第786話 しょうが無いのでアダベルとティルダ王女と温泉に入る
リーディア団長から詳しい報告を受けた。
いやあ、アダベルが居て良かったなあ。
「ありがとうね、アダベル」
「いやあ、この村を守るのは私の使命だから」
アダベルは照れながら笑った。
私は彼女の頭をなでてあげた。
「ディラハンはともかく、竜馬をテイムしている魔物使いは少なそうですね。どちらもアライド王国産なので絞り込めるかもしれません」
「竜馬は人気があるの?」
「アライド王国の勇者ジョスリンが乗っていたという伝説があって人気があります」
小型ドラゴンに騎乗して戦うのかあ。
勇壮な感じだね。
「解ったわ、魔物使いの方はヒルダ先輩に頼んでみましょう」
「マーラー家のご当主さまならば心強いです」
「あ、あと、その、できれば飛び道具か、魔法戦力の補強を……」
「もうしわけありません、アイラの蜂が回復するまで中、遠距離が不安です」
うーん、どっちも手配するあてが無いなあ。
エーミールは雇えないだろうし、派閥員の魔法使いもこれからテストだし。
困ったなあ。
あ、そうだ、後でサーヴィス先生に聞いてみよう。
魔法塔関係者だから、誰か紹介してくれるかもしれない。
「後で学者さんにあてが無いか聞いてみるわ」
「おねがいします、機動力のある敵とは相性が悪いですので」
しかし、ホルボス村だけじゃなくて、地獄谷の防衛も手配しないといけないな。
あっちは聖騎士団にお願いしようかな。
しかし、魔物使いの目的はなんだろう。
トール王子とティルダ王女の誘拐か?
ジーン皇国に依頼されたのだろうか。
それにしては協力する諜報員が居ないし。
敵の目的が解らないと対策が立てにくいな。
まあ、いいや。
考えていてもしょうがない。
私は立ち上がった。
「お帰りですか聖女様」
「せっかくだから温泉に入ってくるわ」
「あ、私も私もー、ティルダも入ろうぜー」
「アダちゃんと一緒にお風呂! いくいくーっ」
ひとっ風呂、邸宅の温泉に入って学園に戻ろう。
「えー、良いなあー」
「お兄ちゃんは男の子といつも入ってるじゃない」
「トール王子は村の温泉に行ってるの?」
「そう、あいつらと入ってるよ。あそこの木のお風呂が好きだよ」
村の共同浴場は湯船が古い木で肌触りが良いんだよね。
孤児院の女の子二人も一緒に温泉に入る事になった。
五人だけど四人は子供だから大丈夫だろう。
邸宅のお風呂は広いからね。
「わあい、マコねえちゃんとお風呂ー」
「ひさしぶりー」
孤児院の子供も最近かまってあげてないからなあ。
私たちは邸宅の東ウイングにある浴室に向かって歩いた。
脱衣所で服を脱いで浴室に入ると、独特の硫黄臭がする。
あー、温泉っぽいね。
子供達は裸でビョンビョン跳ね回っている。
真っ黒な御影石の円形浴槽の縁から、こんこんとお湯があふれ出している。
かけ湯をしてからお湯の中に入る。
「あ”~~~」
「マコトおばさんくさい」
「うるさいわねっ」
子供達が元気よくジャブンジャブンと飛びこんでくる。
うん、みんなが入っても余裕があるね。
広いお風呂は気分が良い。
天井近くの窓から良い風が入ってくるね。
ふんふんふ~んと鼻歌も出るね。
「アダベルは竜馬と話せないの?」
「え? あいつら頭悪そうだから喋れないだろう」
「竜の仲間なのに」
「ワイバーンとも話せないしなあ。アレも喋れないだろう」
同じ竜の仲間でも色々なんだなあ。
しかし勇者の騎獣なのか、見て見たかったなあ。
暖まったので洗い場に行くとダルシーが現れて私を隅々まで洗ってくれた。
「子供達も洗ってあげてね」
「かしこまりました」
子供達はダルシーに洗われて、くすぐったがってキャッキャと笑っていた。
やっぱり子供と一緒にいるといいね。
心が温かくなる感じがするよ。
アダベルが広い浴槽ですいすいと泳いでいた。
ちゃんと入りなさいよ。
さて、十分温泉を堪能したので脱衣所に行ってダルシーに体を拭いて貰った。
新しい下着に替えて制服を着込む。
ああ、さっぱりした。
手の指がしわしわになったよ。
一度ダイニングホールに戻る。
「ちょっと基地に行って、サーヴィス先生に魔法使いを紹介してくれないか聞いてみるよ」
「ああ、サーヴィス先生ならば期待できますね」
「魔法塔の偉いさんだからね」
「すいません、私がふがいないばかりに」
「いやいや」
「いやいや」
私とアダベルが同時に否定した。
アイラさんの蜂を叩き落としたのは私たちとアダベルだしね。
村の猟師さん、とも考えたが領民を危険にさらすのは悪いなと思い返した。
コリンナちゃんを常駐させるわけにもいかないし。
領地防衛も結構手間だなあ。
でもまあ、甲蟲騎士団がホルボス村に居てくれて心強い。
ザスキアはとっ捕まえてくれたし。
エントランスホールに入り、階段を下りて地下礼拝堂に向かう。
アダベルや子供達もぞろぞろと付いてきた。
『これより教会施設』の張り紙の入り口から、ホルボス基地へと入る。
長めの素掘りのトンネルを抜けて飛空艇の発着所へと出る。
「わあ、広いねえ」
「ここに飛空艇が着くんだよー」
「すごいねえ」
アダマンタイトの大きいドアの端の方に人間用の出入り口があって、そこから格納庫に入った。
中では学者さんたちがわやわやと動き回っていた。
相変わらず精力的に研究してるなあ。
「おや、マコトくん、どうしたね」
サーヴィス先生が近づいてきた。
「今日、魔獣の襲撃があったんですよ」
「……、ほう」
どうやら知らなかったらしい。
「竜馬に乗ったディラハンという変わり種で、機動力が高いので魔法使いを雇いたいのですが、サーヴィス先生、心当たりはありませんか?」
「ふむ……」
サーヴィス先生は腕組みをして考え込んだ。
「難しいですか?」
「いや、凄腕は魔法塔に沢山いるのだが……、ここに来ると格納庫で研究に入ってしまいそうでね」
ああー、魔法塔の凄腕魔法使いとは、もれなく魔導学者なのかっ。
そりゃ、防衛するよりも研究に没頭しそうだなあ。
「竜馬の属性は火、ディラハンは闇か、対角は水と光……、いや、雷属性が良いか。そうすると、あいつかー」
「心当たりがありますか?」
「うってつけの奴がいるよ」
「助かります、賃金はどれくらい必要ですか?」
サーヴィス先生は不思議な物を見るような目で私を見た。
「いらんよ、ここに来て研究できるなら無料で来たがる奴ばかりだよ」
「あ、あんまり研究されると困るのですが……」
「あと、ここで研究している学者たちの中でも二三人攻撃魔法が得意な者がいるから、魔獣が攻めて来たら呼びたまえよ」
そうかそうか、戦える学者さんもいるんだな。
「魔法塔へ行こう、あいつは喜ぶぞ」
なんとなく不安だが、雷属性の魔術師は助かるな。
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