第708話 そして木曜日の朝がくる
205号室に戻るとコリンナちゃんは、まだ勉強していた。
「ただいまー」
「おかえり、王様なんだって?」
「エーミールとか居たからポッティンジャー公爵派に寝返ったんではという情報が上がって来て問いただされた」
「んー、まあ、ありえない事態だからね」
そりゃまあそうだ。
あれだけバチバチ武力抗争してたのに、一転、協力関係になるとは女神さまにも予想はつくまい。
コリンナメガネに望遠とか距離計とか仕掛けてあったから、ビアンカさまはお見通しであったようだが、あの人も全部は教えてくれないしなあ。
「コリンナちゃんがエーミールと街中を歩いていたって聞いてジェラルドがやきもきしていたよ」
「うぇ~~~」
うわ、だらしない顔のコリンナちゃんはレアだな。
とろけておる。
「あ~~、気にして貰えてるのかなあ~~、うれしいなあ~~」
妖怪ぐねぐねコリンナに成り果てたもようだ。
「脈はあるんじゃない? 僕には心に決めた最愛の女性がいるのだ、とか強情張ってたけど、やっぱりね、身近な女性は気になるもんよ」
「そうだねえ、そうだといいねえ~~、きゃ~~」
「乙女よ、がんばるのです」
「はい、聖女さま」
乙女と聖女ごっこをしてないで寝よう。
「コリンナちゃんも早く寝なさいよ」
「うん、もうちょい、地獄谷の計画が良い所なんだ」
「おーー」
コリンナちゃんは仕事が早いなあ。
偉いなあ。
さて、パジャマに着替えて、ハシゴを登ってベットに滑り込む。
今日も良く働いた。
ゆっくり休もう。
すやぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
んくっ。
ふわぁぁ。
小鳥の鳴き声で目をさました。
よかった、今日はハゲオヤジになる夢は見なかった。
あの夢は心にくるからなあ。
カーテンから顔を出すと、カリーナさんとマルゴットさんが着替えていた。
「おはよう」
「おはよう~~、ねむい~~」
「まったく、あんたときたらっ、おはようマコト」
まあ、マルゴットさんは夜中にも仕事をしてるから、もうちょっといたわってあげようよ、カリーナさん。
諜報メイドは激務なのだ。
二人は元気に出勤して行った。
私もハシゴを下りて、朝のルーティーンをこなす。
そうしているうちにコリンナちゃんも起きてきた。
「おはよう、マコト」
「おはよう、眠そうね」
「興が乗ってしまったので夜更かしをしてしまった」
「大丈夫? エーミールとの修行もあるのに」
「大丈夫大丈夫、体は雑に強いし」
それが下町っ子というものだな。
ふわわーとコリンナちゃんが伸びをした。
猫っぽくて可愛い。
ダルシーが入れてくれたお茶を飲みながら朝の一時である。
「今日から騒がしくなりそうだな」
「土曜日までの辛抱じゃ、日曜日にはディーマー皇子たちは帰るから」
「国に帰って暗殺されないかね?」
「しらん、でもジーン皇国内で暗殺される分にはアップルトンは関係が無いからね」
「現実は非情だな」
皇子が暗殺されたら可哀想だが、まあナーダンさんがなんとかするでしょう。
剣聖なんだし。
「エーミールの観測手をやってると危険が近いかもしれないので、気を付けてね、コリンナちゃん」
「師匠しだいなので気を付けられないよ」
「そりゃまあそうか」
アギヨンの街にアダベルの籠も見に行かないとならないし、色々と忙しいな。
さて、お茶も飲み終わったので、二人で連れ立って廊下にでて部屋を施錠する。
今日も晴れていて、窓の外に青空が広がってるね。
良い天気だ。
階段を下りてエレベーターホールに行くと、派閥の面々がいて朝の挨拶。
「おはようおはよう」
「おはよう、マコト、良い天気ね」
「この時期は独特の春の匂いがしますわね、とても好きな季節ですわ」
「まあ、メリッサさまったら、詩人だわ」
「おほほ、やめてよマリリン」
お洒落組はいつも通りのんびりしていて、ほっこりするなあ。
彼女たちの方が学生として正しい感じがする。
国際謀略に巻き込まれるのは学生の仕事じゃないぜ。
みんなで食堂へ入っていく。
お、ミニ黒板にクララのパンワゴンの宣伝がある。
「今日あるんだ」
「あるよー、新作のソバパンもあるよ」
「兄はソバ粉でメイド丸を作っていたぞ」
「メイド丸、それは盲点だったなあ、どんなん?」
「ソバの風味がする軽いクッキーかな、美味しかったよ」
「むむ、行って食べねば」
「そうするといいよ」
クララに塩ポリッジを頼んでトレイに乗せる。
今日の副食はソーセージエッグであるな。
卵の焼けてる匂いが良いね。
お茶をついで、トレイをテーブルに持っていく。
あー、また一日が始まるね。
今日はまだ荒事は無いかな。
明日はあるだろうし、土曜日は確実にある。
なんとか撃退して、日曜日はのんびりしたいね。
「おはようございます聖女さま」
「おはよう、グレーテ王女、良い天気ね」
「今日はまだ何も起こりませんわよね」
「たぶん、向こう様も準備中だと思うけど、油断しちゃだめよ」
「せっかくですので、王都でお買い物をしたいのですけれど、メリッサさま、マリリンさま、案内してくださいませんこと」
「あら、嬉しいですわ、喜んでご一緒いたしますわ」
「隠れた名店をご案内さしあげたいですわ」
お洒落組とショッピングか、うーん。
「私もお付き合いしますわ」
「ああ、ヒルダさまがご一緒してくださるなら安心ね」
「そうですわそうですわ」
ヒルダさんがこちらを見てウインクした。
ありがとうね。
さすが暗闘家、気が利くね。
ヒルダさんと一緒なら、マーラー家の暗闘騎士団が護衛に付くだろうし、安全だな。
「ふふふ」
「なによ、カロル」
「派閥としてまとまってきたなあって思って」
ああ、それは確かにあるね。
役割分担とか、出来る事出来ない事が解ってきて、組織として有機的に動ける感じがする。
良い事だね。
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