第72話 下町カフェでランチを食べるぞ
役人が来たので、ドワンゴを引き渡した。
賞金は五十万ドランクだそうだ。
やったー。
「ダルシー、賞金は山分けでいいかな」
「え……、マコト様がすべて取ってください」
「だめよ、二人で倒したのだから、山分けで」
私が笑うと、ダルシーは困惑したような表情を浮かべた。
なんだか知らないけど、アンヌさんが、うむ、という表情で微笑んでいた。
賞金は明日、治安騎士団の本部で貰えるようだ。
ダルシーに取ってきてもらおう。
「ダルシー、良くやったわ、強いのね」
「いえ、防衛型なので、攻撃任務は苦手ですし」
ダルシーがちょっと赤くなって照れてる。
かわいいー。
私はすこし伸び上がって、ダルシーの頭をなでなでした。
ダルシーは私の暴挙に、目をまるくして見つめている。
「いいこいいこ」
「あ、その、ありがとうございます……」
アンヌさんは依然、うむ、という笑顔で私とダルシーを見ている。
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三人で下町をうろうろして、良さそうなカフェに入った。
そこそこ綺麗で、お値段もほどほどな感じ。
諜報メイド二人は、またどこかへ潜伏したみたいで、姿が見えない。
「ランチセットのBをください」
「わ、わたしはC」
「わたしもBで」
ランチプレートはAがポークソテー、Bがチキン、Cが魚であった。
魚といっても、海は遠いので川魚であるよ。
もぎゅもぎゅ、あ、ここ美味しいな。
味の付け方がいいな。
「美味しいな」
「なんでコリンナちゃんは沈んでるのよ」
「お金を沢山使うと落ち込むんだ……」
「私が、たくさん儲けさせてあげるから」
「お金出す? コリンナには色々助けてもらってるし、帳簿とか」
「い、いいよ、あれは寄子の義務だし、自分で出すよ」
「寄子におごってあげるのも寄親の義務だけど、コリンナが心苦しいならいいけどね」
やっぱり、生まれと育ちで金銭感覚は違うよね。
カロルなんかは子供の頃からお金を稼いでるからなのか、使うのに抵抗がないみたいだね。
コリンナちゃんは貧しいお小遣いしか持って無かったから、お金を使うのが、なんだか嫌みたいね。
私は、前世でもアルバイトとかしてたし、一人暮らしだったので、無駄なお金は使わないけど、必要な物にはどんと出せるね。
「ご飯食べたら、スラムに行くけど、二人はどうする?」
「スラム? 何をしに行くんだ?」
「私とカロルに掛かった賞金の事をスラムの主みたいなオヤジに聞きに行こうかと」
「まあ、ポッティンジャー家でしょうけどね、私も行くわよ」
「しょうがないな、マコトと付き合ってると、行った事のない所ばっかり行く事になる」
「ありがと、カロル、コリンナちゃん」
よしよし、ご飯を早く食べて行こう。
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ご飯を食べ終わった、さて、スラムへ行こう。
スラムは王都ではない。
壁の外なんだな。
王都を囲む高い城壁の中は、どんなに貧しい地域でも下町なのだ。
スラムは王都の外で、色々な公共サービスが行き届いてない。
アップルトンの各地から一旗揚げようと貧民が王都にやってきて、夢破れるとスラムの住人となる。
王都の外苑都市として、かなり広がっている。
王都の東門に行き、冒険者ギルドのカードを提示する。
コリンナちゃんはギルドカードを持たないので、書類を出してもらう。
「学園の子たちが三人でスラムに行って大丈夫かい? 君たちが思ってるよりもずっと酷い所だよ」
「ありがとう、でも私は教会の仕事で良く行くから」
「あ、教会の関係者か、それなら安心だね。いってらっしゃい」
大柄で人の良い中年の門番兵士に見送られて、私たちは大きな門をくぐる。
門の向こうは、もうスラムだ。
とても臭い。
おしっこの匂いとゴミの腐った匂いが漂っている。
「臭いわ」
「臭い」
「カロルも、コリンナもスラムは初めて?」
「用がないわ」
「あまり来たい所でもないね」
汚い路地を三人で歩く。
卑しい貧民が私たちを見てニヤニヤしている。
「おう、姉ちゃんたち、見ねえ……」
「なんだー、ぶっとばすぞ」
私がすごむと貧民の兄ちゃんが苦笑した。
「あ、これは、聖女さま、失礼しやした」
「今日は聖騎士隊と一緒じゃないんですねえ」
「オヤジに会いにきたんだ、どこにいるかな?」
「この時間だと、鶏冠亭ですかね」
「また、昼から飲んだくれてんのか、あのオヤジは」
「聖女さまが来たと聞くと喜びますよ、オヤジ、聖女さまが大好きですから」
「私はあのオヤジは嫌いだけどなあ」
貧民と話していてもしょうが無い、私たちはスラムの大通りを歩いて、鶏冠亭に向かった。
歩いているうちに、アンヌさんとダルシーが現れた。
そろそろ姿を表さないと護衛ができない感じかな。
東のスラムの真ん中あたりに鶏冠亭はある。
汚くてぼろくて臭い酒場だ。
西部劇みたいなスイングドアを開けると、ガラの悪い奴らがいっぱいだ。
「なんだー、ガキのくる所じゃあ……」
絡んで来ようとしたマッチョは後ろから来たオヤジに蹴飛ばされた。
「聖女さまだっ、ばかやろうっ。これは聖女さま、ご機嫌はいかがですかい」
「相変わらず、スラムは汚くて臭いね」
「まあ、スラムですからねえ。かかか」
オヤジは中年の男だ。
東のスラムをまとめている。
上半身裸になって、酔っ払っておる。
裸になった背中にも腹にも縦横無尽に傷が走っている。
「オヤジ、さっき、私とカロルが賞金首に襲われた、知ってる事はないか?」
「聖女さんを襲う、だと……」
オヤジの目に冷たい物が浮き上がった。
ふむ、この分だと、オヤジは知らないようだな。