第778話 コリンナくんとフレデリク商会へ向かう (ジェラルド視点)
Side:ジェラルド
フレデリク商会へと向かう馬車の中で、羊皮紙に書かれたコリンナくんの地獄谷の改装計画を聞いた。
素晴らしいね。
彼女の家は下水道局の役人であるから、水回りの設計がしっかりしている。
地獄谷で潤沢に湧き出す温泉水を使って下水の排水力にするというアイデアは
特に素晴らしい。
「温泉は湯ノ花などでパイプが詰まらないか?」
「はい、そのためにメンテナンス口を五カ所、作っておきました。半年に一度ぐらいのブラシ掃除で詰まりは予防できそうです」
よく考えられているな。
上水道の配管も巧みに張り巡らせて、最終的に噴水に導かれるように出来ている。
コリンナくんは有能だね。
物腰もハキハキしているし、とても好ましい。
時々、キンボールと会話する時に出る下品な下町訛りはいただけないが、あれは奴とだけらしいしな。
彼女の小さな唇を見ていると、胸がざわめく感じがして、慌てて内心で打ち消す。
いかんいかん、私にはアバカスの君という人がいるのだ。
これは裏切りだぞ、ジェラルド。
侯爵家の子息と男爵家の令嬢では身分が違いすぎて、もてあそぶ形になってしまう。
それでも、彼女の声を聞いて、くるくるとした小動物のような動きや、小さな手を見ると、心の中でふんわりとした暖かさのような物が生まれるのだ。
分厚いメガネの向こうには、きっと小さな目があって、あまり綺麗とは言えないのだろう。
しかし、知能が高いな。
女性でここまで賢い娘は初めて見たかもしれない。
消え入りそうに綺麗だったアバカスの君とは反対の方向で魅力的だな。
活動的で、元気な娘で、喋っているとこちらも嬉しくなっていく。
これで身分が高かったら、私は放っては置かなかっただろう。
惜しい事だ……。
いや。
いやいやいや。
そういう事をかんがえてはいけない。
アバカスの君への裏切りだぞ。
恥をしれジェラルド。
私が世界で只一人、心から愛しているのはアバカスの君だけなのだ。
気の迷いだ。
しかし、あまりに有能だ。
将来、秘書に雇いたいぐらいだ。
私は、宰相になった私の近くでくるくると働くコリンナくんを思い浮かべて、うっとりとした。
ああ、仕事がしやすいだろうなあ。
彼女は私に好意を向けてくれている。
だが、それにつけ込んではいけない。
人倫にもとるという物だ。
将来的には、私付きの秘書官になってもらおうか。
彼女が財務局に入りたいと言うなら後ろ盾になっても良い。
マクナイト家の後ろ盾があれば、女性初の財務局の職員も夢ではあるまいな。
きっとコリンナくんは出世するであろう。
フレデリク商会へと着き、私たち二人で会長へ町の改修のプレゼンをした。
コリンナくんは細かい数字も算出済でとてもスムーズに会長の理解を得られた。
「素晴らしい計画書です。では、この案に沿って建設を始めましょう」
「水道工事には教会の作業員を使うとコストが下がりますよ」
「それは良いアイデアですね。聖女さまも喜ばれましょう。我々としても費用が抑えられるのはありがたいです」
私が口を挟むまでもなく、コリンナくんが上から下まで素晴らしいプレゼンをした。
ああ、有能な人間と仕事をするのは心が躍るな。
いつの間にか、自分の顔が微笑んでいた事に私は気が付いた。
フレデリク商会を後にした。
「フレデリク会長、喜んでいましたね」
「そうだね、コリンナくんの計画が素晴らしいからだ。将来の内政計画の参考になったよ」
「いえいえ、そんなそんな」
私が褒めるとコリンナくんは真っ赤になって照れた。
うん、彼女の、こういう奥ゆかしい所も好ましいね。
「ケンリントン百貨店にやってくれ」
私は御者に目的地を伝えた。
「かしこまりました、ジェラルド様」
彼女は赤くなってキョロキョロしている。
「あ、あの、マコトの言うことなんか鵜呑みにしなくても良いのですよ」
「そうではない、僕がお茶を飲みたいし、君にアイスクリンを奢りたいのだ、遠慮は無用だよ」
「あ、ありがとうございますっ」
コリンナくんは喜んでいるようだ。
彼女の反応を見ていると、私も嬉しくなってしまうね。
女の子と出かける楽しみとはこういう物なのだろうか。
いや。
いやいやいや。
これは彼女の素晴らしいプレゼンへのご褒美であって、決して逢い引きという物では無いのだ。
うん。
馬車はケンリントン百貨店で止まった。
私は先に下りて、コリンナくんが下りるのを助けてあげた。
ああ、小さい手だ、冷たい手なのだなあ。
いやいや。
うむ、さあ早く中に入ろうではないか。
百貨店に入ると支配人とおぼしき人物がやってきて、私に挨拶をした。
私がマクナイト家の人間だと解ったようだ。
なかなか如才ない人物だな。
彼の案内で百貨店の最上階まで階段を上がる。
店内はきらびやかで豪華だった。
絨毯も毛足が長く靴が沈み込むようだな。
最上階の喫茶室でコリンナくんと向かい合って座る。
彼女は居心地が悪いのかそわそわしていた。
「アイスクリンを二つ」
ウエイトレスに注文をすると、コリンナくんはびっくりしたようだ。
「あ、甘い物も召し上がられるのですね」
「意外かい? わりと甘い物も好きでね。アイスクリンは気になっていたのだよ」
「ふふふ、意外でした」
微笑むコリンナくんを見て、なんだか二人の距離が小さくなった気がした。
遠くを見ながら食べるアイスクリンはとても甘かった。
ああ、なんだろうか、この幸福感は……。
いや。
いやいやいや。
その、ご褒美であるからな。
うん。
まあ、それでも、そうだな。
今を楽しもうか。
うん。
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