第74話 毒蜘蛛令嬢が派閥に入りたいと言ってきたんだが①
カーチス兄ちゃんを加え、ガラクタをどかどか外に出していると、エルマーもやってきた。
「……派閥で、何か……するなら、呼んでほしい……」
「いやあ、ごめんね、エルマーが休日どこに居るのかわからなくてさ」
「……休日は……、主に魔術研究室……に、居る」
休日も魔術の研究してるのかあ。
エルマーらしいっちゃらしいな。
「俺は武道場か、街に出てるかだな」
「カーチスは街でなにしてんの?」
「冒険者ギルドで依頼を受けたり、武器屋をひやかしたりだな」
カーチス兄ちゃん、それはただの冒険者の一日だな。
がらがらとミーシャさんがお茶ワゴンを引いてやってきた。
「おちゃはいかがですかー」
「あら、ミーシャさん、ユリーシャ先輩は?」
「おじょうさまはタウンハウスでようじがありますので、あとでこられるようです」
「そうなんだ」
「さきにいって、おちゃのしたくをするようにいわれました」
「おねがいします」
と、思ったが、お茶をする所がない。
ガラクタの中にテーブルがあったので、それを出していると、アンヌさんが出てきて、白いテーブルクロスを掛けてくれた。
ありがとう。
クロスが掛かると汚いテーブルも良い感じになるね。
「カロルの方はいいの? アンヌさん」
「お嬢様は作業が一段落しましたので、こちらにいらっしゃるそうです」
不揃いの椅子を持ってきて席を作る。
「ダルシー、コリンナちゃんにお茶を飲まないかって言ってきて」
「はい」
ダルシーはぽんとジャンプすると、もの凄い遠くへ飛んでいった。
「……、うちのメイドは空を飛ぶのか」
「跳躍ですね。重拳の効果を自分に掛けるとああいう事ができます」
アンヌさんが解説してくれた。
「そうなんだ」
高速移動法なのか。
まあ、森林とかだと有効かもしれないね。
樽とかつかってようやく人数分の席ができた。
カロルとコリンナちゃんもやってきた。
「おお、だいぶ中が片付いたね」
「ガラクタが多くてねえ、やっとだいたい出せたよ、コリンナちゃん」
「おつかれさま、マコト」
「えへへ」
カロルにねぎらわれると疲れも吹っ飛ぶね。
みんなでミーシャさんが入れてくれたお茶を飲む。
あー、外で飲むお茶は美味しいなあ。
さやさやと風が通りすぎる。
紅茶の良い匂い。
そして、毒蜘蛛がカトレアさんを連れてやってきた。
「こんにちわ、マコトさま。午前中は学園にいらっしゃらなかったのですね、探してしまいましたわ」
「あ、どうもヒルダさん、こんにちわー」
「カトレアしゃんっ」
コイシちゃんが、カトレアさんに駆け寄って抱きついた。
「大丈夫だったみょん?」
「大丈夫、ポッティンジャー公爵派閥を抜けてきたよ」
良いなあ、女の子同士の友情は。
ゆりゆりだぜ。
カーチスとエルザさんもカトレアさんに寄っていって、あれこれ声を掛けていた。
「カトレアは、我がマーラー家の騎士として雇いましたの」
「は?」
「つきましては、マーラー家も聖女さま派閥に参加したく、おねがいにまいりましたわ」
「はっ?」
ヒルダさんが何を言っているのか解らない。
マーラー家が聖女派閥に移籍?
「え、ええと、一からやろうか、ヒルダさん、今、聖女派閥とマーラー家は緊張関係にあるのだけど」
「昨晩解消されましたわよ。私のお父様の首は要りますか?」
「い、いらないっ」
「そうおっしゃると思いましたので、父は蟄居で済ませてあります。私が卒業後に病死していただく予定ですわ」
えー、父親をどっかに押し込めて、ヒルダさんがマーラー家の当主になったと考えて良いのかな?
「マーラー家は、聖女さまに完全に屈服し、どんな要求でものみますわ。王都の中央広場に謝罪文を張り出しました。お父様がかすめ取ったお金も賠償金を付けてお返ししますわ。まことにご迷惑をおかけいたしました」
「あうあう」
ヒルダさんは優雅に頭を下げた。
馬鹿なー、あんな無体な要求がのまれるとは一つも思って居なかったぜ。
困った。
これは困ったな。
「な、なんでグスタフさんは、女子寮の食堂からお金をちゅーちゅー吸ってたの? そんなに儲かったわけでもなさそうなのに」
「お父様は、悪い事が大好きなのですわ。将来有望な料理人とか、幸せそうな行商人とか、一生懸命商売をしているパン屋とか、そういう者を見ると、意地悪して破滅させなければ我慢がならないほどの人間の屑ですの」
私は口をぽかんと開けた。
「趣味なの?」
「はい、人を破滅させるのが趣味だったのです。暗闘の毒が脳に回ってらっしゃったのね」
そうなんだ。
「見るにたえませんでしたので、マーラー一族の長老会と掛け合って当主の座から引きずり下ろしましたの。今はタウンハウスの塔に幽閉しております」
「暗闘の家なんだねえ」
さて、どうするかなあ、謝罪も賠償も提示されると、許さない訳にはいかないし、悪いのは脳に毒が回ったお父様で、ヒルダさん自身は問題なさそうだし、味方にするともの凄い安心感なのだが。
どうしようかなーーーっ。




