第770話 今日のお昼はクララのパンワゴン
午前中の授業はサクサクと終わった。
国語、数学、魔術理論、武術だった。
武術の時間はコイシちゃんとカンカンと練習した。
あとは人の模擬戦を見ていた。
上手い人から下手な人まで色々だなあ。
武術の時間が終わって、制服に着替えてA組に帰ると、カーチス兄ちゃん達がやってきた。
「おーう、今日はどこで昼飯にするんだ、マコト」
「今日はクララのパンワゴンが出るから、そこでだね」
「今日はパンワゴンか、いいな」
「ひと味違うマヨコーン……、大盛り……」
「では、女子寮前にいこう」
王家主従がニコニコしながら寄って来た。
「今日もご一緒していいかな?」
「今日は女子寮前のパンワゴンですな、ケビン王子。あそこも意外に美味しいですからな」
「うん、来なよ」
というか、王家主従も毎回付いてくるなあ。
皆でぞろぞろと廊下を歩く。
階段でヒルダさんとかの二年生の先輩を、玄関でゆりゆり先輩とブリス先輩と合流する。
「今日はパンワゴンですね」
「あそこも美味しいですね。三年生になって、パンの美味しい所を色々と知ってうれしいですよ」
「ブリス先輩は主にどこでお昼を取ってたんですか?」
「僕は主に上級貴族レストランですね、領袖」
さすが伯爵令息ぐらいになると毎食展望レストランかあ。
「上級貴族の友人達と連れだって行ったり、一人で食べていたりしました、大人数で外で食べる楽しみを知るのが遅れて、ちょっと悔しいですね」
「あと、一年ありますわよ、ブリスさん」
「そうですね、ユリーシャ様」
意外に派閥でも集まって毎回ランチという所は珍しいようだ。
ポッティンジャー公爵派でもビビアン様の取り巻きだけで食事をしてるみたいだしね。
「派閥が大きくなると、全員でランチとか無くなるみたいね」
「それは、痛しかゆしだね」
「構成員が二十人を越えると、さすがにばらけるようですわね」
「うっ、聖女派閥、けっこうギリギリだね」
今は十六人ぐらいだしなあ。
王家主従が来ると十八人ぐらいになる。
「マコトくんの派閥はまだまだ大きくなりそうだけどね」
「ここの派閥は、あまり身分の差で固まらないのが良い。上級貴族も下級貴族も仲良くしているのが気持ちが良いな」
ジェラルドがしみじみと言いおった。
「大体マコトのせい」
「マコトが偉い……」
「マコトの身分がぱっと見、高いのか低いのか解りにくいのが原因だな」
「全ての人民は女神様の元に平等なのです」
「こいつは、それを本気で信じてるからなあ」
「まあ、ある意味真実だからしかたがない」
前世が日本の人間の困った所でもあるよね。
日本は世界でも有数の身分が平べったい国なのだ。
アップルトンというか、こっちの世界の身分差がいまいちピンときてないんだよねえ。
本来、公爵家の令嬢であるゆりゆり先輩と、騎士爵家令嬢のマリリンは直答する事すら出来ない身分差なのだ。
まあ、ゆりゆり先輩は気さくな方で変質者なのでアレだが。
王宮じゃなくて学園なのもあって、わりとうちの派閥は身分間の礼儀は雑である。
無いわけじゃないけどね。
おおっと、クララのパンワゴンの前に群衆が出来てる。
日を追うごとに人気が上がっていくなあ。
美味しくて学園内で安いからね。
庶民のパン屋さんであるひよこ堂と変わらない値段でパンが買えるので人気も出ようという物だよ。
列に並んで、皆、思い思いの好きなパンを買った。
私は、聖女マリアパンとハム卵サンド、あとレモネードを買った。
エルマーは取り置きされていた特盛りマヨコーンが買えてニコニコしている。
コリンナちゃんは聖女マリアパンとクリームコロネを買っていた。
カロルはベーコン卵パンとねじりドーナツだった。
中庭に行き、芝生に敷布を敷いて、みなで座り込んでパンを食べる。
うん、良い風が吹いて木陰で良い気持ち。
ああ、平和って良いなあ。
ああ、レモネードがすっぱくて美味しい。
ぐびぐび。
池を囲む柵がもうすぐ完成しそうね。
コリンナちゃんが羊皮紙に書いた地獄谷の都市計画をジェラルドに見せて説明していた。
隣でケビン王子もニコニコしながら聞いている。
「うむ、良い出来だね、ケーベロス嬢。キンボール、放課後にフレデリク商会に行ってプレゼンをしたいが、付いてくるかね?」
「私、放課後は集会室で勉強会だよ、ジェラルドとコリンナちゃんで行ってくれない?」
「ふ、二人でかね、ううむ」
「き、気まずいですよね……」
「い、いやそうではないのだが。うむ、二人で行くか。放課後に私の家の馬車を出そう」
「恐れ入ります、マクナイトさま」
「コリンナちゃんはナージャを追い払ったお手柄があるから、帰りに何か奢ってあげてよ、ジェラルド」
「そ、そうか、うむ、それは賞賛せねばならないな」
「いえ、そんな、ご迷惑では?」
「良いんだよ、コリンナくん。たまにはジェラルドも女の子と親睦を深めないとね」
「ケ、ケビン王子、からかわれては困ります」
「良いじゃないか、今はケンリントン百貨店の喫茶室でアイスクリンが流行っているよ」
「そ、そうですか。も、もし迷惑では無かったら、その、一緒にケンリントンに行くかね、コリンナくん」
「はい……」
消え入りそうな声で、でも嬉しそうにコリンナちゃんは答えた。
うんうん。
コリンナちゃんもジーン皇国襲来では頑張っていたから、これくらいのご褒美は当然じゃ。
私はカロルと目を合わせてにっこりと微笑みあった。
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