第785話 ホルボス山から急報、とりあえず現地へ飛ぶ。
フンフンフーンと鼻歌を歌いながらカロルの絵を描く。
午後はみんなは魔法の実習だが、私は自由時間であるよ。
しかたが無いから油絵を描いているのだな。
うしし、でも綺麗に描けているな。
良い感じ良い感じ。
ぺたぺたぺた。
硫黄掘り用の防護服を着て絵を描きまくる。
はあ、良い感じに集中できる。
うんうん、良い色。
細筆に持ち替えて細部の調子を整える。
綺麗だよ~カロル、うぇひひひっ。
コンコンと集会室のドアがノックされた。
ん? なんだ、こんな時間に。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
ダルシーが現れてドアを開いた。
向こうに居たのは甲蟲騎士のトンボさんだった。
「聖女さまに伝令ですっ!」
「ホルボス山に何か?!」
「はいっ、ディラハンが出現しましたっ、甲蟲騎士団、総出で陣を敷きましたが恐るべき機動力で突破されましたが、アダベルさまがドラゴンになってそれを阻止、ディラハンは逃亡いたしましたっ」
ほっ、アダベルが撃退してくれたのね。
しかし、ホルボス山か。
「テイマーの魔獣かしら?」
「あっ、その可能性もありますね、ですが未確認ですっ」
私は描きかけの油絵を部屋の隅に立てかけて、防護服を脱いだ。
「ホルボス山に向かいます、伝令をありがとうっ」
「いえっ、当然の任務ですから」
「怪我人は?」
「軽傷が何人かです。ポーションで治療は完了しておりますっ」
トンボさんはキビキビしていて良いね。
軍人さんっぽい。
私は壁に掛けた黒板に伝言をチョークで書いた。
『ホルボス山で事件なので飛空艇で出かけてきます。皆さんは勉強をしていてください。マコト』
パンパンと手を叩いて手についたチョークの粉を落とした。
「さあ、行きましょう、あなたも付いてきて」
「はっ!」
トンボさんは敬礼をしてくれた。
集会室を施錠して、かけ足で武術場口に向かう。
武術倉庫を抜けて、階段を降りて待合室に入り、地下道を走って格納庫に飛びこむ。
「エイダさん、発進準備」
【了解しました、マスターマコト】
蒼穹の覇者号のハッチが開く。
私とトンボさんは駆け上がりメイン操縦室に飛びこんだ。
船長帽をかぶり艇長席に上がった。
「蒼穹の覇者号、緊急発進!」
【メインゲート、四番、三番、二番、一番、開きます】
バクンバクンとゲートが開いていく。
私は出力レバーを押し上げた。
ふわりと軽い浮遊感。
操舵輪を前に倒して微速前進させ、ゲートを順々に通過していく。
発着台についたので、そのまま垂直上昇し、ホルボス山に向けて飛行を開始した。
「甲蟲騎士の陣を破るとはすごいわね。ディラハンってそんなに強かったかしら」
「普通のディラハンではありませんでした、本来ディラハンの乗馬は首無しの黒馬なのですが、今回のものは漆黒の竜馬でとんでもない機動力でした」
なるほど、甲蟲騎士は基本的に重騎士に準ずる兵種だものね。
立体的に動く相手は苦手か。
蒼穹の覇者号は王都の西側を飛び越して、ほどなくしてホルボス山が見えてきた。
まったく、飛空艇だと近所だわね。
ホルボス山基地に入れるか、村の広場に着陸するか迷って、結局村の広場に船を下ろした。
基地だと学者さんをどかすのが面倒臭いしね。
飛空艇から下りると村人たちが出迎えてくれた。
「これは聖女さま、お早いお着きで」
「みんな、怪我とかない?」
「甲蟲騎士団の方々が頑張ってくれたお陰で村人に被害はありませんじゃ」
村長が答えてくれた。
「トール王子とティルダ王女は?」
「邸宅に行っています、あそこが一番守りが堅いですから。アダベルさまも一緒です」
「邸宅に向かいます」
私は邸宅に向けて早足で歩き始めた。
しかし、変わり種のディラハンか。
レッドベアをけしかけてきたテイマーの手駒だろうか。
甲蟲騎士団が居て良かった。
誰もいなかったら村が魔物に蹂躙されていた所だったね。
邸宅の前には甲蟲騎士が詰めていた。
盾と槍で完全武装だね。
キリッとしていて、たいへん格好良い。
「ごくろうさま」
「これは聖女さまっ、お帰りなさい」
私はトンボさんと一緒に邸宅の中に入った。
「これは聖女さま、お早いお着きで」
エントランスホールで、神殿の諜報メイドのジェシーさんが出迎えてくれた。
いつもながら、メイドというよりは、家政婦な感じであるが、どっしりとして安心が出来る。
「皆さん、ダイニングでお茶をしていますよ」
「ありがとう」
私は礼を言ってダイニングホールへと入った。
「聖女さまっ」
「おお、マコト、早いな」
「お、お帰りなさい」
ハナさんが上座の椅子を引いてくれたので、そこに座る。
「状況を教えて、現在の魔物の位置は?」
「ディラハンはホルボス山の西に向かって逃亡しました。追跡しましたが振り切られました」
「ガラリアさんの虻は?」
「け、気取られて落とされた」
魔力感知したのか。
それとも偵察虻の事を知っていたのか?
「げ、現在、け、警戒網の中にはいない、です」
「昨日、私たちは隷属の首輪を付けたレッドベアにケリンの森で襲撃を受けたわ。だれか、ディラハンに隷属の首輪が付いていたか確認した人はいる?」
ダイニングホールに居た者は顔を見あわせた。
「つまり魔物使いですか!」
「ディラハンみたいな奴はテイムできるのか?」
「妖魔のたぐいですから、隷属の首輪を付ければ出来ると思いますが」
首無し騎士はどこに首輪をつけるのだろうか。
やっぱり抱えた首元に付けるのかな。
落ちてしまいそうだが。
「とりあえず、最初から詳しく教えて」
「かしこまりました」
金甲蟲を着込んだリーディア団長が返事をした。
まずは状況を理解しなければ。
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