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第735話 師匠に王都中を連れまわされる③(コリンナ視点)

Side:コリンナ


『それは地の力』


 私は詠唱しながら立ち上がり、弓を持つ。


「コリンナッ!! 危ないっ!!」


 大丈夫だよ、師匠。

 心配しないで。


『鉄を引きつけ流星のごとく我が敵を討て』


 ボワリ。

 足下に金色の魔法陣が浮かび上がる。


「な、何を、危ないぞっ!」


 尖塔の窓にいるナージャが矢を放った。

 ズームした視界でニヤリと笑う口元が見える。

 意外にキリッとした美人だな。


 矢は私の近くまで飛んで、テラスの大理石の手すりに引きつけられ落ちた。


『なにっ!! 風の盾?』


 私は師匠に買って貰った銀色の弓を引き絞る。


「無理だっ! その弓では153クレイドルを打ち上げられないっ!」


磁気誘導矢マグネットインダクションアロー


 私はナージャに向けて矢を放った。


『ぶわっはっはっはっ』


 ナージャが爆笑した。

 矢はヘロヘロと頼りなく落ちていく。


「だから無理だと……、な、何っ!?」


 矢は地面に落ちない。

 石畳すれすれをはね上がるように教会の鐘楼に向けて飛ぶ。


 石のある場所。

 大理石が引く力が強い。

 漆喰は弱い。


 私の視界に地の引く力が強いルートが道のように見える。

 教会の尖塔は石造りだ。

 玄武岩はどれくらい引く?


『ば、馬鹿な、なんだそのコントロールはっ!! 風の誘導ではないのかっ!!』

「なんだその変な軌跡は、コリンナ、君は何で誘導しているっ!!」


 矢は尖塔の壁に到達した。

 壁面をまるで蛇のように素晴らしい速度で上っていく。


 玄武岩も行ける!

 引く力が強いから速度が出る。


 私が放った時の三倍ぐらいの速度で矢は塔を登りナージャに襲いかかった。


『ぐっ!! 馬鹿なっ!!』


 惜しい、奴はギリギリで避けた。


『だが、惜しかったな、メガネ……』


 上に上がった矢をスレート屋根の引く力を使って方向を逆転させ、再度ナージャに向けて走らせる。


 ザッシュ!!


『ぐあっ!!』

「よしっ!! 腕に当たった!」


 師匠が距離計をのぞき込んで報告してくれた。


「次の矢を打て、奴を倒すっ!!」

『くそっ!! 覚えておけ、メガネめっ!!』


 ナージャは矢を抜き取ると窓に飛びこんで逃げた。

 私はくたくたと座り込んだ。


 魔力切れだ。

 この魔法は結構魔力を使う。


「あ、くそっ、魔力切れかっ!」

「はい、すいません」

「何を言うか、コリンナは良くやった。ふがいないのは僕だ。僕の不注意で危ない目に遭わせてしまったな」


 師匠の謝罪を聞きながらテラスの床に大の字になって倒れた。

 ああ、空が青いなあ。

 ほとんど弓術に関係が無い誘導投射魔法だけど、凄いなあ。

 ビアンカさまありがとう。


「しかし、二百年ほど前には地属性の射手アーチャーも多かったと聞くが、その魔法なのか、いったい何で誘導しているんだ」

「磁力です、鉄を引きつける磁石があるじゃないですか、岩の上にその磁石で道を作って飛ばしてるんですよ」

「なるほど! それであの気持ちの悪い動きか!」


 あ、いけない、師匠に仕掛けをばらすと将来敵対したときに対策されてしまうかも……。

 ま、いいか、私の弓の師匠なんだし、弟子の能力は知っておいて欲しい。


 ファンファンと音がして陽が陰った。

 上を見ると蒼穹の覇者号が降りてくる所だった。


 長耳さん知らせてくれたんだなあ。

 あれだなメイドさんが誰かの居場所を聞かれた時に、一瞬黙るのは長耳さんに知らせて貰ってたんだな。


「コリンナちゃんっ! 大丈夫か!」


 マコトとアダベルが船舷に乗り出して声を掛けてきた。

 私は笑って手を振った。


「大丈夫~、ナージャは撃退した~~」

「おお、さすがは極大射程!」

「僕じゃ無い、ナージャをやっつけたのはコリンナだ。文字通り一矢むくいた感じだ」

「まじまじ、コリンナちゃんすごいっ!」

「すげえすげえ」

「にゃーん」


 アダベルが抱えているクロも良い声で鳴いた。


 テラスに蒼穹の覇者号が横付けされたので乗り移った。


「なんでよれよれ?」

「ビアンカさまが教えてくれた射撃魔法で魔力が尽きた」

「ああ、またビアンカさまか。まあ、マジックポーションを飲め」


 マコトが収納袋からマジックポーションを出して渡してくれた。

 ごくごくと飲む。

 うっは、すっぱいなあ。


 マコトののほほんとした顔を見ると死地を脱したんだなあって、実感した。

 よくもまあ生き残れたものだ。

 ビアンカさまさまさまだね。


『マコト、飛空艇は学園に向かって良いのね』

「あ、カロル、お願いします」


 飛空艇が動き出した。

 ラウンジに移動して、どっかりとソファーに座り込んだ。

 ああ、疲れた。


「なんと、あのナージャに一矢むくいたと言うのか、コリンナくんは射撃の初心者なのだろう」

「ああ、それは……」


 いたっ、師匠に脇腹をつねられた。


「僕の教えた秘術でなんとか撃退しましたよ、ディーマー皇子」


 おおっと、そういえば彼は敵国の皇太子だった。

 手の内はバラしてはいけないんだな。


「そ、そうです、秘術でなんとか」

「極大射程ほどの豪傑ならば、さぞや素晴らしい秘術なのだろうな、いや凄い事だ」

「一撃必殺のナージャといえば、かならず一撃で相手を仕留めると有名な手練れですわ、すばらしいですわね、エーミール卿」

「ははは、なんでもありませんよ」


 師匠は調子がいいな。


 ダルシーが入れてくれたお茶を飲んでいると、蒼穹の覇者号はビアンカ邸基地に入っていった。

 トール王子とティルダ王女が外を見て、きゃっきゃと喜んでいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 教会施設からの狙撃。 王都内に尖塔を持つ教会が幾つ有るのか知りませが、教皇以下関係者一同大激怒案件のような気がします。 [一言] 師匠。皇太子相手に咄嗟の腹芸は流石だけど、早く呪矢の…
[良い点] 磁力による誘導でナージャを撃退!! 完全撃退とまではいかないまでも、 なんとか退けた感じですね。 またちょっかいをかけてきそうでいやですが、 暗殺とはそういうものですよね・・・。 でもコリ…
[一言] 最終的に磁力で動かしてるなら弓矢じゃなくて釘みたいのとか投げたりするほうが色々出来るかもな
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