第756話 王城の警備をチェックしに行き日当を貰う
馬車溜まりで王家の馬車に乗り込む。
そして王宮門をくぐり、勝手口前で下りる。
あほくさいことだなあ。
「まあ、形式だから我慢しろキンボール」
「学生なんだから歩かせろよっ」
「王家からの依頼なのだから歩かせる訳にもいかん」
私たちは勝手口から王城に入った。
「会場は大ホール?」
「そうだ、いつもと同じだ」
蒼穹の覇者号を付ける関係で発着場の隣の大ホールだな。
いつもの所だ。
階段をパタパタ上がって三階へ。
準備のメイドさんや執事さんが右往左往しているね。
大きな箱を持ったメレーさんとクララがいた。
「あら、二人とも、チョコボンボン?」
「そうそう、大忙しだよ」
「ミントとブランデーを大量に作った。あとヒールボンボンも」
「薬液間に合った?」
「もうちょっとしかないから、またちょうだい」
時間停止瓶作れるようになったからヒールポーションの備蓄もできるね。
便利便利。
「チョコボンボンは王家のパーティの名物になりつつある。各国大使も喜んでいたぞ」
「ワールドワイドで良いね」
アップルトンは美食の国だからなあ。
「メレーさんを王宮厨房に引き抜きたい所だよ」
礼服のケビン王子が寄って来てそう言った。
「下級貴族食にはデザート無いから良いけど、上級貴族食の生徒が暴動を起こすわよ」
「まあ、来年かな。その時はよろしくね、メレーさん」
「あ、ありがとうございます、嬉しいですっ」
パティシエにとって王宮厨房に入るのは大出世だからなあ。
良かったねえメレーさん。
メレーさんとクララは大ホールの端に向かった。
食事コーナーは毎回あそこだな。
さて、サーチしようかな。
私は人差し指と親指の間にナノサイズの光の輪を作り、一瞬で広げる。
カアアアアアン!
「うん、異常なし」
「ふむ、やはりキンボールのサーチの魔法は早くていいな」
「それよりも甲蟲騎士団が攻めて来た抜け穴は塞いだんでしょうね」
「下水からの穴だったよ、甲蟲騎士団が掘ったらしい。埋めておいたよ」
ケビン王子が答えた。
甲蟲騎士団はフィジカルが凄いからなあ。
モグラの真似事も出来るのか。
今はホルボス山ではちまき道路を建設中だけどね。
「今回は各国大使も来る予定だ、襲撃があると困る」
「ジーンの『城塞』に言ってくれ、意外にザルだぞ王城の警備」
「王城の魔法防御はかなり高度なのだが、力押しで抜けられる事があるからな」
「専門家を呼んで、すこし強化した方が良いかもしれないね」
エーミールとかに見せれば問題点を洗い出してくれそうだが、あいつはポッティンジャー公爵派だからなあ、わざと穴をほっときそうで怖い。
国王派の軍人に見せるべきだな。
「メイン警備は近衛騎士団?」
「そうだ、王城だからな」
またハゲが居るのか。
「そんな嫌な顔をしないでよ、キンボールさん」
「話が通じないのであいつは嫌い」
「聖女は博愛の気持ちを持て」
「馬鹿の程度による」
あ、コリンナちゃんを連れてくるんだった。
狙撃ポイントが私ではわかんないや。
しまった。
とりあえず、飛空艇発着場に出てみる。
管制塔にお姉さんが居て手を振ってくれた。
あそこの上とか、空中庭園からとか、矢は届くのかね?
角度的に大ホールの真ん中から手前までしか届きそうに無いが。
ザスキアが暴れこんで来てもタンキエムが無ければ近衛騎士団で制圧可能だろう。
問題はナージャだなあ。
姿が見えたら閃光で目を潰してやるけどなあ。
「そういや、城の外に通じる抜け穴はあるよね」
「あるが、王族以外には秘密だ、私も知らない」
「僕は知ってるけど、キンボールさんでも教えるのはちょっと」
まあ、そうだろうなあ。
秘密は知ってる人が少なければ少ない方がいい。
城が落ちた時に王族が逃げるルートだしね。
王都が陥落したら王族はどこに逃げるんだろう。
アップルビー領かな?
私の生きてる間に、そういう事は起きないで欲しいね。
しかし……。
『肉屋』はアップルトン貴族じゃあるまいな。
下水道局の役人とか。
市井の一般人の可能性が高いが、貴族だったら王城に工作し放題だな。
できればあぶり出したい所だが。
ヒルダさんが食事場からダンスホールへゆっくり歩いていた。
人の動線をチェックしているっぽい。
カロルとエルマーも会場をチェックしている。
麻薬捜査経験があるから、二人とも捜査官の目をしているな。
「チェック完了、今の所異常なし」
「ありがとう、キンボールさん」
「本当にキンボールは役に立つな」
「こちとら王城の警備係じゃねえぞ」
「すまない、サーチの魔法が便利過ぎなのでな」
「近衛騎士団にやらせると、半日かかるからね」
「日当くれ」
ケビン王子がニコッと笑ってジェラルドに目配せをした。
奴は執事から何かトランクを受け取って私に差し出してきた。
「なに?」
「レオトー市の茶器セットだ」
「あはは、良いね」
レオトー市は磁器の産地の都市だ。
パカリとトランクを開くと、高そうなティーセットが入っていた。
うんうん、普通に嬉しい。
「ちょっとした褒美には茶器を出すようにした。お前には武器よりも良いだろう」
「うんうん、良い磁器だね、気に入ったよ」
「男性貴族には、短剣とか、魔剣を用意しているよ。アイデアをありがとう、キンボールさん」
カロルとエルマーがトランクをのぞき込んだ。
「わあ、綺麗な茶器ね」
「お茶が……、美味しく飲めそうだ……」
「飛空艇でお客さんの時に使おう」
蒼穹の覇者号に備え付けの茶器よりも大分落ちるから気持ちが楽だな。
とはいえ、雑茶器よりかは、ずっと高級だ。
私はありがたくレオトーの茶器を収納袋に収めた。
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