第762話 戦って無いけど戦い済んで後始末
「さあ、ナージャ、飛空艇の中で休んでいるがいい」
「はっ、殿下」
「駄目」
「そんな意地悪を言うなよマコト」
「サイズの遺児が居るわ、あなたの事は完全には信用出来ないというか、休むなら覇軍の直線号へ行きなさいよ」
ディーマー皇子とナージャは顔を見あわせた。
「かように我が未来の妃は気が強いのだ」
「誰が未来の妃かっ!!」
「お察しいたします殿下」
ナーダンさんが笑顔で近寄ってきた。
「覇軍の直線号には私が案内しよう」
「これはナーダン先生」
「皇子の陣営に心強い味方が出来た、歓迎するよナージャ・キルヒナー」
「ありがとうございます」
ナージャはコリンナちゃんの前で足を止めた。
「あなたの名前は?」
「コリンナ」
「そう、あなたとはまた戦える気がするわ。二つ名は無いの」
「そんな物はない」
「あの蛇みたいな矢は私が打ち破るわ、覚悟をしていなさいよ、蛇メガネのコリンナ」
「変な名前つけんなっ」
ナージャはきゅっと笑ってナーダン師と一緒に去っていった。
「君は凄腕文官だと思っていたが……」
「最近、射手も始めたのです、皇太子殿下」
「ほう、始めたばかりでナージャにライバル宣言されるとは、それは素晴らしい才能だ」
「ありがとうございます」
というか、ナージャとコリンナちゃんの再戦とか無い方がいいなあ。
「素晴らしい射手を手に入れましたわね、お兄さま」
「うむ、基本的にグレーテの護衛に付けようと思う」
「キルヒナーに守られるなら安心ですわ」
おっと空中庭園の倒れた騎士を見に行こう。
ええとコロンブさんは居ないかな。
ハゲはいるがあいつは駄目だ。
あ、いたいた。
「コロンブさん」
「はい」
「空中庭園に配した騎士さんが倒れてます。助けに行きたいのですが」
「まあ、それは大変っ」
サーチだと息はあった感じだったな。
気絶させられたかな。
私はコロンブさんと一緒に大ホールを出て、階段を上がった。
「本当に余興だったのですか?」
「余興にしました」
「やっぱり」
「『肉屋』がディーマー皇子が皇帝になると踏んだようですね。ナージャを渡した感じでしょうか」
「正体不明の諜報員が潜んでいるのは不安ですね」
空中庭園の中に入り、木の根元に倒れている騎士を見つけた。
ああ、薬を嗅がされたようだ。
『ヒール』
ヒール一発で薬物を分解した。
騎士さんは目を覚ました。
「コロンブさま……、賊が侵入いたしました」
「知っています、解決しました」
「良かった……、被害は?」
「ありません、事件は舞踏会の余興となりました、従ってあなたの処分もありません」
「それはっ!」
騎士さんは立ち上がった。
「事件が起こった事になると、フランソワ団長も処分されるからね、余興にしておきなさいよ」
「聖女さま……。ですが、私は失態を……」
私は騎士さんの頭に手を置いた。
「責任感が強いのね。心の中で失敗を悔い改めて、次は失敗しないようにすれば良いのです」
「はいっ!」
騎士さんは頭を垂れた。
コロンブさんは夜空を見上げた。
「聖女さま、狙撃ポイントを教えてくださったのに……、申し訳ありません」
「良いのよ、ナージャが一枚上手だっただけだわ。というか、どっから入って来たのかしら?」
「たぶん、『肉屋』に王城の抜け穴が漏れてますね。これは対策が必要かと」
ああ、ここら辺に抜け穴の入り口があるのか。
あちこちに通路がありそうだな。
知りたくも無いが。
「軍事研究家と相談して改造するべきね」
「早急に王に献策いたします」
「それが良いわね」
空中庭園の柵から下を見ると、大ホールで踊っている人達が見えた。
もっとも木々が邪魔でナージャみたいに曲打ちをしないと狙撃は出来なさそうだね。
そんな凄腕を使い捨ての暗殺者にするだなんて、皇弟閣下は物の価値が解って無いな。
『肉屋』も裏切ろうという物だよ。
……。
裏切りになるのか?
本国から来た指令だが、『肉屋』が現場の権限でアレンジした感じだな。
『肉屋』は『城塞』とは別の命令系統なのか?
まあ、考えても解らぬ。
今の所はアップルトンに凄腕諜報員が潜んでいるという事実だけだね。
コロンブさんと、騎士さんと三人で階段を下りた。
「では、警備に戻ります」
若い騎士さんは敬礼をして去って行った。
「聖女さま、彼を力づけてくれてありがとうございました」
「気にしないで、警備仲間じゃん」
「ふふっ、そうですね」
近衛騎士団は粒ぞろいだからなあ。
さすがはエリート騎士団。
トップはまあ、アレだ、気の利かないハゲだが。
大ホールに戻ってきた。
そろそろお別れ舞踏会も終わりかな。
やれやれ、疲れたぜ。
お、コリンナちゃんがジェラルドと踊ってる。
だんだんと仲が進むと良いねえ。
がんばれ、コリンナちゃん。
「マコト」
カロルが近寄ってきた。
「これで事件は終わりかな?」
「そうだねえ、ザマスさんとか、悪口部隊とか残ってそうだけど、ほっといて大丈夫でしょう」
「おつかれさま」
「ありがとう」
曲が終わった。
王様が壇上に上がる。
「さあ、お別れ舞踏会も最後の曲じゃ、心を残す事なく踊ってくれっ」
ワルツの前奏が流れた。
よし!
「お嬢さん、一緒に一曲いかがですか」
「え、お互いドレスよ」
「良いって良いって、ご褒美をください」
「もう、マコトったら。では、謹んでお受けいたしますわ」
カロルが一礼した。
「マコトが男性パート?」
「うん、カロルが女性パートで」
手を取った。
体を寄せ合う。
そしてワルツが始まった。
くるくると大ホールでカロルと踊る。
各国のお客様や、アップルトン貴族たちが目を丸くしてドレス同士のダンスをみていたが、そのうち賞賛の声が上がり始める。
ああ、カロルは軽い。
踊りやすいね。
くるくるくるくる。
踊る踊る。
ああ、楽しいなあ。
いつまでもずっとこの時間が続くと良いのに。
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