第6話 入学式の前に、担任の先生に、めっちゃ怒られた
こんにちわマコトです。
めでたく、悪役令嬢ビビアン様の手先、悪漢マイクーを撃破したので、カロルの手を引いて、講堂に行って、入学式だっ。
と、思ったのですが……。
親友のカロル共々、生徒指導室に連行され、事情を聞かれ、めっちゃ怒られました。
入学式は一時間延期との事。
私らに、お説教しているのは、アンソニー先生。
マコトとカロルが所属するはずのA組担当の、国語のイケメンメガネの先生であります。
ちなみに攻略対象者でありますよ。
彼のハートをがっちりつかむためには、一に勉強、二に勉強。
図書館にこもりきりになれば普通に愛が芽生えますな。
あんまり攻略が簡単なので、ヒカソラファンからは「滑り止め」よばわりされてました。
温厚でいい人キャラであります。
ちなみに、ゲーム雑誌のヒカソラ人気投票では、堂々の第一位。
普通の乙女ゲーファンは無難なキャラがお好きなのでありますな。
意外に王子さまは敬遠されたりします。
これがBL者になると、また推しキャラが変わるので、ファン層の広さというものは不思議な物でございますね。
「特にキンボールさん、男性の大事な部分を蹴るとは何事ですか。そんな事では立派な淑女にはなれませんよ」
「いやまあ、ああしないとですね、ぼこぼこに殴られて学園を追い出されていたのですけど」
「それはそうですが、やり過ぎではないかと、侮辱されたのなら、平手打ち程度でも、その」
「近衛騎士候補が平手打ちでひるむものですか? 平民と見下してる相手にですよ」
「それは、まあ、その……」
マイクー相手だと、アレしか方法がないんだよ。
ライトの十二倍崩壊閃光で永遠に失明させても良かったんだけどさ。
「マコトはお転婆が過ぎると思いましたけど、私が出た場合でも鎖ゴーレムでぼこぼこにしたはずなので、マイケル卿の被害は、そう変わらないかと思いますよ」
「オルブライトさんまで……しかし、困りますよ、入学式前に女子と男子が決闘をして、男子を医務室送りにしただなんて、前代未聞です」
「私のメイドにハイポーションを持たせましたので、傷は治ると思います。心の傷はー、まあ、女子を殴ろうという愚かな紳士には当然の報いかと思います」
「なんともはや、最近のご令嬢は、お強いですね」
ドアが開いて、眼帯をしたメイドさんが入ってきて、カロルの後ろに立った。
うおー、カロルのメイドのアンヌさんだー。
本当に右目に眼帯しておる。
基本的に彼女が攻略相手の好感度を探ってくれるので、オルブライド家の戦闘メイドなのではないのか、一種の忍者ではないのかと、ヒカソラ雑談スレでは良くネタに上がっていた。
「ありがとう、アンヌ、ハイポーションは渡してくれたわね」
「はい、マイケル卿の命と男性機能は、特に問題は無さそうとの事です」
「それは何よりでしたね」
貴族は生殖機能大事だしなあ。
いくら偉ぶっても、貴族なんざ、お家の存続のための生殖機械なんだぜ。
がらりとドアが開き、ケビン第一王子と護衛の騎士が入ってきおった。
「これはこれは、ケビン様」
「楽にしてください、アンソニー先生。君たちも立礼は無用だよ」
むー、何しに来おった、王子様め。
事情聴取か?
「警戒も無用だよ、ここへは王子ではなく、ビビアンの婚約者として謝罪に来たんだ」
「「「!」」」
王族が謝罪?
