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第691話 エーミールはなんだか哀れな感じだった

 ヴィクターと飛空艇に乗り込む。

 男性と二人きりだと気詰まりだなあと思って居たらダルシーが珍しく姿を現したまま立っている。

 うむ、それでいい。

 なんかちょっとムッとしている感じがするが、気のせいだと思いたい。


 カロルとアダベルが飛空艇を見つけてやってこないうちに離陸しよう。

 そうしよう。


 操舵輪を引いて垂直上昇、ポッティンジャー領を目指す。

 魔力はまだまだあるから良いね。

 使ってない増槽はあと一つあるし。

 ビアンカさま、さまさまであるよ。


「ディラルさんは変わりない?」

「変わりない、真面目に働くので村に受け入れられたようだ」


 それは何よりだ。

 山高帽の半分は、農村で静かに暮らしてほしいね。


「ジーンからやってくるのは呪矢使いだけかな?」

「いや、三部隊ほどが動いているようだ。狙撃部隊と、暗殺部隊、攪乱部隊のアップルトンへの移動を確認した。まだ居るかもしれない」

「うわ、大勢来るね」

「何としてもアップルトン国内でディーマーを暗殺し、それを元に戦争に持っていきたいようだな。甲蟲騎士がこちらに寝返ったので『城塞キープ』も本気だ」


 そうか、対甲蟲騎士団だからマジな戦力が来るのだな。


「『タワー』も臨戦態勢に入った、さながら開戦前夜という所だ」


 三隊あるうちの一隊は『タワー』に頼もう。

 こちらは狙撃部隊と暗殺部隊を対処する感じかな。


「主戦場はどこだろう」

「王都とホルボス山だ。皇子が帰国するまでホルボス山に置いておくのも手だな」

「国家行事があるからそれは無理ね」


 ホルボス山にターゲットをまとめると迎撃がしやすいのだけれど、公式行事をほったらかす訳にはいかない。

 まったく、早く帰れよ、だよなあ。


 なんだかんだヴィクターと話していたらポッティンジャー公爵領に入った。


「エーミールはどこにいるの?」

「アギヨンの街が奴の領地だ、領館にいる」

【アギヨンの街へのルートを表示します】


 ペコンと音を立ててマップの上に赤いルートが表示された。

 そんなに遠くないな。

 私はアギヨンの方向へ舵輪を傾けた。


「どこに降ろすかね」

「馬車溜まりに降ろせ」


 馬車溜まりあるんだ、大邸宅だな。

 エーミールのくせに。


「十傑衆の半分ぐらいは貴族の子息だ」

「そうなんだ」

「ジェイムズさまの頃に取り立てられて継続している者が多い」


 マーラー家とか、ピッカリン家とかは十傑衆だったのかね?

 時々入れ替わる感じかな。


 ヴィクターの指し示した大邸宅の馬車溜まりに飛空艇を降ろした。

 何事かと家令さんがやって来るのがディスプレイ越しに見えた。


 ヴィクターと、ダルシーと、私の三人で船を下りる。


「これはこれはヴィクターさま」

「エーミールはいるか?」

「はい、自室にこもっておられます」

「そうか」


 なんか執事の格好のくせに偉そうだぞヴィクターは。

 名目が執事なだけなのかもしれないが。


 ヴィクターは慣れているのか勝手にエーミールの邸宅へずかずか入っていく。

 追いかけるように私とダルシーも早足で歩く。


「エーミール、ヴィクターだ、入るぞ」

「ああ、ヴィクター良く来てくれた、相談があるんだ」


 ヴィクターはドアを開けた。

 中には目が白くなったエーミールがしょんぼりと窓際に座っていた。


「悪いんだが、お金を貸してくれないか。どうやらエクスポーションでないと目が治らないというんだ、もう三百万ドランクも掛けたのに効果があまり良くない」


 あー、何か騙されてるぞエーミール。

 三百万ドランクも掛かる訳はないな。

 ハイポーションの良いのを使えば治るから、掛かって五十万ドランクぐらいだよ。


「必要無い、腕の良い治療師を連れてきた」

「本当かい、ありがとうヴィクター、君は本当の友達だよ」


 エーミールはポロポロと涙を流した。


「泣くな、お前は十傑衆だろう」

「目が見えないのがこんなに怖い事だと思わなかったよ。本当に心細くて気持ちがどんどん沈んで行くんだ」


 うーん、さすがに可哀想だから、ちゃっちゃと治そう。


「すぐ終わりますからね」

「ああ、女の人なのか、やさしそうな声だ。ありがとうありがとう」


 私はエーミールの目の上に手を置いた。


『ハイヒール』


 青白い光が手から出てエーミールの目を癒やしていく。


「え、ハイヒールで治るんですか」


 お釣りが来るぐらいだね。


 エーミールの目の濁りが消え、黒目がはっきりと見えるようになった。


「ああ、声の印象どおりのやさしそうできれいな……、女学生……? お、おまえはっ!! 聖女マコトっ!!」

「ピンポーン」

「それは何だ?」

「当たりの音」


 エーミールは取り乱して椅子から転げ落ちた。


「どどど、どうしてだっ、なんで俺の目を潰した女が治療に来るんだっ、説明しろヴィクター!」

「アップルトンで一番治療が上手い女を連れてきただけだ」

「あんた、悪徳治療師に騙されてるぞ」

「そ、そうなのか?」

「教会の癒やしの水とかアースヒールでも複数回で治るぞ。ポーションならハイポーションだな」

「そうなのか」

「なんだよーっ!! 三百万ドランクも掛けて、そのうえエクスポーション代で二千万ドランクって言っていたぞ、あいつめーっ!!」


 酷い治療師がいるなあ。

 とっ捕まえて返金させた方がいいな。


「それでは、お前は私に二千三百万ドランク分の借りができたわけだ」

「な、なんだ、俺に何をさせるつもりだっ、おれはポッティンジャーを裏切ったりしないぞっ!!」

「裏切りは必要無い、敵はジーン皇国の『城塞キープ』。呪矢使いのキルヒナー。お前の狙撃の知識を使って奴の狙撃の妨害と迎撃を行って貰う」

「なに? キルヒナー……、それは」


 エーミールの目に力が戻った。


「……面白い。詳しく事情を説明しろ」


 よしよし、狙撃屋ゲットだぜ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一月くらい目がやられてたのかな?
[良い点] エーミールのマコト様の姿に驚きつつ、 今の「敵」が誰かを聞くと、 鋭く変わるのはやっぱりアップルトンっていう国が 好きなんだなぁとわかってほっこりしました。 この調子でポッテン派もマコト派…
[一言] よっしゃカウンタースナイパーゲットなんだぜ
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