第692話 アギヨンの街の悪徳治療師をとっちめる
「そうかそうか、僕が引きこもっている間に世間ではそんな事が起こっていたのか」
ヴィクターが今回の顛末をかいつまんで説明した。
エーミールは私を見た。
「聖女となれ合うのは気が進まないが、キルヒナーを討ち取るというのは魅力的だ。今回に限って協力をしよう」
「ありがとう、助かるよ」
そしてエーミールは壁に掛けてあったボウガンを手に取った。
「その前に付きあってくれ、イカサマ治療師から僕の金を取り返す」
まあ、そうだろうなあ。
付き合おう。
エーミールは玄関を出た。
「お坊ちゃま、目がお治りになったのですねっ、おめでとうございますっ」
「うむ、爺やには心配をかけたな、もう本調子になったよ」
執事さんが感極まって泣き出した。
エーミールは蒼穹の覇者号を見上げた。
「うちの屋敷に飛空艇が横付けされるとは……、夢にも思わなかったよ」
「なんでも最初はある」
エーミールは爺やさんに馬車を出してくるように命じた。
程なくして綺麗な馬車が現れた。
洒落者のエーミールらしい流行の馬車だな。
われわれは馬車に乗り込んだ。
「なんで教会で治療してもらわなかったんだ?」
「ちゃんと教会系の治療師だ、イカサマをやっていたとは思わなかったんだ」
なんと教会の関係者がそんな事を。
教皇様に言いつけてやろう。
馬車は小ぶりな教会に横付けされた。
エーミールはボウガンを担ぐようにして馬車を下りた。
私とヴィクターとダルシーも下りた。
エーミールを見るなり尼さんがダッシュで教会の中に飛びこんでいった。
そしてふくよかな司祭さんが出てきた。
「こ、これはこれはエーミールさま、目が治りましたな、治療薬が効いたのですな」
「セロー師、これは別の治療師がハイヒールで治してくれた」
「そ、それはそれは……」
「その者が言うにはハイヒールで十分なおる、それどころか簡単な治癒魔法でも何回かに分ければ治ると言っていた」
「こ、こまりましたな、部外者が勝手な事をされては……。その者が治せたのは、我々の治療があっての事です、目の病気を侮ってはなりませんぞ」
「うるさい、黙って僕の払った金を返せ」
「……」
セロー師と呼ばれたおっちゃんは目を据えてエーミールを睨みつけた。
「私は眼科治療師として長年の経験がある。どこの者ともしれない未熟な治療師に騙されてはいかん。金は返さない。どころか、エクスポーションの前金は払ってしまった、半金の一千万ドランクを払ってもらおう」
「なんだとーっ」
ああ、双方、頭に血が上ったみたいだな。
「しかし、なんでそんなにふっかけたんですか? 相場からしてぼりすぎですよ」
「なんだっ!! この女学生はっ!! 小娘が黙っていろっ!!」
セロー師の表情が鬼のようになった。
おおコワイコワイ。
「この者が私の目を治してくれたのだ」
「ははは、初歩の治療魔法をかじった小娘と長年沢山の患者を診てきた私とどちらを信用すると思っているっ! ふざけるな小娘めっ!!」
「事実この者の治療で治った。だから金を返せ」
「絶対に返さないっ!! あなたの目が悪化したのは聖女さまを狙撃するという暴挙の天罰だ、我々が間違っていた訳ではないっ!! だから金は返さんっ!!」
天罰なあ。
「よし、こんな売僧の居る教会はアギヨンにはいらんっ、私、エーミールは領主の息子として、セイラン教会を追放させてもらうっ!!」
「神罰があたりますぞっ!! 教皇さまに言いつけて聖堂騎士団を動かしてもらいますっ! 聖女さまにお話を通せば、きっと解ってくれますっ!! 私がわざとあなたの目を治さなかった事は女神の意向に沿う物なのですからっ!!」
「なんだと、お前は、わざと目を治さなかったのかっ!!」
「そうだ、目を治したらお前は、また聖女さまを狙うっ!! そんな事は神職として許せないっ!!」
なんだろうな、話がねじれまくってるぞ。
「教会への信仰の為でもいい加減な治療をしたら駄目でしょう。そしてそれでなんで大金をふっかけるのよ」
「だ、黙れ小娘めっ!! さっきから聞いていれば偉そうなっ!! こいつらポッティンジャー公爵の連中は法敵!! 法敵を騙して金を巻き上げるのは正しく功徳なのだっ!! なぜそれが解らんっ!!」
こいつは駄目だな。
信仰詐欺師だ。
私は息を吸い込んだ。
「セローよ、そこにひざまずけっ!! お前は女神さまから賜った神聖なる治癒の力を私欲の為に使った! その罪は許されないっ!! 聖心教司祭マコト・キンボールの名の下にお前を破門するっ!!」
「え……?」
私は一抱えもあるぐらいの大きさの光球を発生させ、空に打ち上げ破裂させた。
あたりが白光に包まれた。
尼さんたちがひざまずき私に頭をたれた。
セロー師は腰を抜かして呆けてこちらを見ていた。
「ほ、本物の聖女さま……、ですか……」
「そうだ、おい尼さん、教会の金庫から三百万ドランク持って来てエーミールに渡してやれ」
「で、でも……」
「私が許す! なぜなら私は聖心教の聖女なのだから!!」
「は、はいっ!!」
尼さんが教会に駆け込んでいった。
セロー師は泣きながら私を拝んだ。
「お許し下さい、お許し下さい、信仰のためだったのです、お怒りならばお金は返金いたします、ですからどうか」
「どんな大悪人でも治療において手を抜くのは教義に反します。私は破門が順当だと思いますが、教皇様は処刑と言われるかもしれません。大神殿より沙汰があるまで教会で謹慎していなさい」
「はい……」
これにて一件落着。
「さあ、行こう」
「まってくれ、数えている」
「んもう」
三百枚の一万ドランク金貨を数えるのは結構大変だな。
十万ドランクのプラチナ貨幣もあるんだけど、あまり流通していないのだ。
なんだか、アギヨンの街の片隅に信仰空間ができたみたいで、町民の人達が私を拝んでいる。
ダルシーもうっとりとした目で私を拝んでおる。
「本当に聖女なんだな」
「知らなかった?」
「あまり実感がなかったが、きちんと悪を断罪するところは、さすが聖女という感じだ」
ヴィクターは感心したように言った。
わたしを何だと思っていたのだ。
クロの中の人よ。
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