第739話 情けなくも、猫に陰謀究明の相談をする私
操縦室で積み込みを待ってるのも何なのでタラップを下りて船の後部へと向かう。
なぜだかみんな付いてきてるな。
「おつかれさまでーす」
「これは聖女様、こんにちは」
料理のチーフさんに私は挨拶をした。
「沢山積み込みますね」
「はい、二日ですし、ジーン皇国とサイズ王国の二陣営ですし、お付きの者も多いので」
「私が知らせておいたぞ」
ジェラルドが大まかな人数を知らせてくれたようだ。
イヤミメガネだが、役にはたつな。
「ありがとう、たすかるよ」
「皇族と王族の安全の為だ、何でも無い」
自慢しいなのが玉に瑕だな。
「では、よろしくおねがいしますね」
「はい、ありがとうございます」
王宮の料理班は四人のコックさんで厨房を回すみたいだ。
今日は二度目の王城だ。
あそこが空中庭園だな。
「そう言えば、アダベルは飛空艇に泊まるの?」
「泊まーる」
「また一緒に寝ようね」
「アダちゃんと一緒だーっ」
お子様達は仲良しで良いね。
左舷のスイートだからベットも広いし。
「学園長には言ってきたの?」
「あ、言ってない、言ってくる」
そう言ってアダベルは羽を生やしてホバリングをした。
「アダちゃーん行っちゃうの?」
「学園に行ってガクエンチョに週末は飛空艇に泊まるって言ってくるだけ、すぐ戻るよ」
「羽かっこいいっ」
「いいだろーっ」
そう言うとアダベルは王城から学園に向けて飛んでいった。
「にゃーん」
ありゃ、アダベルはクロを置いて行った。
しょうがないなあー。
私はクロを抱き上げた。
もっふもふやでーっ。
「私も私も」
「これ、本物の猫?」
「偽物よ、魔法で出来てるの」
「うわー、凄いね、世話をしなくていいんだ」
クロはトール王子とティルダ王女にもみくちゃにされたが大人しくしていた。
「さあ、二人とも飛空艇に上がって、そろそろ出発するよ」
「「はーい」」
サイズの子供たちはタラップを上がっていった。
そろそろ食材の積み込みも終わりそうだ。
能率的だね。
私はクロを抱えたままタラップを上がった。
メイン操縦室に入り艇長席によじ登る。
クロは私の腕から飛び降りてティルダ王女の膝に箱座りした。
【マスターマコト、物資の積み込みが終わりました、後部ハッチを閉めます】
「ありがとうエイダさん」
私は船内用の伝令管の蓋を開ける。
「お知らせします、こちらは艇長のマコト・キンボールです、物資の積み込みが終わりましたので格納庫に戻ります。短い間ですが空の旅をお楽しみください」
「みじかすぎる……」
「にゃーん」
船外通信用の伝令管の蓋を開ける。
「こちらコールサイン547498、蒼穹の覇者号、王宮管制室どうぞ」
【コールサイン335685、王宮管制室です】
「積み込みが終わりましたので離陸します」
【了解しました、良い風があなたの船に吹きますように】
お洒落な言い回しで送りだしてくれるな。
それでは蒼穹の覇者号、離陸!
そして少し飛んで峡谷の上で高度を下げて着陸台へと下りてバックして基地に入る。
音も無く……。
ダン。
ぐぬぬ、失敗した。
だが、着陸は着陸。
「それでは、集会室で勉強しましょうか。エイダさん、アダベルが来たら開けてあげてね」
【了解です、マスターマコト】
あ、そうだ。
「ヴィクター、そっちの状況はどう?」
「聖女さま、猫はしゃべらないよ、やだなあ」
うう、トール王子につっこまれた。
「にゃおんっ」
クロはあごをしゃくった。
人の居ない所で喋りたいらしい。
私はティルダ王女の膝からクロを抱き取った。
「あーん」
「また後で遊んであげてね」
「はーーい」
クロを抱いたまま私はタラップを下りた。
「どこで話をきくの、マコト」
「んー、待合室で聞くかな」
「それが……、いい……」
「ポッティンジャー公爵派のヴィクターか、噂は聞いていたが接触した事はなかったな」
ヴィクターは最近ポッティンジャー領に居たからね。
地元の反乱とか大丈夫なのかな。
税金下げてあげればいいのに。
私は基地の待合室に入り、クロを下ろした。
応接セットのソファーに座る。
「よし、子供の夢を壊してはいけないからな」
「やっぱり猫が喋るのは気味が悪いわね」
「ほっといてくれ、オルブライト嬢、こちらは王都内で工作員を追跡中だ。相手は三班に別れている。狙撃犯はナージャを中心に五人ほど、攪乱班は十人、あちこちでキンボールの悪い噂をながしている、破壊工作班はホルボス村に向かった、その中に轟風のザスキアを確認した」
私はガタンと立ち上がった。
ザマスがホルボス山へ行ってるのかっ!
アシル親方が危ないっ!
「安心しろ、甲蟲騎士団に発見されて、逃亡したそうだ、人的被害はない」
はー、良かった。
ガラリアさんは有能だなあ。
とはいえ、ザマスさんはホルボス山近くに潜伏してるのか、やっかいだな。
「今の所はこんな所だ、各国の諜報員が今回の事件を注視している、失態を演じると大陸中に噂がながれるぞ」
うへえ、王都中にスパイがいっぱい居るのか。
「四班目、もしくは王都にいる諜報班の存在は確認できない?」
「王都に住み着いているジーン皇国の諜報員には凄腕が居るという噂だが、確認は取れていない、なかなか尻尾を出さないのだ」
それは敵地に潜入しているぐらいだから凄腕だろうなあ。
「なにか気になることでもあるの、マコト?」
「なんか相手の動きが悪すぎるような気がして、どうしてエーミールを狙うんだろう、奴を討ち取っても計画は前には進まないし、逆に警戒されるだろうし」
「ふむ、確かにナージャの動きは稚拙な感じもするな」
「なにか別の必殺の計画が裏で動いてるような気がしてならないのよ」
「表面に出ているのは全部陽動という訳か、あり得るな」
クロはあごに前足を当てて考え込んだ。
どうでも良いのだが、クロは可愛いので真面目な話をすると妙なおかしみが湧いて困る。
猫に陰謀究明の相談をする聖女なのである。
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