の魔法を見てみたい」
「いいけど、ご飯食べたら入寮なんで、今日は時間無いですよ」
「よし、付き合ってくれたら、上級食堂でランチをおごってやるよ」
「いきます」
「よしよし即答だ、カロリーヌ嬢、お前も行くか?」
「マコトの魔法に興味がありますから、お付き合いしましょう」
三人で教室を出ようとしたら、底冷えするように怜悧な美貌の美少年が、我々の前に立ち塞がった。
「僕も、君の魔法が……、見たい」
エルマー、お前もかあっ!
お前は魔術のパラメーターが上がらないと、知り合えないキャラだろうに。
どうしてこうなった。
「エルマー卿も、魔法オタクとしては見逃せないよなあ、こいこい」
「感謝、するよ……、カーチス卿」
四人でぞろぞろと校舎を歩いて行く。
うう、イケメン二人と一緒なので、回りの令嬢の目がとんがっておる。
「まあ、パン屋の娘のくせに、エルマー様と、カーチス様を連れて歩くなんて、身の程知らずね」
「思い上がってるわ、淫売の令嬢までつれて」
「どこで、何をするつもりなのかしらね、いやらしいっ」
うわ、ここら辺はC組だから、アレな令嬢の巣だわ。
ビビアン様が出ないようにー。
出たら絶対に絡まれる。
と、思ってたら、目の前に、黄色のドレスの令嬢が立ち塞がった。
「カーチスさまっ、どういうおつもりかしら、平民の生徒と、その、忌まわしい方をつれて」
「ん、エルザか、闘技場で、マコトの魔法をみせてもらうつもりだが」
「あなたさまは、誇り高いブロウライト辺境伯家の者ですから、そのような下賎な存在とお付き合いすべきではありませんわ」
カーチス兄ちゃんの婚約者のエルザさまだなあ。
勝ち気な美人さんで、ゲームでもよくカーチス兄ちゃんと喧嘩しておった。
カーチスルートの後半では、マイクーと組んで、私を刺殺に来る。
私の、お腹がぶっすり刺されて、血がどばどば出ているスチルが印象的だったね。
まあ、光の聖女候補なんて嫌な生き物は、急所を刺されても、自分で自分に治癒魔法かけて、ぜんぜん平気だったのだが。
「カロリーヌは忌まわしくもないし、下賎でもない、取り消せ」
エルザ様は、くっと奥歯をかみしめた。
「も、申し訳ありません、と、取り消します、カロリーヌ様」
「お気になさらずに、気にしておりませんわ、エルザ様」
しかし、カロルの扱いが酷いなあ。
これはゲームでは見せて無い黒い部分なんだろうなあ。
あんまりにアダルトな要素ではあるしね。
私たちは無言でエルザ様の前を通りすぎた。
「カーチスは、エルザさんに、もっと優しくしなよ」
「……え? やさしく見えなかったか?」
「やさしくしてるつもりだったのー?」
「え、そ、そう見えたのか?」
なんだよ、この明治の軍人みたいな朴念仁は。
「私も冷たくあしらっているように見えましたわ」
「カーチス卿は……、突っぱねているように……、見えた」
「エルマー卿、お前までっ! お、俺としては、ふ、普通に接していたつもりだったのだが……」
「カーチスはアレだ、手に入れちゃうと、相手を雑に扱う男だね」
「うっ」
思い当たるところがあったようだ。
カーチスは胸を押さえてうつむいた。
そういうの良くないぜ、カーチス兄ちゃん。
「というか、婚約者がいるのに、私に嫁に来いって言ったのかっ」
「あれは、妾に来い、という意味だぞ」
「堂々と酷いことを言う漢だなっ、あんたはっ!!」
そういう所やぞ、カーチス兄ちゃん!!