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第720話 毒蜘蛛令嬢は警戒しながら買い物につきそう①(ヒルダ・マーラー視点)

Side:ヒルダ・マーラー


 ふと窓越しに上を見るとドラゴン姿のアダベルさまが飛んで行くのが見えました。

 竜化してどこに行くのかしら。


「アダベル様ですわ、きっとホルボス村にいらっしゃるのね」

「まあ、なんて美しい竜、本当に竜だったのですね」


 グレーテ王女が空を見上げてため息をつきました。


 こんにちはヒルダ・マーラーです。

 いま、私はグレーテ王女とお洒落組さんのお買い物に付き添って馬車に揺られているところです。

 六人乗りの馬車のうち二人は女性の護衛騎士です。

 なかなか腕が立ちそうですね。


「最初はどこに行きましょうか?」

「まずは百貨店へ行きましょう」

「そうですわ、いま流行の百貨店です」

「噂には聞いていますわ、なんでも一流店が集まった建物なんですって?」

「はい、アップルトン中の一流店を集めておりますの。ここにさえ行けば何でも揃いましてよ」

「まあ、わくわくしますわね」


 百貨店は良いかもしれない。

 ジーン皇国から来る諜報員は平民に紛れて動くはずだ。

 貴族や上流階級が集まる百貨店では動きにくいだろう。

 私は窓から首を出し、御者をやってるナゼールに声をかけた。


「まずは、ケンリントン百貨店に向かってくださいな」

「かしこまりましたヒルダさま」


 馬車は王都大通りから繁華街への道を曲がった。


「ケンリントン百貨店は良いですわね」

「まあ、私は初めてですわ」

「本当に豪華な百貨店ですのよ、売ってる物も一流品揃いで目がくらみましたわ」

「素敵ですわねえ、ジーンにも出来ないかしら」

「今、百貨店ブームなので、きっと出来ましてよ」

「王都ではこの春、もう一軒、百貨店がオープンしますのよ」


 お洒落組のメリッサさまとマリリンさまは楽しそうでよろしいわね。

 お二人とグレーテ王女の表情が曇らぬように毒蜘蛛は隠れて網を張りましょう。


 ケンリントン百貨店の馬車溜まりに着いた。

 ナゼールが降車の補助をしていた。


「ありがとう、御者さ……、あら、カトレアさまのお相手の騎士さま……」


 ナゼールはニッと笑って口に人差し指を当てた。

 メリッサさまはおっとりしてますのに、人の顔を良く覚えていますわね。

 社交界に重要な素養ですわね。


 たたたと重役らしいおじさまがやってきた。


「これはこれは、グレーテ王女さま、ケンリントンにようこそ。支配人のケチャックと申します」


 支配人はにこやかに挨拶をした。

 グレーテ王女の顔を知っているとはなかなかやりますわね。

 さすがは一流百貨店の支配人だけはありますわ。


「今日はアップルトンのお友達とお買い物にきましたの、良い物があったら皇国へのお土産にしたいですわ」

「それは我が百貨店をお選びいただきありがとうございます。どうぞこちらへ。マーラーさまとアンドレアさまもようこそいらっしゃいました」

「我が家名を覚えていらっしゃったの?」

「はい、当店にはアンドレア領のワインも取りそろえておりますので」


 マーラー領の衣料品もありそうですわね。

 なかなかのやり手のようね。


 マリリンさまは男爵家なのでデータが無いのね。

 護衛と思われているかもしれないわ。


 ケチャック支配人が我々に付いて店内を案内してくれるようだ。

 ざっと見渡しても、貴族の令嬢やご婦人が多い。


 私は三人に見えないようにハンドサインで伏せているマーラーの手の者に指示をだす。


《このまま護衛を続けよ》


 である。


 見える護衛は私のメイドのシャーリーとジーンの女騎士が二人だが、潜伏している者が五人いる。


 ケンリントン百貨店はきらびやかな場所だった。

 私はあまり買い物をしないので初めて来たのだが、確かに貴族の子女が好きそうな品揃えだ。


 三人は宝石に目をみはり、きらびやかなドレスを見てうっとりしていた。

 沢山の一流店の集まりといえるわね。


『場違いな男が店内に入りました』


 耳元で微かな声が聞こえる。

 手の者の風の会話だ。


 百貨店で何か事を起こすつもりなのか。

 愚かな。


 ハンドサインを示す。


《近づいたら知らせよ》

『かしこまりました』


 とりあえず、三人を守りやすい位置に立つ。


 懐から四号糸を出し垂らす。

 これは制圧用の糸だ。


『男が警備員に誰何すいかされています』


 場違いな存在は排除される。

 高級な場所ほど安全は保持されている。


 だが……。


 簡単すぎる、陽動かもしれないわね。



「やあ、グレーテ王女じゃないですか、こんな所で奇遇ですね」


 にこやかな若い紳士が声を掛けてきた。

 私は歩を進め三人と紳士の間に立った。


「あら、ええと、どなたさまでしたかしら」


 グレーテ王女の返答に紳士は苦笑した。


「ああ、覚えてらっしゃいませんか、無理も無いコロンバンの感謝祭でご挨拶しただけですので。ミリガン子爵と申します」


 にこやかな紳士に糸を掛けた。

 四号は見えない糸で、絞れば一瞬で拘束できる。

 ミリガン子爵が本物ならよし、偽装ならば制圧する。


「さようでしたか、ごめんなさいね、パーティでは沢山の人とご挨拶しますので、忘れていましたわ」

「そうでしたか、こちらこそなれなれしくてすみません」


 ミリガン子爵はテーラーに呼ばれて会釈をしてこの場を離れた。


 単なる貴族客だったか。


「なかなか素敵な殿方でしたわね」

「御領地はどこなのかしらね」

「ミリガン子爵は東部の方のお方でございますよ」


 本物のアップルトン貴族のようですわね。



 私はふと気がついた。

 手の者の気配がない……。

 ハンドサインに反応がない。


 暗闘の始まる前兆を私は感じていた。


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[良い点] ひえっ、消された!
[良い点] 暗躍は心が弾みますね〜 水面下の浸透は見えないだけで激しいものがあるし
[一言] ヒェッもうバトル始まっちゃうの? 淑女の憩いの場に集まった女性ばかりの集団を狙うとはなんという悪魔的所業! ここは三味線屋の勇次ばりにやっちゃってくださいヒルダ様!
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