「僕の婚約者が無茶を言って、カロリーヌ・オルブライト嬢と、マコト・キンボール嬢を困らせたね、今回は全面的にビビアンが悪かった、許してくれないか」
そう言って、王子様は頭を深々と下げた。
王族の謝罪という異常事態に私たちは声も出ない。
王族は謝らない。
なぜなら、彼らが国の中で一番偉いからだ。
彼らが何かを言えば、間違っていようと、それは正しい事になる。
馬じゃのう、と一声言えば、鹿の絵も、馬の絵になるのである。
「いえ、そんな、頭をお上げください、ケビン王子」
「謝罪は受け入れまーす」
「い、一周回って、君は凄いですね、キンボールさん」
なぜ、アンソニー先生が、私に動揺しているのか。
解せぬ。
王子はソファーに、どっかりと座り、額に手を置いた。
「ビビアンはいつも領地で過ごしていてね、そこでのやり方が学園でも通じると、勘違いしたみたいでね、きつく叱っておいたから、今回は勘弁してほしいんだ」
「……領地では、気に入らない平民を騎士が打擲する、みたいな事を日常的にしていた、という訳ですか?」
「そ、そうだね、それもたしかに問題だね。平民だったキンボール嬢には受け入れられない事かもしれないが」
「平民を人として見ない貴族は良くいますよね、ケビン王子」
カロルがにこやかに言葉をつないだが、なんだい、そのヒャッハーな世紀末世界は。
私が過ごしてきた、王都の平民、男爵家、大神殿だけが、特別優しい世界だったのかな。
「王立アップルトン魔法学園では、原則的に、すべての生徒が平等だ、ビビアンが、また君たちに身分の事で無理を言ってきた場合は、僕に話を通してくれたまえ、善処させてもらうよ」
さて、これはどっちだろう。
カロルのオルブライト家をつないでおきたいのか。
私の大神殿人脈を押さえておきたいのか。
たぶん、両方かな。
王家としては、錬金薬品の一大産地である、オルブライト領も大事だし、神殿に聖女をとられるのもまずいと。
だから、王子の謝罪という意表を突く手を打ってきたのか。
宰相の息子のジェラルドあたりの策かな。
こう考えると、ケビン王子は苦労人だねえ。
「さ、さあ、入学式がはじまります、皆さん行きましょうね」
「わかりましたー」
「お手数をかけました、アンソニー先生」
「オルブライトさんは、素晴らしい立ちふるまいですね、キンボールさんは、その、もう少しなんとかしましょうね」
え、私なんか、まずいことしてた?
解せぬ。
「あ、その、最後になるのだけれど……」
なんだよ、王子め。
「毒には気を付けて」
ビシッと音を立てて、部屋の空気が凍った。
そうだね、ゲームでも、すべてのルートの後半で、毒殺未遂が頻発するね。
「毒消しは持ってますよ。マコトも持って行く?」
カロルは、どこからか、青い液体の入った試験管を出してきた。
さすがは錬金術師だなあ。
「光魔法使いはもれなく毒無効の体質がついてるから平気。あと、キュアポイズンの魔法もつかえるよ」
「聖女には毒が無効なのか、それは……便利な」
「便利いうなーっ」
あ、いけない、手刀付きで、王子さまに突っ込んでしまった。
いかんいかん。
カロルが苦笑い、ケビン王子もきょとんとしたあと苦笑い、アンソニー先生も苦笑いであった。
「キンボール嬢、君は、なんだか面白いな」
そう言って、ケビン王子はにっこり笑った。
げ、笑顔がキラキラしておる。
イケメンめー。
ド、ドキッとなんかしてないんだからねっ。
ふんっ。
講堂へ向かう廊下で、カロルがどこから鎖やら試験管やらを出しているのか気になって、彼女のスカートをまくろうとしたら、すっごい怒られた。
すまんすまん。
ちなみに、錬金術師の秘密だそうだ。
無限収納袋でもあるのかね?
気になるカロルの下着はドロワースであった、かわええ。
四人で、講堂に入る。
最後の方だったらしく、みんな椅子に座って、こちらを見ている。
「いよっ、金的令嬢っ!」
みながどっと笑った。
なんだよ、歌舞伎のかけ声かよーっ。
「ぷっ、金的令嬢かあ」
黙れ、王子様め。
私が睨むと、ケビン王子は目をそらした。
私とカロルが席に着くと、ケビン王子はすたすたと前に進み、壇上に上がっていった。
答辞を読むのかな。
「生徒諸君、全員起立。校歌斉唱」
生楽団から、ブンチャカと音楽が流れ出し、王立学園の校歌をみんなで歌う。
ちなみに、ヒカソラというゲームは、細かいところに異様に凝っていたので、校歌も実際に流れていた。
なつかしいなあ。
入学式は、学園長先生のお言葉、在校生の歓迎のお言葉と続き、新入生の答辞となった。
やっぱり答辞はケビン王子であった。
朗々と言葉を並べ、さすがは王子という風格であった。
答辞を聞きながら、A組のブロックを眺める。
あ、あの銀髪は、氷の貴公子エルマーだな、あとは、陰険メガネのジェラルドがいる。
ケビン王子を合わせると、A組の攻略対象は三人か。
隣のB組に、第二王子のロイドちゃんがいるな。
ショタ担当の人だ。
王家にはもう一人、第三王子がいたのだが、死んだ。
六年前の春に、第三王子さまと、ビビアン様との婚約が決まり、その年の秋に王子は死んだ。
そして二年後、ケビン第一王子とビビアン様の婚約が発表された。
第三王子との婚約を不満とした、ポッティンジャー公爵家の毒殺、という噂が王都に流れた。
先のケビン王子の「毒に気を付けて」発言はそういう事なのだ。
ポッティンジャー公爵に都合の悪い人間は、毒で死ぬ。
そう、とても沢山死んでいる。
これからも、沢山毒で死んで、ポッティンジャー公爵家はきっと大きくなっていくのだろう。
こわいこわい。