第68話 ダルシーを連れて207号室へご挨拶
ダルシーと一緒に階段を上がっていく。
「昨日はどこに泊まったの?」
「大神殿にもどりました」
「そうだったんだ、ごめんね」
「いえ」
ダルシーはやっぱり無口だね。
二階の廊下をどんどこ歩く。
205号室前にさしかかった。
「ここが私の部屋だよ」
「わかりました。朝にお世話に参ります」
「いらないよー」
「しかし」
「生粋の令嬢じゃないから、着替えの補助も、身繕いの手伝いもいらない、自分でやるから」
なんだよう、なんで残念そうなのだ。
メイドはお世話が喜びなのか?
205号室のドアが細く空いて、マルゴットさんの目が見えた。
「おはよう、マルゴットさん」
「うわ、ダルシーだ」
「マルゴット……」
ちょっ、ダルシーなんで殺気出して拳を構えてるんだっ!
「ダルシーだよ、私の諜報メイド」
「……後でそいつに、前の主人の事を聞いて、大神殿に返すか決めなよ」
「な、なんだよっ、マルゴットさんらしくないよ」
マルゴットさんは返事をしないでドアを閉めた。
ダルシーの顔を見ると、目を伏せてそっぽを向いた。
君、何したん?
ま、まあいいや。
207号室についた。
ドアをノックする。
「はあい、どなたですか」
「こんにちは、この部屋のベットを使うメイドを連れてきました」
「あ、聞いてる聞いてる」
ドアを開けて出てきたのは、ナッツ先輩であった。
「あ、金……、いやマコトさん、こんにちは」
「先輩じゃないですか、ここは先輩の部屋だったんですか」
「えへへ、ラクロス部の三人で住んでるんだよ」
「なになに、あ、マコトさんだ、こんばんはー」
「どうしたのどうしたの?」
わあ、ラクロス三勇士先輩方の部屋だったのか。
「うちのメイドのベッドを頼んでいたのですが」
「聞いてる聞いてる、その子?」
「そうです、ダルシーと言います、宜しくおねがいしますね」
「宜しく」
私が頭を下げると、ダルシーも頭を下げた。
「マコトさんのメイドさんなら大歓迎だよっ」
「食堂でお世話になってるしね」
「歓迎するよー、よろしくねー、ダルシーさん」
良かった、三人ともいい人だ。
「じゃ、ダルシー、自分のベッドを整えておきなさい」
「はい」
「私はこれで、先輩方、また晩餐の時に」
「楽しみにしてるよー」
「ダルシーちゃん、よろしくねー」
「あなたのベッドはこっちだよ」
「ありがとうございます」
うむ、ラクロス三勇士の先輩方なら安心だ。
あの人たちはいい人だしな。
さて、ダルシーを部屋に仕舞っちゃったから、次はと。
205号室から、コリンナちゃんが顔を出している。
「コリンナちゃん、帰ってきたよ」
「お帰り、大神殿はどうだった?」
「あんまり変わりは無かったよ。コリンナちゃんの方は?」
「特に無いね、食堂もトラブルは無かった」
「そうかそうか、何より」
「もう、街に繰り出すのか、マコト?」
「どうしようか、カロルに都合を聞こう」
「聞こう」
二人で小走りで五階まで駆け上がる。
そして二人して息が切れる。
きっつー。
「はあはあ」
「はあはあ」
荒れた息のまま廊下を歩き、カロルの部屋に向かう。
お、販売カウンターにアンヌさんがいるぞ。
「アンヌさん、カロルはいるかな?」
「はい、お待ち下さい」
アンヌさんが引っ込んで、部屋のドアが開いて、カロルが顔を出した。
「おはよー、カロルッ」
「おはようカロル」
「おはよう、マコト、コリンナ、入って」
私とコリンナちゃんは錬金室に通された。
並んでソファーに座ると、アンヌさんがハーブティを出してくれた。
カロルは錬金釜に混ぜ棒を差し込んでぐるぐる回している。
「ちょっとまってね、ポーション作っちゃうから」
「うん、大丈夫」
「居心地がいいわね、ここ」
「ありがとう、コリンナ」
コリンナちゃんがお茶に口を付けながら、ちょっと赤くなった。
アンヌさんが虚空を振り返った。
「ダルシー」
そういうと、彼女はパンチを繰り出した。
ダルシーがいきなり現れ、アンヌさんのパンチをさばく。
「ふむ、腕は落ちていないようだ」
「……」
目にもとまらないパンチとキックの応酬が、諜報メイド二人の間で交わされた。
「わ、私の諜報メイドのダルシーよ」
ダルシーは一歩下がり、頭を下げた。
「よろしく、私はカロルよ」
「宜しくおねがいします、カロルさま」
「コ、コリンナよ」
「宜しくお願いします、コリンナさま」
ダルシーは丁寧に頭を下げた。
「ダルシー、マコトさまは素晴らしいお方だ、命に替えてもお守りしろ」
「わかっている」
アンヌさんが言うと、ダルシーは小さくうなずいた。
「私からもお願いね、マコトは危なっかしいから守ってあげてね」
「かしこまりました」
カロルが錬金釜をかき混ぜながら、ダルシーに声をかけた。
「というか、こいつは馬鹿だからさ、大変だろうけど、守ってやってよ」
「一命を賭してもお守りいたします」
コリンナちゃんまで。
なんだよう、私はそんなに危なっかしいかなあ。
なんかみんなが、私をお子様あつかいで過保護でこまるよ。
ポンと錬金釜から音がして、液面が緑色に変わった。
「さて、終わり終わり、アンヌ、瓶詰めをおねがいね」
「かしこまりました」
まだお店が始まるまでには早いから、三人で何をしようかな。




