第701話 カイレ気球工房で籠を試すのだ
カロルの操縦で大神殿を出発して三十分も掛からずにエーミールの領、アギヨンの街上空です。
まったく飛空艇は速いぜ。
「どこに着陸しようかしら」
気球の工房があるのは街外れで裏手に空き地があるな、あそこで気球を組み立ててテストして飛ばすのだろう。
「あそこの空き地に駐めよう」
「了解よ」
エイダさんが空き地の高低を計測して駐めやすい場所を図示してくれた。
カロルはふわりと着陸した。
「カロル先生、凄いですっ」
「やあね、やめてよナタリー」
カロルの錬金のお弟子さんのナタリーに褒められてカロルは赤面した。
「おお、行こう行こう」
「「「いこういこう」」」
子供達がドアを開けてメイン操縦室から飛び出していった。
まだハッチは開けてないのだが。
「エイダさん、ハッチを開けてあげて」
【了解しました】
船を下りると困惑顔の気球工房のおじさんがお出迎えである。
「いやあ、なんて物で来るんだね、あなたは」
「飛空艇で」
「ど、どうだい、少し負けるから後でこれに乗せてくれないか」
気球工房なんて浮世離れしてる職業をしてる人だ、空への憧れが強いんだろうなあ。
「いいよ、商談が終わったら乗せてあげるよ」
「そりゃあ嬉しい、飛空艇なんか生まれて初めて乗るよ」
迷宮都市に飛空艇で飛ぶような学校は魔法学園ぐらいだからなあ。
庶民のみなさんには縁の無い乗り物だ。
「おー、籠だ、籠だ!」
アダベルが籠を見つけて駈け寄った。
「五人乗れるかな? 私たちなら乗れるかな?」
「子供なら可能だな。所でこれを付けるドラゴンてのはどこだい?」
「わたしっ!」
「あっはっは、冗談はいけな……」
アダベルがぼわんと煙を上げてドラゴンになった。
近くで見るとでっかいな。
怪獣だ。
『我がそれを付けて子供を運ぶのだ、主人』
「は、はあ、さようでございますか……」
「悪いドラゴンじゃ無いから平気よ、おじさん」
「今日は信じられない事ばかり起こるよ」
そうだろうなあ。
「しかし、首からさげるのが一番簡単だが、どうなのだろうか」
アダベルは今、犬がするような感じで地面に座っている。
『上体を下ろすか?』
「飛ぶ時はどういう姿勢ですか?」
『こうだ』
アダベルは四つん這いになった。
「ぶら下げると揺れるかもしれませんね、うーんこれは難問だぞ。とりあえず仮に付けて飛んで貰いましょう」
『かまわぬぞ、主人』
アダベルがバッサバッサと羽ばたき宙に浮かんだ。
すっげえ風でとても迷惑だな。
そして下りてきた。
意外に体幹は揺れてない、気がするがどうなのかな。
「カロルは背中に乗ったとき揺れた?」
「そんなでも無かったわ」
工房から若い衆が沢山出てきてゴンドラをアダベルに設置した。
ベルトやら縄やらで大変そうだな。
「とりあえず、私が乗ってみます」
「「「わたしもわたしも」」」
「子供が乗るのは安全を確認してからね。おじさん、名前は?」
「あ、カイレと申します、カイレ気球工房のカイレです」
「私はマコト、よろしくね」
「当代の聖女さま!!」
カイレさんは昼頃のインチキ治療師騒ぎは見ていなかったようだね。
近所なのに。
「私も乗るわ、障壁が使えるからもしもの時にはなんとかなるし」
「じゃあ、私も、チェーンゴーレムでガードできるわ」
「では、三人で乗ってみましょう」
『うむ』
「「「いいなあいいなあ」」」
金主特権なのだ、孤児達よ。
三人でゴンドラに乗り込んだ。
結構がっちりアダベルの胸あたりに固定されている。
でも、ぶら下がってるのには変わりないから揺れそう。
「アダベルさん、飛んでみてください」
『よし』
「揺らさないように静かに飛んでね」
『難しい事だな』
アダベルはバッサバッサとホバリングした。
ゆれゆれゆれゆれ。
「うっぷ」
カロルの顔色が悪くなったので『ヒール』を掛ける。
自分にも、カイレさんにも掛ける。
「ゆ、ゆ、ゆれま、ますな、あ」
「ぶ、らさがって、ているから、振れる、ねえ」
「こ、ていしない、と、だめだ、わ」
何しろゴンドラはぶら下がってるので羽ばたきのたびに左右の揺れを拾って揺れる。
うっぷ。
『だ、だめか?』
「いま、すぐに、おろし、て」
『わ、わかった』
もう一回みんなにヒールを掛けた。
アダベルは着地した、下りる瞬間に縦揺れしてゴンドラから放り出されそうになったが、障壁とチェーン君でなんとか押しとどまった。
「はあはあはあはあ」
「ひいひい」
「ふうふう」
「大丈夫ですかっ、カロル先生っ」
乗り心地最悪だわ。
もう一回、息も絶え絶えな二人に『ヒール』を掛けた。
「ありがとうございます。吊すのは駄目ですなあ」
「背中にくくりつけた方が良いんじゃないかしら」
「あと、蓋はいるね、絶対。子供達がこぼれ落ちる」
「ですね、網というか、格子の蓋が良いかな」
ぼわんとアダベルが人化した。
するっとゴンドラは抜けた。
「だめかー」
「吊すのはだめだわ」
「背中に乗ってる時は揺れをそんなに感じなかったから背中ね」
「装具を工夫しましょう。籠も改造しないとだめですね」
「前面に格子の扉を付けて、箱状の物に椅子かな。ベルト付き椅子で、背中に設置で」
「それが無難ですね、乗員は五人ぐらいですか?」
「それくらい有ると友達がみんな乗れて嬉しい」
「わかりましたよ、こういうのは楽しいのでやりますとも、明日、また来て下さい」
「良いの? 百万では足が出そうだけど」
「金じゃ無いんですよ、金じゃ。ドラゴンに乗って空を飛ぶ? そんな面白い事はやらずにはいられませんっ」
あ、技術者馬鹿がおる。
こういう人のお陰で人間の技術は発展するのだなあ。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




