第730話 ホルボス山でトール王子とティルダ王女を積む
ふわっと離陸して、ついっと飛んでホルボス山上空である。
やあ、飛空艇はやっぱり速いね。
「アダちゃんよりも早いねー」
「飛空艇はラクチンだ」
「もっと早くも飛べるけど、みんなが乗ってるからなあ。気を使って飛んだんだ」
「そうだったんだ、ありがとうアダちゃん」
「僕はアダちゃんの背中もドキドキして好きだよ」
まあね、飛空艇はサラマンダーよりも速いのだ。
アダベルはサラマンダーじゃ無いけど。
村の広場に着陸。
トン、という感じで降りる事ができた。
着陸寸前に舵輪の押し込みを弱くするのか。
よし、覚えた。
ハッチを開けて子供達みんなと降りた。
トール王子とティルダ王女と村の子供達が駆けよってきた。
「アダベル親分っ」
「「親分親分」」
「わはは、私は帰ってきた!」
「あんたの家、ここじゃないでしょ」
「気分だ、マコトー!」
ティルダ王女がアダベルに駆けよって抱きついた。
「アダちゃんっ、今日も来たんだね」
「今日はトールとティルダを飛空艇に乗せにきたんだ」
「ほえ?」
「どこかに行くの?」
あれ、サイズ側には計画を伝えて無かったっけ?
「リーディア団長、週末に何かあるといけないから、トール王子とティルダ王女を飛空艇で保護したいのだけれど」
「ああ、それは確かに、蒼穹の覇者号の中なら世界で一番安全ですね」
「村に不審な人が来なかった?」
「何人か来ましたね。アシル親方が喧嘩して追っ払ってましたよ」
そうか、やっぱり何組か来ていたのか。
「ディーマー皇子とグレーテ王女は飛空艇に乗ってるわ、トール王子とティルダ王女もスイートに乗せます。サイズ王国側からも何人か護衛に付いてください」
「では、私と、ガラリアは監視に必要だから……、アイラ、来てくれ」
「了解しました団長」
アイラと呼ばれた女性団員はピシリと敬礼をした。
派手な感じの美人だけど、村娘みたいな格好であった。
「蜂の人?」
「はい、蜂です。ガラリアほど広範囲ではないですが、蜂で偵察も出来ます」
とはいえ、この人の蜂はでっかいんだよね。
ハンドバックぐらいある蜂だ。
その分戦闘力は強そう。
歓迎パーティの襲撃ではヒルダさんに負けていたが戦闘の相性の問題だろう。
「聖女さま、私も乗りましょう」
ジェシーさんが前に出て言った。
ああ、たしかにメイドさんも要るね。
「たすかります」
「わあ、ジェシーも来るの」
「飛空艇でお泊まり、リーとアイラとだっ」
「私も一緒だぞ」
「アダちゃんも、わーいわーい」
ティルダ王女は飛び上がって喜んだ。
喜んで貰って何より。
「では、荷物とかを積み込んでください」
「はい、解りました」
甲蟲騎士さんとジェシーさんが邸宅の方へ小走りで行った。
「わー、飛空艇泊まりかあ、いいなあ」
「王都も楽しみっ」
「あんまり観光は出来ないけどね」
「危なくなくなったら、みんなを王都に招待するよ、大神殿見ようぜ」
「アダベル親分が乗せてくれるのかっ」
「昨日、親分の籠に乗ったけどご機嫌だったからなあ、王都まですぐかあ」
「やべえ、王都見物なんか二年ぶりだ」
「王都近いのに」
「ここからだと泊まりがけになるからなあ、田舎は大変なんだよ」
おっと、子供の会話を聞いて和んでないで、村長に釘をさしておこう。
ちょうど村長がひょこひょこやってきた。
「これはこれは聖女さまいらっしゃいませ。昨日はアダベルさまが竜になって飛んで来て肝がひえましたわい」
「村長さん、あなた、下のアチソン村に、私の事で凄い自慢してるそうね」
「え、ええっ、その、あの、少しは、したかもしれませんが、じょ、常識的な範囲ですぞっ。いつもアチソンは街道村で儲かっておると大いばりでしたのでのう」
「アチソン村から王府に聖女さまを領主にしてくださいと嘆願がでていたわよ」
「げえっ、アチソンのやつらめっ!」
これは大分、吹きまくったのだな。
「喜んで貰えるのは領主として嬉しいのだけれど、あまり威張り散らさないでくださいね」
「は、はい、ほどほどにしますです、ごめんなさい」
村長さんはシュンとしてしまった。
あんまり叱るのも良くないね。
このへんが潮時だろう。
聖騎士団の制服が見えたので良く見るとサイラスさんだった。
彼は私と目があうとにっこりと笑った。
「村の様子はどう? サイラスさん」
「いたって平和ですな。怪しい冒険者パーティが何組か来ましたが麓でアシル親方が追っ払ってます」
「麓で閉鎖できるのは良いわね。ローランさんは来てないの?」
「奴は昨日、敵の尻尾を掴んだって王都で動いてますね、めどが付いたらこちらに来るそうです」
誹謗中傷をした工作員を追ってるのか、そっちも大事だね。
蒼穹の覇者号からディーマー皇子とグレーテ王女が降りて来た。
トール王子とティルダ王女の前で頭を下げたぞ。
「こんにちは、トール王子、ティルダ王女。ジーン皇国の皇太子のディーマーだ」
「「……」」
お子様二人は黙ってディーマー皇子を見上げている。
「お二人には政治的に難しい立場にあったので挨拶が遅れた、それをお詫びしたい。そして、週末は同じ船内にいるのだから挨拶をさせて頂きたい」
トール王子とティルダ王女は顔を見あわせた。
「どうしよう」
「うーん、悪い国の人だけど、挨拶はするべき?」
ちょっと悩んで、二人は頭を下げた。
「「こんにちは、ディーマー皇子、グレーテ王女、よろしくおねがいします」」
「うんうん、二人とも立派な王族だね。週末はお互い仲良くすごそうではないか」
「え、やだ」
「ジーンの人はすぐ嘘をつくからきらいっ」
二人はそういってアダベルの後ろに隠れた。
うん、まあしょうが無いね。
ディーマー皇子は苦笑して頭をかいた。
「嫌われてしまったよ」
「しょうがないよ、でも、偉いな」
「そ、そうかね」
自発的にトール王子とティルダ王女に挨拶に来たのはポイントが高いな。
偉いぞディーマー皇子。
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