第768話 そして日常は帰って来た
カロルと一緒に百貨店から歩いて学園に戻った。
空を見上げると、もう暗くなりかけていて、西の空は真っ赤に染まっていた。
「楽しかったね、百貨店」
「うん、また行きましょうね」
うんうん、百貨店のお店を制覇したいね。
なんか異常に高そうなお店もあったけどね。
お金を貯めまくってなんとかしよう。
そっとカロルが私の手を握ってきた。
うっほっ。
やあ、頬が熱くなってしまいますね。
私は手首を返して握りかえした。
カロルと手を繋いで学園の校門をくぐった。
なんかの花の良い匂いがした。
うちの学園は緑が多いからね。
寮の玄関でカロルと別れて205号室に戻った。
「おかえり。どうだったピアノコンサート」
相変わらず机について勉強しているコリンナちゃんが声をかけてきた。
「ただいまー、うん凄かったよ、綺麗な音の奔流みたいな感じだった」
「いいねえ」
私はハシゴを登って自分のベットへ潜り込んだ。
さて、晩餐まで暇だなあ。
のたのたしようっと。
のたのたのた。
図書館で本を借りたら良かったなあ。
もう読む物無いや。
「そういや、コリンナちゃん、地獄谷の開発計画、できた?」
「だいたいアウトラインは出来たから、清書して、ジェラルドさまにチェックして貰えれば出せるよ」
「もうすぐだね」
地獄谷の開発計画が出来ないと、フレデリク商会が動けないからね。
そろそろ部落の中の建築に取りかかれるかな。
ホルボス村の方の開発計画も詰めないといけないなあ。
領地を持つと色々と手間が増えるなあ。
というか、喫緊の問題は、間近にせまった中間テストだが。
来週は勉強しないとなあ。
試験勉強期間はもめ事が無い事を祈るよ。
中間テストが終わったら念願の黄金週間だ。
派閥の父兄パーティと、アダベルの洗礼式があるな。
それらが終わったら、遠い領の派閥の父兄を飛空艇で送っていく旅に出よう。
そして、各地でご当地のご馳走を食べようではないか。
うふふっ。
アダベルの洗礼式には、ホルボス村の三馬鹿とトール王子とティルダ王女を王都に招待して観光させてあげたいね。
せっかくだし。
泊まる所は大神殿の宿坊があるし、大丈夫でしょう。
黄金週間で宿坊が空いて無かったら飛空艇に泊まって貰ってもいいしね。
ホテル機能が付いた飛空艇は大変に便利だなあ。
地下基地にあるとセキュリティもばっちりだしね。
父兄パーティとか、進行はどうなってるのかな。
ジョンおじさんに聞いて見ないとなあ。
おじさんは魔法省の長官さんだから、計画に隙は無いと思うけどね。
なにげに黄金週間も忙しい感じだね。
わりと一杯一杯だなあ。
カロルと出かける時間を作りたいのだけれどなあ。
「おい、マコト、晩餐にいこう」
うお、のたのた考え事をしていたらあっという間に時間が経ったな。
「うん、行こう行こう」
私はハシゴを下りて、コリンナちゃんと一緒に205号室から出て、施錠した。
コリンナちゃんが急に私の顔に顔を近づけてくんくんと匂いを嗅いだ。
「な、なにをするっ」
「バニラの甘い匂いがする」
「百貨店でアイスクリンを食べたのだ」
「それでか、美味かった?」
「うんうん」
アイスは乙女の主食なのに、この世界では貴重品で、あまり食べられないのがつらいね。
しかし、コリンナちゃんにキスされるかと思ってびびったよ。
エレベーターホールに行くと、派閥の皆が揃っていた。
「マコトさま、ごきげんよう」
「ごきげんようですわ」
「あ、メリッサさん、マリリン、アイスクリン食べてきたよ、美味しかった」
「アイスクリンは夢の味ですわよね」
「乙女の宝物ですわあ」
マリリン、それは大げさだ。
カロルは私を見ると微笑んで手を小さく振った。
うひひ。
彼女の姿を見ると幸福感が胸に一杯膨らむね。
よきかなよきかな。
どやどやと派閥の皆と食堂に入り、カウンターに並ぶ。
さて、今日のお献立は。
豚肉のピカタ、カボチャのポタージュスープ、タマネギサラダ、黒パンであった。
ピカタの衣が良い色で美味しそうだなあ。
トレイに料理を乗せていき、最後にケトルからカップにお茶を注ぐ。
いつものテーブルにお料理が乗ったトレイを持って行き座った。
みんなが揃うまで少し待つ。
うーん良い匂いだなあ。
皆が揃ったので、私は手を合わせた。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
さてさて、ピカタをナイフで切って一口食べる。
パクリ。
あー、美味しいなあ。
ピカタというのはトンカツのパン粉の衣のかわりに、卵で衣を作り焼いた物なのだけど、焼き加減が抜群で美味しい。
イルダさんの料理はやっぱり美味しいなあ。
カボチャのポタージュスープも甘くて美味しいね。
うんうん、ちょっと酸っぱい感じの黒パンに良く合うね。
「今日も美味しいわね」
「本当に美味しい物を食べると充実するわね」
これで、下級貴族食にもデザートに甘い物がつけば言う事無しなのだけど、まあ、値段が違うからね。
贅沢を言ってはきりが無い、という物だよ。
今日も美味しく晩餐を完食した。
ああ、日常の幸せとはこういう所にあるのだなあ。
いつまでも私のお友達が美味しい物を食べて笑って暮らせますように。
胸が一杯になるような幸せな空気の中でいつまでも暮らせますように。
本当に願わずにはいられない。
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