第742話 お風呂に入って私は推理に推理を重ねる
勉強会も終わったのでお洒落組とお風呂に入りに来た。
夕方五時過ぎはそこそこ混んでるな。
浴室に入ると、アダベルとグレーテ王女がいた。
「あら」
「マコトーっ」
「まあ聖女様もお風呂ですの」
「というかなんで飛空艇を出ているのよ」
「お風呂を使うと言うことでエイダさまに出してもらいましたの」
なんというか、エイダさんは融通がきくなあ、魔導頭脳なのに。
「トール王子とティルダ王女は?」
「なんか寝てしまったよ」
なるほどね。
幼児はことんと寝るからね。
かけ湯をして湯船につかる。
ああ、生きかえるね。
「そういえば、ジーンの人ってどうやったら怒って戦争を始めるかな? 外国人に皇族が殺される以外で」
ジーン皇国の怒りのポイントはジーンの人に聞こう。
「正当な開戦理由ですか? そうですわね、他国の軍隊が皇国の領土に入り込んだら開戦になりますわね」
そりゃそうだね、縄張りの中に入り込んだら国民は怒る。
そう、調略とか陰謀とかどうでも良いんだ、正当な開戦理由があって正義は我にありと国民が納得すれば良いんだよな。
縄張りとしての領土を取られる、仲間としての皇族が不当に殺される、国民が虐殺される、等があるなあ。
つまり、正当な権利の侵害だ。
舐められたら殺す、の鎌倉武士しぐさであるな。
今回のディーマー皇子の暗殺も、アップルトン領内でサイズの甲蟲騎士団に彼を暗殺させて、警備の不備を理由に我が国に攻め入るという計画な訳か。
さらに下手人である旧サイズ領を弾圧する理由にもなるね。
まったくゲスいな。
「あとは、そうですねえ、ああ、ジーン国民は飛空艇をそれはそれは大事にしていますの、覇軍の直線号が撃墜されたら怒りますわ」
「ああ、初めて会った時に撃墜しなくて良かった」
「ふふふ、あの時はまだ蒼穹の覇者号があんなに凄い物とは知らないで喧嘩をふっかけましたわ、ごめんなさいね」
「まあ、お互い様だしね」
「覇軍の直線号と天頂の彗星号は帝国の民の誇りですわ、剛魔剣タンキエムのようなものですわね」
「飛空艇は国家の象徴みたいな所があるからね」
「私も蒼穹の覇者号が墜ちたら怒るぞ」
アダベルは怒ってくれるのか。
そうかそうか。
……。
飛空艇を落とす……。
地上ではどうする?
爆破か。
爆破だな……。
どうやって?
そうか、学園内の事を知らない工作員はきっと、覇軍の直線号にディーマー皇子とグレーテ王女が泊まっていると思うだろうな。
一石二鳥とか思うはず。
しかし、どうやって爆弾を持ち込む?
学園内に……。
竜車三つ分の火と風の魔石……。
バチャリ!
私は立ち上がった。
「領袖!!」
引き戸をがらりと開けてヒルダさんが私を呼んだ。
「敵の狙いが解りましたっ! 覇軍の直線号の爆破ですっ!! 学園全体が吹き飛びますっ!!」
やっぱりかっ!
私は湯船から飛び出た。
「ダルシー!!」
「はいっ!」
小走りで脱衣所に急ぐ。
ダルシーがバスタオルで体を拭いてくれる。
「どうして解ったの?」
「学園の向かいのアパートメントに不審人物がいるとの情報が入り、ローラン師と共に調査に行きました。工作員はデパント国の飛空艇技師でした」
デパント王国は覇軍の直線号を持っていた小国だ。
なぜ今頃爆破をする?
「ディーマー皇子暗殺と同じパターンです、他国からの工作を防げなかったと難癖を付けて開戦するつもりです」
ダルシーに手伝って貰って、服を着る。
「私はどうしましょう」
「私は、マコト」
裸ん坊のグレーテ王女とアダベルが聞いてきた。
「二人とも、蒼穹の覇者号に、そこが一番安全、アダベルはトール王子とティルダ王女を守って」
「わかりましたわ」
「私に任せておけっ!!」
二人も服を着始めた。
学園が吹っ飛ぶような爆発になるかもだ。
……。
「長耳さん、居る?」
私は虚空に声をかけた。
『はい、マコトさま』
「学園が爆発の危機よ、カーチスに連絡して、男子寮の生徒を武道場口から地下道に避難させて」
『かしこまりました』
「領袖?」
ヒルダさんがいぶかしげな表情で私を見ていた。
「あ、カーチスの諜者さん」
「なるほど、女子寮の生徒も地下に避難させましょう」
「私たちもお手伝いしますわ」
「学園の危機にのんびりしてられませんわ」
「メリッサさん、マリリンさん、ユリーシャ先輩とエステル先輩に協力してもらって地下に避難誘導して。私は爆発を防げないか調べてくる」
「お気を付けて」
「頑張ってくださいまし」
私はヒルダさんと地下大浴場を出た。
髪が濡れているがかまわない、そのうち乾く。
「想定される爆発の規模は?」
「学園と男子寮、女子寮が全て更地になります、王城にも被害が及ぶほどの爆発が起きます」
「魔石の誘爆かあ」
この世界では、たまに魔石貯蔵施設などで爆発事故が起こる。
小国の首都が全て吹っ飛んだ事件も起こった事がある。
覇軍の直線号は高速船だから大量の魔石を積んでいるからな。
一階まで階段を駆け上がる。
「マコトー、どうしたの、怖い顔」
エレベーターホールからカロルが小走りできた。
「カロルも付いてきて、学園が爆破されるわ」
「え?」
「ヒルダさん、工作員は?」
「馬車の中で拘束しています、ローラン師が監視中です」
「案内して」
「こちらです」
私たちは馬車溜まりに全速力で駆けていった。
手遅れになる前に爆発を止める!
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