第73話 学園に帰って集会所のお掃除を始めるぞ
オヤジが部下を呼んで噂の流れを調べていった。
どうやら、私とカロルの賞金は、場末の飲み屋からのようだ。
南の方の飲み屋に、身なりの良い男が訪れて、賞金額を語ったようだ。
もちろん、首にした後の連絡先なぞは明かしていない。
「よくある、賞金詐欺だな」
「よくあるの?」
「貴族どもが良く使うんだな。噂を振りまけば、馬鹿な賞金首が動く時もあるしよ」
「まあ、ポッティンジャー公爵家に首持ってけば買ってくれると思うよ」
もしくは知らん顔するかだな。
「聖女さんが首になると、色々迷惑だから、こっちで噂は潰して回るよ」
「ありがとうな、オヤジ、助かる」
「いいんだよ、俺とお前の仲じゃあねえか、カカカ」
「そんじゃまあ、頼むよ、じゃあね」
私がスツールから立ち上がると、オヤジは慌てたように手を振った。
「もう帰るのか、なんか食べていけよ」
「あー? スラムの物食べると腹を壊すから良いよ、この前酷い目にあったし」
「まあ、スラムだからなあ、しょうがねえよ」
オヤジはカカカと笑った。
意外に人なつっこそうないい顔で、私は、オヤジの笑顔は嫌いでは無い。
鶏冠亭を出て王都を目指して帰る。
「意外だったな、スラムに居るのは人間だったんだなあ」
「お貴族さまは来ない場所だからなあ、なんか変な生き物とイメージしていても不思議じゃ無いよ、コリンナちゃん」
「スラムの貧民は、人語が通じるゴブリンだと思っていたよ」
カロルがコリンナちゃんの言葉を聞いて笑った。
「知らないと、そういう感じなのね。でもスラムは広いわねえ」
「年々大きくなるよ」
「ある程度広がったら壁を新設して下町にしてしまうんだ。王都はそうやって大きくなってきたから、下水道がややこしいつながりで下水関係貴族が困る」
なるほどねえ。
それで下町はごみごみしてるのか。
東門に付いた。
先ほどのおじさん門番騎士に挨拶をして王都に入る。
「おかえり」
「ただいまです」
冒険者になったら、この門からちょこちょこ出て森とか山とかに行くんだろうなあ。
「ふう、王都に帰ってきたって感じだよ」
「ほんとうね」
「たかがスラムに大げさな」
「マコトはスラムの奴らに慕われてるから良いけどさあ」
「慕われてない慕われてない、慕われているのは教会で私じゃないよ」
コリンナちゃんと、カロルが呆れたという顔で私を見る。
「こいつは何時もずうずうしいのに、時々めちゃくちゃ謙虚だよなあ」
「そうよねえ、コリンナに同感よ」
「なんだよう、おまいら」
褒めるんじゃないよ、こちとら調子に乗りやすいたちなんだからさあ。
さすマコという感じに褒めてはならない。
「さて、用事も済んだし、学園に戻りますか」
「そうね、私も錬金しないと」
「勉強しないと」
「おまいら、休日は休むためにあるんだぞっ」
「マコトはこれから何をするつもりなのよ」
「んー、集会場の掃除?」
「休んでないじゃん」
「休んでないわ」
まあ、そう言われるとそうかもしれない。
あんまりベットでゴロゴロしてるのも何だしなあ。
他の人たちは何をしてるのかな。
ちょっと、探してみて、暇そうなら掃除に付き合わせよう。
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カロルとコリンナちゃんと別れて、一人で集会棟へいく。
155号室のドアを開けて、ガラクタをどんどん外に出していく。
気がつくとダルシーが手伝ってくれていた。
「あ、ありがとうダルシー」
「いえ、メイドの勤めですから」
専属のメイドがいると、こういう時に楽だなあ。
わっせわっせと運んでいるのだが、部屋の前にガラクタが山積みになるだけで、あまり減った気にならない。
「何をしてるのですか、キンボールさん」
「あ、アンソニー先生。派閥用に集会所を借りたら物置になってまして、掃除している所です」
「そうですか、大変ですね」
「先生、不要品はどこに捨てれば良いですか?」
「体育館の裏に焼却炉があります、その隣が粗大ゴミ置き場ですよ」
「ありがとうございます、後で運ばないといけないね、ダルシー」
「そうですね、マコトさま」
しっかし、なんだ、このガラクタたちは。
使える物がないぞ。
「ハードルや旗は、体育倉庫からあふれた物ですね、体育倉庫前に運んでいただけますか」
「わかりましたー、やっときますよ」
「助かります、キンボールさん」
「いえいえ、ついでですし」
アンソニー先生はぺこりとお辞儀をして行ってしまった。
いい年なんだから、休日を学校で過ごしてないで、彼女とか作ってデートでもすれば良いのになあ、アンソニー先生イケメンなのに、勿体ない。
というか、先生は寮に住んで無いはずだから、自宅から学校にわざわざ仕事に来たのか、熱心な先生だなあ。
「おーう、派閥の集会場借りたんだってな、手伝いにきたぜー」
カーチスと、コイシちゃんとエルザさんの剣術組がやってきた。
「あ、カーチス、助かるよ、というかどこで聞いたの?」
「うちの諜者は優秀なんだよ。お前がマコトの諜報メイドか、よろしくな」
「ダルシーと申します、カーチスさま」
カーチス兄ちゃんは、にやりと笑った。
「重拳使うんだってな、剣と拳で、一本仕合わないか?」
「カーチスさま、お掃除が先です」
「そうだみょん、カーチスしゃんは仕合好きすぎだみょんよ」
カーチス兄ちゃんがエルザさんとコイシちゃんに突っ込まれていて、なんか笑ってしまった。
「ありがとう、さあ、みんなで片付けようっ」




